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父親失格  作者: 達城翠嵐
諸葛喬編
14/16

諸葛喬編 最終話 「ふたりの」


「父親失格」 4年3組 諸葛瞻


僕の父は、我が国の総理大臣をやっています。   

何も知らない人たちからは偉大なる人物として崇め奉られているようですが、父親としては最低最悪です。仕事だ仕事だと言ってまったく家に帰ってこないし、帰ってきたと思ったらまたすぐにいなくなる、家族サービスなんて頭の中にないんじゃないか、という人です。そういう仕事だから仕方がない、と母も兄も言っていますが、僕はそうは思いません。なぜなら、兄の友達のお父さんは僕の父と同じ政治家という職業に就いているのに、休みは必ず家族と一緒に過ごしているからです。

他の人ができて、父にできないなんてことは有り得ません。

諸葛孔明には、もっと人の親としての自覚を持ってほしいと常々思います。


これは、僕がいちばん初めに書いてボツにしたものの一部です。

途中で変えたわけは、この作文を書いている間に、父に対しての見方が変わったからです。それは父の育ての親で、商店街で畳屋「くわのき」を営んでいる劉備さんに聞いた話がきっかけでした。


もともと内気で不器用だった父は僕と同じくらいの歳のときに一家離散を経験して、それからしばらく、独りを恐れていたそうです。幼いころの父がみたという、自分の周りにいた人たちが自分に気づかず離れていくなんて夢。僕ならみただけで生きていけなくなると思います。家族はもちろん、親戚、学校の友達や先生やご近所さん。


この人たちのうち一人でも欠けたらもう寂しいのに、父はその寂しさ全部を受け止めなければならない運命を背負いました。想像もできないほどの感情を秘めたまま、当時十一歳の父は、普通に生活していたそうです。そのことを知った時、本心ではただただ、すごいと思うだけでした。

父の過去は初めて聞いたし、しかもあの人にこんな強さがあるなんてほんとうに初耳だったから。


先日、強いはずの父が突然、仕事を含めた自分のすべてを投げ出して引きこもりました。僕はそのころはまだ何も知らなかったので、多くの人と同じく、なんであんな行動をとるに至ったのか、理解できませんでした。あまりの無責任と理不尽さに、人並みに怒りを抱いてもいました。

そのころは、なんにも知らなかったから。


首相・諸葛孔明が引きこもった原因は、直接的には養父の劉備さんが目の前で倒れてしまったこと。実はもうひとつ原因があって、先程書いた独りを恐れていたということとつながっています。


父にとって劉備さんは、ひとりぼっちで誰にも見向きされなくなっていた少年孔明を育て、守り、愛してくれた、ほんものの保護者です。父は劉備さんが「目の前」で「倒れてしまった」ことで昔悩まされた夢を思い出し、再び同じようなことが起きるのではと思ったのではないでしょうか。だからもう誰かを失う場を直視しないように、人との関わりの一切を絶ったのだと、思います。


分からない人には分からないかもしれません。

僕にもよく分かりません。

ひとつ言えるのは、「諸葛孔明」も、ひとりの人間なんだということ。


ボツにした作文にも書いたとおり、僕は父が嫌いです。それは今でもあまり変わりません。でも、前みたく自分の勝手な感情を押しつけて怒ることはしません。父も大切な家族で、あの人もそう思ってくれています。いつ失ってしまうか分からないから。もう二度と会えないんだと知ってしまう日は必ず来るから。


僕はもっと、強くなりたいです。

短い期間とはいえ独りに耐えぬいた、嫌いだけど尊敬もしている、父のように。





これを書いた、本人の口から聞いた時。僕は心からうれしく思った。

「終わりです…どうでしたお兄ちゃん、僕の作文…」

瞻が父さんと仲直り(?)をした。それから瞻は毎日机にかじりつき、書き直しの宿題となっていた作文を書いていた。とっくに、提出期限は切れているようだけれど。

「すごくよかった。瞻、文章を書く才能があるんじゃないか?小4がこんなにいいもの、普通なら書けやしないよ」

「そ、そうですか?」

照れながら顔を上げた瞻の顔は年相応のあどけない表情で、見ているこっちまで微笑んでしまう。とりあえず、父さんの恐ろしいほど鋭いあの雰囲気は受け継がなかったようだ。知らずうちに人を和ませられるのは母さんに似ている。ふたりのいいところを、上手く瞻が引きついだらしい。基本性格は、残念ながら父さん似だが…。

「ところでお兄ちゃんは、どんな風に書いたんですか?『家族について』って課題の伝統的作文。」

「僕?うーん、なんだったっけ。忘れたよ。瑾さんと父さんのことを書いた記憶はかすかにあるけどね」

「伯父さんとお父さんの?」

「たぶんね。部屋のどこかあさったら出てくるんじゃないかなぁ?」

「そんなこと言ったら僕、全力で探しますよ」

「…無かったらゴメンね」

会話にひとつの区切りがついた丁度そのとき、すぐそばにあった携帯が鳴った。

「あ、バクからだ」

きっと、今の父さんの様子を僕に聞くように、父親の法正さんから言われたんだろう。

父親に振り回される者同士。

あっちも大変だな。ほんとうに。

まあ、邈の苦労に比べれば、僕なんて大したことないか。

父さんは、僕に無理やり跡を継がせる気はなさそうだし。




「二人の父」 4年1組 諸葛喬


僕には二人の父がいます。僕が生まれるきっかけになった実父と、僕を養子にとった父です。七歳年が離れた彼らは兄弟で、兄である実父は諸葛瑾、弟は諸葛孔明という名前です。瑾はいつもにこにこしていて人当たりが良くて、優しい人です。でも少し厳しいところもあって、年子の兄、恪も、よく叱られていました。瑾は僕たちに、「自分みたいな人間にはなるな」と普段から言っていました。


優しくていつも笑顔でいい人なのに、どうしてそうなっちゃいけないのか不思議で、理由が知りたくて、何度も瑾に問いました。そのたびに瑾は悲しい顔をして、なんにも答えてくれませんでした。


対して孔明は、無口で無表情で、よくわからない人です。僕に甘いのか厳しいのかもわかりません。

そして、変な人です。赤ちゃんができて男の子だというのも知っているのに、予定通り僕を養子にむかえ、長男にしました。だから生まれたばかりの従弟の瞻は、うちの次男坊です。その意味もやっぱりわからなくて聞いてみましたが、孔明もなんにも答えてくれませんでした。でも代わりに、孔明は僕に聞きました。

「ほんとうの父さんのことが好きか、見習いたいか」と。

僕が「はい」と言うと、孔明はなぜか納得したようでその場を立ち去りました。

その眼はどこか、暗い色をしていました。


二人は同じような血が流れている兄弟なのに、全然似ていません。

性格も顔も人との接し方もものの考え方も、同じところがありません。

瑾は誰とでもすぐに仲良くなれますがごく普通の会社員、孔明は誰とも仲良しになれないのにとても優秀な政治家。


僕にはどちらが正しいのかわかりません。

ですがどちらも、僕の大切な父親です。


最後に。

瑾さん、父さん、名前呼び捨てにして、すいませんでした。


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