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第3話 待ち受ける者

「この国は見ての通り、死して動く者たちの巣窟になっている。この未憎悪の事態に隣国は、事態がこれ以上拡大する前にここを大魔術によって焼き払うことを決めた」

「焼き払うって…!そんな‼」


淡々と説明するボンドとは打って変わって、俺は声を荒げた。


「タイムリミットは日の出まで。それまでにここから出られなければ、俺たちは全員灰になっちまう」

「で、問題なのは出る時」


今度は魔術師のミラベルが指をピンと立てて話し始めた。


「まず大まかに、この国から出るルートは東西南北の四方向。東と西は死人で溢れかえっていて、まあ通れない。南は隣国の軍隊によって包囲されている。仮に脱出できても問答無用で隣国の兵士たちに殺されるでしょうね。こんな地獄が起こるリスクは最小限に抑えたいだろうから」

「ということは、残るは…」

「そう、私達が向かっているのはその北側。でもここで一つ問題があるわ」

「問題…ですか?」


ミラベルはこくりと頷いた。


「北側は魔族と呼ばれる種族たちが作った国の領地になっている。私達が脱出するならそこしかない」

「え‥?魔族は人間と敵対してないから安全てことですか?」

「そんなわけないでしょ?バリバリ敵対関係よ!」

「ええっ!?や、やばいじゃないですか!」

「まあ、その前に俺たちは門番を倒す必要があるんだがな…」


神妙な面持ちでボンドが話した。


「門番を倒す…?」

「これまでこの国の安全はある勇者一人の手によってによって守られてきた。名前はサトウ・マモル。彼は異世界から召喚され、それ以来この国の門番として幾度となく迫りくる魔族を退けてきた。だが彼は死んで、そして蘇った。死んでもなお彼は門前に立ち続け、国に出入りするものを処罰し続けている」

「勇者がゾンビに…?」

「そう、厄介なのはそこよ。勇者は世界から賜ったギフトを持っている。そして死んでもそのギフトは消えず、使用できるわ」


俺は馬車の進む先を見た。

これから向かう先に、そんな強大な敵が待っているのか…。しかも相手は俺と同じ世界から来た人物。既に死んでいるとはいえ、そんな相手と俺は戦わなくてはならないのか。


「彼を倒さなけらばこの国から出ることはできない。壁をよじ登って脱出しようにも、彼はそれを察知して飛んでくる。そして殺される。全滅した隊が最後に残した情報だ。決して無駄にはできない」


