衝突
「やべ~、全部旨そう」
キキは口にあふれる涎を何度も飲みこんで、祭り会場である時計台の周りに並ぶ出店を覗きこんでいた。食べ物を扱う店がほとんどで、立ち上る香ばしい香りがキキの腹を刺激し、空腹に痛みすら覚え始めていた。
「~~~迷うなんてバカバカしい!全部喰う!」
ササに無駄遣いをするなと言われ、一応自重しようと考えていたキキだったが、旨そうな食べ物を前に、そんな思いは脆くも崩れ去ってしまった。
キキは先ほどから殺人的に旨そうな匂いを漂わせていた屋台に入り、一つ注文する。甘辛いタレで焼いた鶏肉をパンで挟んだそれに、キキの喉が大きく鳴る。渡されその場で即齧りつくキキの勢いに、店主は目を見張った。
「そんなに慌てて食わなくても、パンは逃げやしねぇぞ?坊主」
そんな店主の言葉を気にせず、キキはものの数秒で完食すると、口周りに着いたタレを指で拭う。
「ごっそうさん」
唖然としている店主を残し、キキは次の店へと向かった。
七軒目の屋台で白身魚の唐揚げにアンを掛けた物を食べて、ようやくキキの勢いが弱まった。それでもまだまだ腹には余裕があり、屋台巡りを止めるつもりは毛頭ない。呼び出されるまで食べ続けるつもりだった。
(ん~一回甘い物でも食べようかな)
確か時計台から離れた所に、果物をチョコレートでコーティングした旨そうな物を売っている店があったと思いだし、キキはそちらに足を向ける。道が混んできて、やたらと進み難いと感じていたキキだったが、ようやくその原因に気付いた。
(俺、流れに逆らってんのか)
皆キキとは逆の方向――時計台に向かっていた。
(何かあるのか?)
屋台を閉めて時計台に向かう者までいて、村で祭りをやっていると知らなかったキキは当然何があるのか知らず、そちらが気になりだした。恐らく、それがいけなかった。
よそ見をしながら歩いていたキキは、ドン、と何かとぶつかってしまう。視線を正面に戻せば、フードを被った頭一つ小さい人が体勢を崩そうとしている所で、キキは反射的にその人の腕を掴んだ。途端、ピリッ、と静電気が流れたような感触が起きて、お互いに顔を見詰めた。
空の色の瞳に、ちらりと見えた白髪――
ドクン、と心臓が大きく鼓動を打つ。ぞわぞわとした感触が背中を流れ、鳥肌が立つ。
本能で、キキはそれが誰であるかを悟った。幼き頃は崇め、今は憎しみすら感じる相手――
〝審判者〟だ。
まさかこんな所で出会うとは思わず、言葉の出て来ないキキに、しかし彼は興味が無さそうに視線を外してキキの手を振り払った。そして、そのまま時計台の方に向かって行ってしまう。
(……え、何?気付かなかったの?俺が、〝使徒〟だって……)
呆然と佇むキキに、人々の奇異の目が向けられる。だがそんなことを気にしている余裕は、キキにはなかった。胸の内で暴れまわる怒りの炎を、静める方法が分からなかった。
(……ふ、ふざけんな……ふざけんなよ!てめぇが呼んだんだろ?!明日までに来いって言って、こっちを呼びつけておいて、自分はこんなとこで何やってんだよ!)
食に走る己の事は棚に上げ、キキは〝審判者〟を非難する。彼を待ちわびる仲間の姿を思い出し、キキは唇を噛んだ。だが、一番彼が苛立ったのは別のことだった。
(てか気付けよ!)
自分は分かったのに、向こうが分からないことが何より腹立たしかった。分かった瞬間、喜びに叫びだしそうになった己の隷属精神が、何より許せなかった。憎い相手のはずなのに、幼い頃から刷り込まれた従属根情は己の意思とは関係なく彼を主と認め、その存在を傍に感じることに歓喜する。でも〝使徒〟など〝審判者〟にとっては取るに足らない存在なのだ。それをまざまざと見せつけられ、キキは屈辱に震える。
(ふ、ざ、け、ん、な!)
キキは〝審判者〟を追って、時計台の方へと走り出した。
読んでいただきありがとうございました!
個人的に、キキ君が大好きです。もっと前から出してあげたかったなぁ。。




