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ライトニングブラスト ~クラスごと異世界転移して無能の烙印を押された男が、青白い雷で理不尽な神々を殴り倒すまで~  作者: 赤腹井守
ライトニングブラスト篇

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033 黒雷・参

 謎のハッカーによる攻撃で、彼女たち幹部は司令室に完全に閉じ込められたはずだった。だが、アルカディア本部が抱える多数の凄腕ハッカーたちによる決死の反撃により、辛くも司令室の重厚な扉の制御だけは奪還することに成功したのだ。

 依然として中枢システムでは激しいサイバー戦の攻防が繰り広げられている中、彼女は侵入者を排除すべく、単身この階層へと飛び出してきたのである。


「お前たち、何者だ?」


 顔の右半分を覆う医療用包帯の隙間から、絢風は獲物を射殺すような鋭い眼光で麗香を睨みつけた。


「侵入者だけど?」


 麗香は人を食ったような笑みを返した。

 言葉を交わすと同時。麗香は一切の予備動作を見せず、視覚のみを媒介にして『翻弄頭(ほんろうとう)』を繰り出していた。相手の脳神経に直接『天』を流し込み、強制的に意識を刈り取る魔斬の荒業。

 絢風は、自分に何が起ころうとしているのか一切気が付いていない。


 だが――バチッ!

 彼女の全身から、突如として黒い火花が弾け飛んだ。


「……チッ」


 その瞬間、麗香は小さく舌打ちを鳴らした。


(常に帯電しているのか……あれじゃあ、翻弄頭(ほんろうとう)は無意味だね)


 絢風の能力『黒雷(クロイカヅチ)』。彼女は無意識下でも常に微弱な稲妻を身体の表面に纏っている状態だった。故に、麗香が外部から『天』を体内に侵入させようとした瞬間、その高密度の電撃の鎧が「異物」として弾き返してしまったのだ。


 火花が散った直後、絢風もまた、自身の防壁が「見えない何か」を弾いた感触を肌で感じ取っていた。


「アルカディアの本部に乗り込んでくるなんて、良い度胸してるわ」


「おたくらのセキュリティがザル過ぎるのよ」


 麗香の挑発的な煽りに、絢風はギリッと奥歯を噛み締め、苛立ちを募らせた。

 だが、内心では眼前の長身の女が只者ではないことを、彼女の暗殺者としての本能が既に察知している。


「舐めるなッ!」


 絢風は体中から迸る黒い稲妻の出力を一気に引き上げ、それを自身に纏い付かせるように自在に操り始めた。


黒雷纏(こくらいてん)』――全身に可視化された高圧の黒い雷を纏う技。肉体の電気信号を強制的に極限まで活性化させ、あらゆる身体能力を飛躍的に向上させる、ハイリスク・ハイリターンの身体強化だ。


「――ッ!!」


 フッ、と絢風の姿が完全に掻き消えた。


(……もらった!)


 瞬きする間もなく、いつの間にか麗香の真後ろの死角をとっていた絢風。黒雷を纏った必殺の拳が、無防備な麗香の背中へ叩き込まれようとした、その時。


 ――ヒュンッ。


 麗香は振り返りもせず、ふわりと上体を沈め、その神速の一撃を紙一重で躱してみせた。そして、絢風が空を切った勢いのまま通り過ぎるのを待つと、今度は瞬く間に彼女の背後を完全にとった。


(速いッ!?)


 絢風は一瞬たじろいだが、即座に全身の電気を周囲へ弾き出すように、全方位へ黒い電撃を爆発的に撒き散らした。ハリネズミのような防御と攻撃の一体化。


 だが、麗香はすんでのところでその放電圏内からバックステップで飛び退き、後方で構えていたトウフの横へと音もなく着地した。


「ウオォォォォッ!! 侵入者はあいつらだ!」

「取り囲め! 撃てッ!」


 と同時、トウフの視線の先――廊下の両奥から、非常事態の放送を聞きつけたアルカディアの追手が、怒号と共に続々と集まってきていた。


「トウフ。そっちの雑魚は任せたよ」


「了解です!」


 トウフは嬉々として太い腕を鳴らすと、迫りくる数十名の職員たちの方へ、巨大な岩石が転がるような勢いで身を投じた。


 一方の麗香は、次なる絢風の攻撃を警戒する素振りすら一切見せず、気だるそうに彼女を見つめていた。


「ねえ、一つ質問していいかい?」


 麗香のふざけた問いかけを完全に無視し、絢風は次なる一撃を練り上げる。


「死ねッ!!」


 全身に纏っていた黒い稲妻を、前方に突き出した両手に一極集中させ、それを極太のビーム状にして撃ち放った。


黒雷蛇砲(こくらいじゃほう)』――放たれた漆黒の雷撃は、先端が巨大な大蛇の頭の形を模しており、絢風の意志と視線に連動して空中で自在に軌道を変える絶対追尾のエネルギー波だ。