ボンドはいかつい顔を引き締め、先を見つめた。

まるでこの先にいるゾンビとなった勇者を見ているように、その顔は殺気立っていた。


「彼は魔法の兜を装備していたの。視覚を拡張することができて、彼は全方位をかなりの範囲視認することができるわ」

「…その人の持っていたギフトって、どんなものなんですか?」

「ギフトの名は“鉄壁”。バリアを生み出すことができ、強度は一級品。生半可な攻撃じゃあ、壊すことはできないわ」

「そんな相手、どうやって倒したら…!?」


「この中で奴のバリアを壊せるとしたら、私の魔法くらいね!準備に時間がかかるけど」


ミラベルは腕を組んで自慢げにそう言った。


「どれくらいの間、引きつければいい?」


真剣な眼差しで、ボンドはミラベルに聞いた。


「三分間」

「…正直厳しいな。相手はあの勇者だぞ?もって一分だろう」


ボンドはポリポリとそのツルツルの頭をかいた。


「だそうだけど、あんたはどれくらいやれるわけ?与えられたギフトは何なの?」


ミラベルの顔がくるっとこちらに向く。俺はその高圧的な態度にたじろいだ。


「実は、よくわかってなくて…」

「はあ!?なんでよ‼それくらい知っときなさいよ‼」

「だって、さっき召喚されたばっかりなんですよ!?」


俺はおどおどとしながら、なんとかミラベルの言葉に返答する。


「あんた、さっき土を土台にして降りてきてじゃねえか。それがあんたのギフトか?」


ボンドがこちらを見ていった。


「はい。土を槍みたいにして突き出したり、土台にして高いところに登ったり、土を操れるみたいです」

「うーん、土魔法特化のギフトとかかしら?まあ、足止めには使えるわね」

「なあ、土を自在に操れるなら地下にトンネルを掘って、そこから気付かれずに逃げられるんじゃないのか?」


ボンドが呟いたその言葉に、俺とミラベルは顔を合わせた。


「「あ…」」

「あんた見た目にそぐわず、頭いいわね」

「一言余計なんだよ」



ーーー

しばらく進み、ついに王国の端を囲う壁にたどり着いた。

近づいてみると想像以上の高さだ。


トンネルを掘るためにの準備として、壁の下3メートルほどの深さを掘り作業ができるよう十分な空間を確保しておいた。


「あの、アユムさん」


子共の声がして振り返ると、そこにはガーネットと弟のツツジがいた。


「ガーネット、どうした?」

「私たち、生きてここから出られるんでしょうか…?」

「大丈夫、俺たちが君たちを守る。ここから出してみせるよ。ほら、約束」


小指を差し出すと、ガーネットも小指を合わせてきた。


「わかりました。私、アユムさんたちのこと、信じます」

「アユム兄ちゃんのこと、僕も信じる」


弟のツツジも小指を合わせ、二人は戻っていった。


「あんた、男なら約束したことは絶対守りなさいよ?」


側で聞いていたミラベルが壁にもたれ掛かりながらそう言った。


「わ、わかってますよ」


そこへボンドが小柄な老人を連れてきた。

男はフラフラと歩きながら酒瓶を飲んでいる。近くへ来るとひどく酒臭い。


「アユム、こいつが元炭鉱夫のガゼだ。酒飲みでいつもこんな調子だが、知識と経験はピカイチだ。こいつの指示にしたがってトンネルを掘っていってくれ。俺と部下たちで寄ってくる死人どもを足止めする。安心して作業してくれ」


ボンドは部下たちを引き連れ、民衆とトンネルの入り口を守るようにして散開し始めた。


「ヒック、そんじゃあ坊主、まず細長い穴をいくつか作れ」

「は、はい」


右手をかざし、土の壁面に穴を開けていく。


「んでそこの生意気そうな小娘、あんたの魔法でこの穴を爆発させてくれ」

「誰が生意気な小娘よ!」


ドカンと土煙と共に爆発が起こった。


「ゴクッゴクッ…。そしたら坊主、砕けた岩を外に出すんだ」


手の先に意識を集中させる。

ドドドドと音を立てて雪崩のように出てくる。


「そしたら中にたまった粉塵を小娘の風魔法で外へ出す。次に俺たちが中に入って、俺が指示した形で岩の柱を設置し、穴が崩れないように強化する。その繰り返しで100メートルほど掘ってくぞ」

