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「聞いてくれたまえ!」
バタン!と騒々しく会議室に乱入してきた男に、その場にいた全員が固まる。なぜなら、今この部屋で話し合われていたのは、その男の捜索隊の編成についてであり、つまり男は何の連絡も寄こさず失踪していたからである。
しかし男は場の空気など何のその、と言った体で、興奮しながら自分の発見を発表する。
「妖精は実在したんだ!」
ピシッ!
と何かにヒビが入る音がして――
一人の青年が流れるような動作で腰に下げたサーベルを抜き放ち、男に迫る。それに気がついた周りの男たちが、慌てて青年を押さえこんだ。
「レ、レイモンド補佐官!落ち着いて下さい!」
「お気持ちは分かります!分かりますけど、ここは押さえて!」
「切り刻むのは夢の中だけでお願いします!」
「ええええい!離せ!斬り伏せないと納まらん!」
「ダ、ダメです!あんなんでも上官ですよ!?斬ったら処刑されちゃいますよ!」
「この世から奴を消せるのであれば、この命、惜しくはない!」
「補佐官!」
「……え、何、結構酷い言われようなんだけど、私」
「「「「将軍は黙ってて下さい!」」」」
「……はい」
その後、切れそうなほど血管を浮き上がらせたレイモンドが平静を取り戻すまで三十分の時を要し、その間『無敗将軍』と讃えられる男は、部屋の隅っこの方で小さくなっているしかなかった。
「……先程はお見苦しい姿をお見せ致しました」
乱れた軍服を正し、トレードマークの眼鏡に触れながらレイモンドが謝罪した。彼がいつもの姿に戻る間に、留守中に何があったか報告を受けた将軍は、流石に罰が悪そうな顔をする。
「うん。ごめんね?何か陛下から連絡あったんだって?」
ピク、とレイモンドの米神に血管が浮かび周りが緊張したが、どうにか乗り越えた。
「……はい。三回も。〝積荷〟の件について、報告せよと仰せでした。……三回目は誤魔化しきれず、将軍が直接報告するように、と」
「それで、捜索隊出そうとしてたのね……嫌だなぁ、絶対お小言頂戴することになる」
「私は既に二時間程お小言を頂戴しました。最終的には「脳なし」「役立たず」「給料泥棒」とまで言われました」
凄みのある笑みを顔に張り付かせたレイモンドに、将軍は「分かったよ」と諦めたように肩を竦める。
「……で、一体この二日間、何をしていたんですか?」
遊び呆けていたのなら問答無用で斬る!と殺気を放つ補佐官に、将軍はウィンクを飛ばす。
「妖精に、会っていたんだよ」
レイモンドはニッコリと笑い――その笑顔は精鋭で構成された隊の隊長格をも戦慄させる程恐ろしいものであった――再びサーベルに手を掛けた。
「まぁまぁ、落ち着きたまえ、レイモンド君。今ちゃんと説明するから……そうだな……良い報告と悪い報告がある。どっちから聞きたい?」
「悪い方からお願いします」
「うん。良い報告からにしよう」
レイモンドの首筋の筋が強張る。周りは戦々恐々としているのに、将軍は余裕すら感じさせる笑みを浮かべる。
「〝積荷〟を見つけた」
その言葉に、将軍を除くその場に居た全員が衝撃を受ける。将軍はいつもへらへらしているが、嘘は付かない。ならば、本当に〝積荷〟を見つけたのだろう。
「でも、一体どうやって……」
その場の全員が同じ疑問を顔に浮かべていた。四小隊が六日かけて探して見つからなかった物をたった二日で見つけ出すなど、可能なのだろうか。
「それを説明する前に、悪い報告――〝積荷〟は目覚めている」
全員が息を飲んだのが分かった。アレが目覚めるなど、そんな話は聞いていなかった。部下の動揺を感じながらも、それをあえて無視して将軍は続ける。
「墜落現場すら発見できていない、と聞いた時、違和感を覚えてね。そりゃ、四日目の段階でまだ未捜索部分が半分近く残っていたけど、墜落時の風向きや強さから考えて、奥の方に落ちた可能性は低い。そこで、誰かが痕跡を消してしまったという考えが出てくる訳だ。墜落現場の痕跡を消すことで得られるメリット――我々の捜索の妨害だ。では我々を妨害したいと思うのは誰か。まず思い浮かぶのはあちらさんだが、どうやらまだ墜落場所を特定できていないもよう、っていう報告があったくらいだから、彼らではない。じゃ、誰か――そう考えて、ようやく私は〝積荷〟が目覚めている可能性に思い至った」
