表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライトニングブラスト ~クラスごと異世界転移して無能の烙印を押された男が、青白い雷で理不尽な神々を殴り倒すまで~  作者: 赤腹井守
ライトニングブラスト篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/49

039 オフィスワーク・肆

 時間は、数分前に遡る。

 第八医務室で松野楓と合流した加賀瀬、ドーモス、ナランの四人は、空間転移の扉があるという『ドアルーム』を求めて、純白の回廊を駆け抜けていた。

 交差する通路を抜け、彼らは第二階層から第五階層までをぶち抜いた、アルカディアが誇る巨大な吹き抜けのアトリウムへと躍り出た。

 急ごしらえの四人パーティ。だが、その足並みがピタリと止まる。


「……!」


 加賀瀬は、吹き抜けを挟んだ向かい側の回廊に、見覚えのある男が一人、静かに立っているのを視界の端で捉えた。


 埃一つない純白の制服。余裕を崩さない営業スマイル。

 管理部長――楼門だ。

 距離にして数十メートル。だが、目が合った瞬間、加賀瀬の全身の毛が総毛立った。


(来るッ……!)


 加賀瀬が身構えるよりも早く、楼門の右手が空中で、まるでマウスを操作するかのように「スッ」と横にスワイプされた。


 直後。

 加賀瀬の身体は、数十メートルの吹き抜け空間を一瞬で無視し、向かい側の回廊――楼門の文字通り「目の前」へと強制的に『カット&ペースト』させられていた。


「――なッ」


 風切り音すら生じない、理不尽極まりない空間の省略。

 加賀瀬の眼前に、無表情に右拳を振りかぶった楼門の姿があった。

 刹那的な出来事に、加賀瀬は防御の姿勢をとることも、天を巡らせることも叶わなかった。

 ドゴォッ!

 鈍い音と共に、楼門の重い拳が加賀瀬の腹部を容赦なく抉った。


「が、はァッ……!」


 一秒にも満たない連続攻撃。加賀瀬の身体は吹き飛び、純白の床を無様に転がる。

 だが、彼はスラムや廃工場での死闘を経て、確実にタフになっていた。即座に床に手をつき、受け身を取って体勢を立て直そうとする。

 ――ヒュン。

 だが、視界が再び歪んだ。


「……ッ!」


 加賀瀬の身体は、立ち上がろうとしたその姿勢のまま、またも楼門の目の前――今度はゼロ距離の密着状態へと強制転移させられていた。

 瞬時に拳を握り、カウンターを叩き込もうとした加賀瀬。

 だが、それよりも早く、彼の腹部に氷のように冷たい感触が走った。


「――ッッ!?」


 楼門は、いつの間にかその手に持っていた軍用の鋭利なサバイバルナイフを、加賀瀬の右脇腹へぐっと根元まで突き刺していたのだ。

 生身の肉を裂き、内臓に達する激痛。

 加賀瀬は必死に歯を食いしばり、口からこぼれそうになる悲鳴を飲み込んだ。


(クソ……ッ!)


 腹部の刃から伝わる激痛を強引に意志でねじ伏せ、全身の細胞に『天』を巡らせる。

 瞬時に右拳にエネルギーを圧縮し、目の前の楼門の顔面を粉砕しようと腕を振り抜いた。

 しかし。

 ブォンッ! と空気を切り裂いた加賀瀬の拳は、空しく虚空を打った。

 彼自身が、楼門から後方へ十メートルも離れた場所へと『ワープ』させられていたからだ。

 ザッ、と床に靴底を滑らせて停止する加賀瀬。

 腹部の傷口からドクドクと赤い血が流れ出し、黒い学ランを濡らしていく。加賀瀬は傷口を手で強く押さえながら、荒い息を吐き、十メートル先の楼門を恐ろしい眼光で睨みつけた。