「うげえっ…めんどくさいわね」

ミラベルが眉間にしわを寄せて愚痴を吐く。

「うるせえ‼うだうだ言ってねえでテキパキやってくぞ、ヒック!」



ーボンド側ー


「これは、ちょっと想定外だな…」


爆発の音に寄せられて周囲のゾンビたちが集まってきていた。


「団長、死人の数100、200…それ以上です‼」

「みんな、わかってるな?一人ノルマは10体以上だ‼行くぞ‼」


みな必死にゾンビを斬っていくが、洪水のように押し寄せるゾンビの群れにひとり、また一人と食われていく。


「くそっ!噛まれたっ!嫌だ‥‥嫌だっ‼」


脚を噛まれた兵士は泣き叫んだ。だが十秒もしないうちにゾンビへと変わり果てた。


「やめろっ‼うわあっ!」

「シャアアアア!」


歯をむき出しにし、近くにいた仲間の兵士に襲い掛かった。首筋を噛みちぎり、肉を貪った。


「うおおおっ!」


兵士の一人がゾンビとなった仲間を斬った。

そして首を噛みちぎられた仲間の遺体が動き出す前に、ズシッとその脳天を剣先で貫いた。


「四人一組を忘れるな!お互いをカバーし合うんだ!」


ボンドは大声でそう叫ぶと一体、また一体とゾンビを斬っていく。

見事な剣さばきでなだれ込むゾンビに対抗していた。


「うわーっ!」

「な、なんだこいつら!」


突如、ドカーンと大きな爆発音がしたかと思うと、部下たちの体が爆散した。


「!?」


そこには見慣れない服を着た者たちが四人立っていた。

三人は男で、一人は女だった。皆ふらふらと体を揺らし、口には血が付いている。


「こいつら、まさか三日前に召喚された勇者たちか‼」


勇者たちは魔族との戦いのために国の北側へと移され、そこでしばらくの間、訓練を受ける。

彼らは北側へ旅立つ前にゾンビに襲われ、自らもゾンビに変わってしまったのだ。


「お前ら!そこの四人組の死人に注意しろ!奴らは元勇者だ!」


ボンドは鎧の内側からロケットペンダントを取り出すと、中の写真を見た。

そこには一人の中年の女性とたくましい青年の姿があった。


「どうか俺に力を貸してくれ」


ボンドはペンダントにキスをすると、四人組のゾンビに向かって走り出した。



ーアユム&ミラベル側ー


「!」


爆発した先をかき分けていくと、ついに外へ繋がった。

100メートルの簡易トンネルが完成したのだ。


「やった‼」

「やるじゃねえか!若いの二人‼」


老人のガゼがバンバンと背中を叩いてきた。

思ったより力が強い。


「あんたはここで待ってなさい!私はみんなを穴から逃げるように言ってから、ボンドたちの加勢に行くわ!」

「気を付けて!」

「言われなくてもそうするわよ!」


そういうとミラベルは宙に浮かび、すごい速度でトンネルを引き返して行った。



ーガーネット側ー


民衆たちは壁のすぐそばに固まっていた。

彼らを囲むように兵士たちがゾンビと戦っている。


しかし、兵士たちの数は減っているようだった。兵士たちの悲鳴が響いてくる。


男たちは棒切れや農具やら斧を手に取り、兵士たちの間をくぐり抜けてきたゾンビを袋叩きにする。


「いてーっ!いてーよー‼」


一人の若い男が腕を噛まれた。


「お前ら、そいつを抑えてろ!」


こんもりと髭を生やした大柄な男がそう言うと、周りの男たちが彼を地面に押し付けた。

そして彼の口に布を噛ませた。


「はへへふへーー!」


口の中の布が邪魔で言葉が上手く発せられないまま叫び泣く若者。


「ふんっ!」


男が斧を大きく振りかぶり、一気にずどんと下へ振り落とした。


「~~~っ!」


若者の腕はちょん切られ、彼は痛みに耐えかね気絶した。


「急いで止血だ!」

「あんた、しっかりしな!」


女たちがやってきて彼の手当てを始めた。


「怖いよ、姉ちゃん!」

「大丈夫、みんなすごく強いんだから、きっと全部倒してくれるよ」


弟をあやすガーネットだったが、自身も恐怖に震えていた。

そんな彼女の視線にとある人物が目に入った。それは子供とその母親だった。母親は子を離すまいとぎゅっと固く抱きしめていた。子の顔は隠れて見えなかったが、息遣いからひどく体調が悪そうだった。