ここまでを一気に話し、喉の渇きを覚えた将軍が飲み物を探すと、レイモンドはサッとお茶を出した。礼を言ってから将軍は口に含む。
「まず探しに行ったのは、誰も行けない、と言っていた森の泉のある辺り。そこでね、私は妖精のように可愛らしい少女に出会ったのだよ。気晴らしに、と少女と話してみると、どうやら彼女には想い人がいるようでね、いや~、ちょっと御節介でも焼いてみようかとその想い人の名前を聞き出して、村で聞き込みをしてみたんだ。そしたらどうだい?誰に聞いても「そんな名前の人はいない」と言われる――何かある予感がしてね、今度はその少女のことを調べてみたんだ。少女の名は、レベッカ・メーフィス」
「メーフィス?」
怪訝そうな声を挙げたのはレイモンドだった。そんなレイモンドに、将軍は褒めるような笑みを向ける。
「この名前に反応するとは、流石レイモンド君。勤勉家だねぇ。彼女は森の入口にある家で祖父と二人暮らしをしているんだが、この祖父の名が、セド・メーフィス――〝積荷〟の研究の第一人者だった人だよ」
ざわつく部下に、将軍は「臭いだろう?」と楽しそうに告げる。
「これは調べぬわけにはいかない、と村で徹底的に聞き込みをしてみたところ、服屋の店主から「三、四日前に少女が少年用の服を購入した」という情報を得ることができた。……少年の服なんて、彼女の家には必要のない物だ。ではなぜ彼女は買ったのか……誰か新しい住人が増えたと考えるのが、自然だろう?ただね、このままじゃ私の推測の域を出ない。そこで今日、少女に揺さぶりを掛けてみたんだ。…………面白いくらいに動揺してくれたよ」
将軍は今までの柔和な笑みを捨て、鋭利な刃物を思わせる笑みを浮かべる。
「まず間違いなく〝積荷〟は妖精に匿われている。だが、単体で恐るべき殺戮能力を持つといわれる〝積荷〟と正面からやり合うのは非効率的だ。そこで――妖精を人質にする」
将軍の言葉に、全員絶句する。
「し、しかし、一般市民を巻き込んでよろしいので?」
「このまま大量破壊兵器を野放しにするよりは良いと思わないか?」
「ですが、〝積荷〟は兵器でしょう?兵器が女の子一人を人質にとった位で、言う事を聞くとは思えませんが……」
「彼女の話を聞く限り、両想いらしい――恋愛感情があるのかは疑問だけどね。でもやってみる価値はあるし、それに彼女はただの女の子ではなく、妖精だよ」
「……妖精云々は理解しかねますが、了解しました。」
凛々しい声で作戦に賛成したのはレイモンドだった。「補佐官!」と未だ渋る仲間を、彼は冷たく諭す。
「『最小の被害で最大の損害を』――戦の鉄則だろう。あちらとの戦闘で、こちらも兵力に余裕がある訳ではない。使える物は使えばいい。泥臭かろうが意地汚かろうが、それが戦だ」
兵士としての模範解答に、皆口を閉じる。他を黙らせたレイモンドが将軍を見る。
「作戦の詳細をお願いします」
「ふふふ……レイモンド君は、真面目だねぇ……はいはい、怒らない怒らない。真面目にやります……妖精は明日、村の祭りで歌姫をやるらしい。祭りに〝積荷〟は来ないだろうから、その時を狙う。なるべく穏便に事を運べ。歌い終わった後、妖精に接触。本部に招待する。本部にも連絡をしておけ。彼女と顔見知りである私と第一小隊が妖精に直接接触にあたる。第二小隊は援護を。レイモンドは残りの小隊を指揮してこの支部から退去しろ。本部にて合流する。以上だ」
「サー」と敬礼し、各々が小隊へ指示に走る。部屋に残ったのは、将軍とレイモンドだけだった。
「私も接触部隊に入ったほうが良いのでは?」
もし〝積荷〟と戦闘にでもなったら、自分がいた方がいいとレイモンドは主張する。個人的戦闘能力が高いのは将軍も知っているはずだ。しかし、将軍は首を横に振った。
「そんな事になったら、すぐ逃げるよ。心配はいらない」
戦う気はない、と笑う将軍に、レイモンドは肩を竦めた。こうなると将軍に意見を通すことが難しい、と経験からレイモンドは分かっていた。諦める代わりに、とレイモンドはしっかりと釘をさした。
「陛下に連絡、ちゃんとしてくださいね」
「うっ……」
縋るような将軍の視線を振りきって、レイモンドは逃げるように部屋を出た。
読んでいただきありがとうございました!
次話より物語の進むペース上がります。