「……挨拶もなしかよ」


 加賀瀬が血の混じった唾を吐き捨てる。

 楼門は、手にしたナイフについた加賀瀬の血を、スッと手首を振って床に払い落とした。


「挨拶をしあう仲ですか? 私たちは」


 氷のように冷たい声。いつもの慇懃無礼な態度すらそこにはない。純然たる「殺意」を持った管理者の顔だった。

 二人の異常な攻防を、吹き抜けの向こう側の回廊に取り残された松野たち三人が、足を止めて戦慄しながら見ていた。


「加賀瀬君!!」


 腹部を刺された加賀瀬の姿に、松野が悲鳴のような声を張り上げる。

 その様子を視界の端で捉えた楼門が、淡々と口を開いた。


「彼女の裏切りは想定外でしたね」


 松野の横で、ドーモスとナランが青ざめた顔でこちらを見ている。

 加賀瀬は激痛に耐えながら、向こう岸に向かって声を張り上げた。


「俺は無視して、とっとと逃げろ!!」


 彼らがここにいては、人質に取られるか、巻き添えになるだけだ。

 その言葉を聞いた楼門は、松野達の方へ顔を向けると、右手を前に突き出し、空中の何かをくいっと手前に曲げるような仕草を取った。

 あの廃工場でトウフを空間ごと『切り取り』した時と同じ、能力発動の予備動作。


「――ッ!」


 加賀瀬が止めに入ろうと踏み出す。

 だが、楼門はその指を寸前で止め、やがてゆっくりと下ろした。


「……はあ、やめときましょう」


 楼門は、心底面倒くさそうに大きくため息をついた。そして、再び加賀瀬へと冷酷な視線を戻す。


「組織長からの直々の命令は――貴方を『確実に殺す』ことですし」


「んだと……」


 加賀瀬が目を細める。「手駒にしろ」と言っていたはずの命令が、覆っている。


「加賀瀬君、この一戦は、CAPの、コズミックアクシスプライムの命運が掛かっているといっても過言ではありません」


 楼門が、右手をスッと前に出した。


「私は、大義の為ならば――喜んで子供を殺します」


 シュッ。

 楼門が空中のアイコンを動かすように、指をスワイプした。

 瞬間、加賀瀬の身体が再び、楼門の目の前へと転移させられる。

 だが、加賀瀬は腹部の激痛に耐えながらも、楼門の予備動作からそれが起こることを既に予知していた。


(また来るなら――迎撃するだけだ!)


 転移した瞬間、加賀瀬の右拳には莫大な『天』が込められていた。

 楼門がナイフを構えるよりも早く、下から突き上げるような強烈なアッパーが、楼門の顔面を完璧に捉えた――かに見えた。

 だが、拳が命中するコンマ数ミリ手前で、加賀瀬の身体は楼門の『背後』へと瞬間移動させられた。


「なっ――」


 またしても虚空を殴り抜ける加賀瀬。

 その理不尽な回避に呆気にとられている間に、今度は三度、楼門の『目の前』へと転移させられる。

 前後左右の空間を無視した、メリーゴーランドのような強制移動。三半規管が狂いそうになる中、楼門はすかさず右手のナイフを、今度は加賀瀬の喉元へ向けて真っ直ぐに突き刺してきた。


「くそッ!」


 加賀瀬はすんでのところで首を捻り、死の刃を紙一重で躱す。

 そして、そのまま後ろへ倒れこみながら、両腕を床について全身を支え、バネのように両足を上へ突き出し、楼門の顎を狙った強烈なサマーソルトキックを放った。

 ゴシャァッ!!

 確かな破壊音。だが、加賀瀬の足先に伝わったのは、人間の骨や肉の感触ではなかった。


「……は?」


 加賀瀬の蹴りは、どこからともなく貼り付けされた、純白の自動販売機のガラス部分を粉々に蹴破っていたのだ。

 盾代わりに召喚された重さ数百キロの自動販売機は、加賀瀬の蹴りの勢いで後方へ激しく吹き飛んでいったが、その背後に楼門の姿はなかった。


(どこだ!?)


 即座に床を蹴り、体勢を立て直す加賀瀬。

 直後。

 ヒュンッ!!

 先ほど彼自身が蹴飛ばしたはずの巨大な自動販売機が、ものすごい速度でこちらに向かって飛んでくるではないか。

 放物線を描くわけでもなく、重力を無視した水平の一直線の動き。まるでミサイルのように迫るその巨大な質量を、楼門が『ドラッグ』して『移動』させているのだ。


「うおぉぉッ!」


 加賀瀬は床を蹴り、無様に横へ飛び転げることで、間一髪のところでそれを避け切った。

 ガシャァァァァァァンッ!!

