貴方の隣で
歌姫の準備の為に、レベッカは朝早くから村に出ていた。村の中央にある時計台の下の舞台で、流れを確認して実際に動線を確認する。間違えないだろうか、と緊張するレベッカの姿は大人達には可愛らしく映り、皆が「大丈夫」と励ましてくれた。
そして今、レベッカは学校にいた。毎年学校の女生徒から歌姫が選ばれ、彼女達の緊張を解すためにも慣れ親しんだ空間の方が良い、ということで、学校が歌姫の控室になっている。そこで、村の女達に歌姫の衣装を着付けてもらい、化粧を施す。華やかな衣装を着て、産まれて初めて化粧をして、レベッカは興奮していた。
「ん。出来たわよ」
出来栄えに満足したように微笑む女に促され、レベッカは鏡の前に立った。そして、息を飲む。
鏡に映っていたのは、天界より遣わされた天使のように美しい少女だった。
ギャザーの入った裾の長い白のワンピースの上に、黄、緑、青、赤の薄いシルクで出来た布を、腰の装飾品で留めた歌姫の衣装。黄は母なる大地を、緑は豊かな実りを、青は潤満たる水を、赤は降り注ぐ陽を、それぞれ表している。レベッカの体型に合わせて詰められた衣装はぴったりとレベッカの細い肢体を包み、神聖な雰囲気を醸し出していた。薄く入った頬紅が少女の肌をより白くみせ、色づいた唇は熟れた果実のように艶やかで、見る者の目を奪う。人間離れした美しさに、少女を飾った女達ですら感嘆のため息をついた。
レベッカは鏡に映るのが自分だと信じられず、咄嗟に高く結わえられた髪に触れる。女達から「こらっ!」と叱られるが、鏡の中の天使も髪型が崩れた事で、ようやくこれが自分なんだと実感できた。
(絶対後で化粧の仕方を教えてもらおう!)
興奮の坩堝の中で、レベッカはそう決意する。だってこの姿なら、ヴィラの隣にいても絵になると思ったのだ。神々しいまでの美しさを持つ彼の隣に、この姿ならいても良いとレベッカは思った。きっと、ヴィラも気に入ってくれるはずだ。
(あ~あ、やっぱり見に来てってお願いすれば良かった)
朝になってようやく歌姫をやることをヴィラに告げたが、その時もお願いすることは出来なかった。とにかく彼は目立つのだ。美しい顔も勿論だが、艶やかな白髪や体に入った刺青は絶対に人目を引き、存在を隠さなければならないヴィラを村に呼ぶことは危険だった。その判断は正しかったと今でも思うのだが、この姿を見てもらえないのが惜しい。
(一回この姿で家に帰っちゃダメかな?)
歌姫の衣装はこれしかないので、歌を終えたらすぐに脱がなければならない。だが、どうしてもレベッカはヴィラに見てもらいたかった。
(……こっそり逃げれば、分からないかも)
一生懸命崩れた髪を直す女を鏡越しに見やり、レベッカは頭の中で脱走計画を立てていた。
短いのでもう一話!