 刹那の速度で麗香の顔面へと到達した電撃だったが、麗香はまたもやひらりと踊るように避けた。しかし、外れたはずの電撃は空中でくねくねと蛇のように鎌首をもたげ、避け切った麗香の懐へ、死角から執拗に噛みつこうと迫る。


(……しつこいね)


 完全に避けきれないと悟った麗香は、瞬時に右拳に莫大な『天』を凝縮し、その拳を迫りくる漆黒の雷撃の顎へと真っ直ぐに突き出した。


 そして、電撃が彼女の白い皮膚に触れるコンマ一秒前。


 圧縮された『天』を、拳の表面から外界へ向けて一気にパージした。魔斬(まーじゃん)一発(いっぱつ)』の応用――指向性を持たせた衝撃波の防壁。


 ドガァァァァァァンッ!!

 凄まじい反発のエネルギーが激突し、黒雷蛇砲は麗香に触れることすら叶わずに空間ごと掻き消え、代わりに恐ろしい爆風と衝撃波が純白の回廊を吹き荒れた。


 硝煙と土煙が晴れる。

 爆風の中心地に佇む麗香は、チャイナドレスの裾に焦げ跡一つ作らず、平然とした振る舞いで立っていた。


「なっ……!?」


 絢風は驚愕に目を見開いた。自身の最大火力の一つが、力業で正面からねじ伏せられたのだ。


「さっきの質問の続きなんだけどさ」


 麗香が、何事もなかったかのように口を開く。


「『アンティキティラ』って、どこにあるの?」


 だが、その問いは絢風の耳には届いていなかった。


 眼前の敵が、自分よりも遥かに上手であるという絶望的な事実。監察室のエースとしてのプライドが、音を立てて崩れていく。あのNULLに顔面を砕かれた時と同じ、強烈な屈辱。


(このままじゃ、殺される……!)


 絢風は次なる一手をひたすらに脳内で巡らせた。


 こうなったら――残された奥の手しかない。

 絢風は、血の滲む唇を強く噛みしめた。


 ヴンッ……!

 彼女の体内から、暴走するかのような莫大な魔那の増加を感じ取った麗香は、少しだけ目を細めた。


「オォォォォォォッ!!」


 絢風は獣のような咆哮を上げ、瞬く間にその身に致死量の黒雷を纏った。黒雷纏の限界突破――否、それはもはや「纏う」というレベルではない。


 バチィィィンッ!!


 凄まじい放電の熱により、彼女の顔の右半分を覆っていた医療用包帯が瞬時に焼き切れた。露わになったのは、加賀瀬の拳によって砕かれた鼻梁と、歪に治癒しかけた無残な素顔。髪の毛は重力を忘れたように逆立ち、漆黒の稲妻が彼女の輪郭そのものを上書きし、悪鬼のような姿へと変貌させた。


黒雷神(こくらいしん)』――術者自身の理性を保つことすら難しい、生存本能をすべて攻撃力へと変換した捨て身の特化変身である。


「アァァァァッ!!」


 黒雷神と化した絢風が、床を砕き、視認不可能な速度で踏み込んだ。

 直後だった。


「――遅いね」


 絢風の眼前に、麗香の冷たい顔があった。


「――ッ!?」


 絢風が拳を振り上げるよりも早く。気づけば、絢風の腹部には麗香の鋭い前蹴りが、深く、残酷なまでに深々と突き刺さっていた。


「がッ、はァッ……!?」


 内臓が破裂するような激痛。麗香は蹴り込んだ足をそのまま跳ね上げ、絢風の身体を真上の天井めがけて全力で蹴り飛ばした。


 ドガァンッ! と絢風の背中が天井に激突し、ヒビが入る。


「いいよ、他の奴に聞くから」


 麗香は吐き捨てるように言うと、右手の拳をギリリと握りこんだ。

 天井への激突とダメージで黒い稲妻の衣が剥がれ落ち、白目を剥いたまま力なく床へと落下してくる絢風。


 その顔面の真下で、麗香は静かに、しかし絶対的な破壊のモーションで構えた。


「――大散拳(だいさんげん)!!」


 落下してくる絢風の顔面に、下から突き上げるような麗香の強烈なアッパーが、完璧なタイミングで突き刺さった。


 ゴシャァァァァァァンッ!!


 『天』の爆発を伴った魔斬の奥義が炸裂する。

 絢風の身体は、まるで大砲の弾のように重力を無視して水平に吹き飛び、数十メートル先の長い回廊の果てまで転がっていき、壁に激突してようやく停止した。


 彼女はピクリとも動かない。

 アルカディアの誇る暗殺者は、今度こそ完全に沈黙した。

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