 背後の純白の壁に自動販売機が激突し、爆音と共に大破する。

 だが、危機は去っていなかった。床に這いつくばった加賀瀬のすぐそばに、いつの間にか楼門が音もなく立っていた。


「甘いですね」


 冷酷な声と共に、楼門の革靴が、加賀瀬の頭部を容赦なく蹴り飛ばした。


「ガ、あッ……!!」


 深刻なダメージ。頭蓋骨が揺れ、視界が白くスパークする。

 だが、加賀瀬は倒れ伏すことなく、本能のままに飛び跳ねるようにして、その場から後方へと距離を取った。


「はぁっ、はぁっ……」


 腹部の傷からの出血と、脳を揺らされたことによる脳震盪の症状が同時に彼を襲っていた。視界が二重にブレて、立っているのもやっとの状態だ。


「…………」


 加賀瀬は膝に手を突き、血に濡れた顔を上げて楼門を睨んだ。


「まだ意識を保っていますか」


 楼門は、微塵も乱れていない制服の袖を整えながら、感心したように目を細めた。


「やはり、破壊の神に選ばれただけのことはある。タフですね」


 そう言うと、楼門は右手に握っていた血濡れのナイフを、ふわりと宙に投げ上げた。

 そして、そのナイフを追うように左の指先を構え、空中でシュッと横にスライドさせる。

 ――キィンッ。

 空中で、全く同一のナイフがもう一つ、鏡合わせのように分裂して現れた。

 物体の『コピー&ペースト』。

 楼門は落ちてきた二つのナイフを、それぞれ両手で鮮やかに掴み取った。

 カチャリ、と二刀流に構えた楼門が、左手のナイフをくいっと手前に振る。

 またも、不可避の強制転移。

 加賀瀬の身体が、抗う間もなく楼門の目の前へとワープさせられる。


「これで終わりです」


 楼門は、すでに両方のナイフを構え、加賀瀬の無防備な両脇腹めがけて同時に刺し込もうとしていた。

 絶体絶命の死角からの挟み撃ち。

 だが――加賀瀬の瞳に宿る闘志は、決して折れてはいなかった。


(……やらせるかよッ!)


 加賀瀬は、あえて迫りくる二つの刃を躱そうとはしなかった。

 両手の拳に、残された『天』の全てを凝縮する。

 そして、己の脇腹を貫こうとする刃めがけて、両側から挟み込むように拳を叩きつけた。

 ガギィィィィンッ!!

 金属の砕ける甲高い音。魔斬のエネルギーを纏った加賀瀬の拳は、肉を裂くはずだった軍用ナイフを、その刃の半ばから見事に粉砕してのけたのだ。


「なっ……!?」


 絶対の勝利を確信していた楼門の顔に、今日初めての「驚愕」と「隙」が生まれた。

 加賀瀬はその一瞬の硬直を見逃さない。

 拳に『天』を集中させる時間はない。足を踏み込んで蹴りを放つ余裕もない。

 ならば、一番早く届く武器でぶちのめすだけだ。


「オラァァァァァッ!!」


 加賀瀬は吠えながら、自らの額を、楼門の整った顔面めがけて全力で叩き込んだ。

 ゴシャッ!!

 魔斬の力など一切乗っていない、ただの泥臭く、暴力的な『頭突き』。

 だが、想定外のタイミングで顔面に重い一撃を食らった楼門は、「ぐはッ」と声を漏らし、背中を反るようにして一歩、二歩と後ろへたたらを踏んだ。鼻筋からツーッと赤い血がツーッと流れる。


(……効いたッ!)


 加賀瀬は確かな手ごたえを感じ、すかさず右拳を固く握りしめた。

 楼門の能力は厄介だが、一度ペースを乱せば物理的な耐久力は並の人間と変わらない。今度こそ、ありったけの『天』を込めた一発で、この管理者を沈める。

 加賀瀬が、楼門へ向けて最後の一歩を踏み出そうとした。


 ――その瞬間だった。

 ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!


 突如として、天空の要塞全体を揺るがすような、強大な轟音が響き渡った。


「――ッ!?」


 足元が激しく跳ね上がり、吹き抜けの空間がぐらぐらと揺れる。

 それは、外の空を駆けるニーズヘッグが吐き出した、巨大な火球がアルカディア本部に直撃したことによる、崩壊のカウントダウンの始まりだった。

 突然の激震に、加賀瀬は体勢を崩し、一瞬だけ動きを止めてたじろいでしまった。

 そのコンマ一秒の「隙」。

 体勢を崩しながらも、楼門はその機会を絶対に見逃さなかった。


「……チッ!」


 鼻血を流しながらも、楼門は空中に向けて指を弾くように強くフリックした。

 ドンッ!!

 加賀瀬の身体は、見えない巨大なハンマーに殴られたかのように、二十メートル近く先の回廊の果てまで、空中を一直線に吹き飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