「あの、大丈夫ですか、その子?」

「え!?あ、ええ、こんな時に風邪を出しちゃったみたいで…」


ガーネットはそっとその子の頭に触れてみた。


「え…」

「触らないでっ‼」


母親は狂ったような表情で怒号を吐き、その場から走り去った。


「冷たい…」


子供の顔は熱くなかった。それどころか心配になるほど冷えていた。


「まさか…!待って!誰か、その人を止めてっ‼」


ガーネットは指を差し、必死に叫んだ。

だがその時、人々の注意は別の馬車に注がれてしまった。


トンネルからミラベルが出てくると大声でこう叫んだ。


「トンネルができたわ‼落ち着いて、ここから脱出して‼」


そして兵士たちの元へと走っていった。


「おい!トンネルが開通したぞ!」


人々は我先にとトンネルへ押し寄せた。


「止めて!押さないで!」

「姉ちゃん…!」


ガーネットとツツジは人の波に押し流され、ギュウギュウとなったトンネルの中を進まされていた。

それでもガーネットは弟の手をギュッと固く握り、決して離すまいとした。


「戻って!死人がいる!この中に死人がいるのよっ‼」


必死の叫び声は暗いトンネルの暗闇に、ただ虚しく消えていった。



ーアユム側ー


「はあーっ、助かった…」


俺は安堵の息を吐いた、


「ん…?」

「……っ」

「なんだ?」

「助けて~~~っ‼」


それは悲鳴だった。大勢の悲鳴が暗い穴の奥から聞こえてくる。


「そんなっ‼」


市民の中に感染者が紛れ込んでいたのか!ボンドたちならゾンビに噛まれた感染者を放っておくはずがない。


「まさか…」


俺はマーガレットが目の前でゾンビになるのを見た。だから思い込みをしていた。噛まれてからゾンビになるまでは、ある程度の時間がかかるのだと。だが、ボンドたちが目にした光景は違ったはずだ。きっと、噛まれてからすぐにゾンビに変わったのだ。だから、噛まれてもすぐにゾンビにならなかった人間に注意が向かなかった。


トンネルの中は狭く、人ひとりが通れるほどしかない。それが100メートルほども続いている。あの中でゾンビに襲われたらひとたまりもない。


「ガーネット!ツツジ!」


咄嗟にあの二人のことが頭に浮かぶ。助けなくては!


俺は地上へ飛び出し、トンネルの頭上を一直線に走り出した。


「おい!正気か小僧!?戻れ、奴が来るぞ‼」


炭鉱夫のガゼが俺に呼びかけたが、俺は振り返ることなく走り続けた。走りながらトンネルの上に丸い穴を開けていき、壁には梯子となる出っ張りを岩で作っていく。しばらくそれを続けていくと、わらわらと人々が地上へ上がってきた。


「アアアアアアッ‼」

「キャアアアア~~」


ゾンビの唸り声と人々の叫び声が入り乱れ、草原は一瞬にして阿鼻叫喚の騒ぎとなった。


「ガーネット‼ツツジ‼どこだー!?」


二人を探しながらゾンビを見つけては土槍で突き刺し、岩を飛ばして撃ち抜いた。


「ガーネット!?」


暗闇の中、月の光が反射して金色の長髪が光った。

彼女は穴の中へ手を伸ばしている。


「ウオオオオオッ」


そこへ数体のゾンビが彼女へと向かう。

地面を踏みしめるたびにドドドドと馬が走るような衝撃音が鳴る。


俺は地面から無数の槍を突き出させた。ズドドドと槍がゾンビの体に突き刺さり、動きを封じる。


「アユムさん‼」

「二人とも無事か!?」


ガーネットは涙を浮かべながらも安堵の表情をこぼす。

穴の中には震えるツツジが岩の梯子を掴んでいた。


「ほら、掴んで」

「うん…!」


手を伸ばすとツツジはそれを掴んだ。

俺はツツジを穴から引っ張り上げた。


突然、スドーンと地面が揺れた。後方、それも近くに何か大きな物体が落ちたようだった。


「ウオオオオオッ‼」


土煙の中からすさまじい咆哮が聞こえる。


「な、なんだこの化け物…!」


中から姿を現したのは、2メートルはあろうかという身長と、パンパンに膨れ上がった筋肉をした大男だった。

銀色の鎧に身を包み、兜には大きなゴーグルのようなものが付いている。右手にはどでかいメイスを備えている。


「あれは…マモル様?」


化け物を見てガーネットが呟いた。


「こいつが、門番の勇者なのか…!」


ガーネットとツツジを後ろに下がらせ、俺は目の前の勇者と対峙した。


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