表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デートの準備をしてたら、世界を救うことになった一件。― UMH〈英雄なき世界で僕らは抗う〉―  作者: 天童フリィ
インター・ワールド・ノーウェア / アイアニオス・フロスト編
92/98

第90話『冷え切った心』


吹雪が吹き荒れるストールシュテインフェレの頂上。視界を(さえぎ)る白銀の闇の中で、クロノスは冷徹な言葉を放った。



「何度も言うが、彼女は自らこちら側に来たんだ。お前らが来ることは望んでない。それが、彼女の選んだ結末だ」



「そうだとしても、納得できない。リリアさんは僕が助けるんだ」



キールは冷静でありながら、その言葉には強い熱が込められていた。

クロノスは深い溜息をつく。その手の中で、冷気が結晶化し、氷の剣を形成する。



「話が()み合ってないな。来るなら殺す、それだけだ」



クロノスの瞳が薄黄色に輝き、その視線が二人を(とら)えようとした瞬間、キールが動いた。



「バルドさん、今です!」



キールは地面めがけて猛烈(もうれつ)な勢いで水を噴射(ふんしゃ)させる。()き上がった水は雪と混ざり合い、一瞬にして巨大な(きり)の幕となってクロノスの視界を遮断(しゃだん)する。



(能力がバレている?)



クロノスは驚きながらも、即座に霧を突破しようと地を蹴った。



(だとしても、この幕さえ抜ければ……!)



しかし、霧の幕を抜けた先でクロノスを待っていたのは、キールでもバルドでもなく、足元に広がる底なしの闇だった。



「なっ……!?」



バルドの能力で影の空間が、落とし穴のようにクロノスを待ち構えていた。一瞬の(すき)をつき、キールは全速力で氷の城へと走り出す。



「レスト、リリアを頼んだぞ!!」



バルドの声が響き、キールは氷の城へと進んでいく。

だが、クロノスは常人ではなかった。影に完全に()み込まれる寸前、彼は自らの周囲を冷気で()てつかせ、影の拘束(こうそく)を強引に解き、()い出ようとした。



「行かせないと言ったはずだぞ!!」



(すさ)まじい執念で出てこようとするクロノス。これまでバルドの影から自力で脱出した者は一人もいなかった。バルドはその異常な強さに覚悟を決めて、クロノスにとびかかる。



「これ以上あいつらの蜜月(みつげつ)を邪魔するな!」



バルドは自らも影へと飛び込み、クロノスを道連れにする形で一気に山の(ふもと)まで転移した。

(ふもと)に放り出されたクロノスは苛立(いらだ)ち、バルドを(にら)みつける。



「邪魔さえしなければ、命までは取らないと言っているのに……なぜ、これほどまでに話が分からない」



「俺たちも諦めが悪いんだ。リリアは必ず助け出す!!」



バルドの全身を、意志を持つ影が(おお)い尽くしていく。それは、かつてキールとリリアと戦った時のファントムフォルムと言うべきか。影の(よろい)(まと)ったバルドが、不敵な笑みを浮かべてクロノスを挑発した。



「父の(とむら)いでもある。これであんたに勝てるよ」



クロノスは焦燥(しょうそう)に駆られた。彼の瞳が不気味な薄黄色に輝く。クロノスは視界に入ったものの時間を止める能力と氷を操る能力、2つを駆使して戦っている。彼の前に現れた敵は対応することもなく(ほふ)られてきた。

今回も例外ではない。

クロノスは時間を止め、吸い込まれるような速度でバルドの首元へ氷の剣を突き立てる。



勝負は決したはずだった。



だが、バルドの体が影のように(うごめ)き、氷の剣を紙一重(かみひとえ)で回避した。逆に、影を(まと)ったバルドの拳が、クロノスの顔面を正面から(とら)え、殴り飛ばす。



「っ……がぁぁ!!!」



雪原を転がるクロノス。あってはならないことが起きた。バルドは追撃の手を(ゆる)めず、影から影へと転移しながら、クロノスの腹部に凄まじい連撃を叩き込む。



「はぁ、はぁ……ッ! なぜだ……なぜ動ける。何をした!」



困惑するクロノスは、反射的に足元の地面を(なめ)らかな氷へと変え、バルドの踏み込みを(うば)い、(すべ)らせる。その刹那、氷の(つぶて)を弾丸のように連射する。礫はバルドの影の(よろい)に突き刺さり、そこを起点に爆発的な冷気が噴出(ふんしゅつ)する。バルドの全身を(またた)く間凍らせて、動きを封じた。

身動きが取れなくなったバルドに、クロノスがゆっくりと歩み寄る。その瞳には、底知れぬ驚嘆(きょうたん)が宿っていた。



「……そうか、そういうことか。俺自身ですら気づいていなかったことをお前が先に気づくとは、やはり(あなど)れんな」



氷漬(こおりづ)けのまま、バルドは皮肉げに鼻を鳴らした。



「もっと、自分の能力と向き合うんだな。ニニィの話を聞いたときにもしかしたらと思ってな。あんたの時間停止は、視認した人間にしか効かない。ニニィを止められなかったのも、あんたの脳が、俺たちを人間じゃなく無機物や影の(かたまり)だと認識してるからだ」



「……そうらしいな。助かったよ、死ぬ前に弱点を教えてくれて」



クロノスの目が冷酷(れいこく)に細まる。彼は氷の剣を捨て、()き出しの拳でバルドを何度も、何度も殴りつけた。氷の侵食(しんしょく)によって影の操作が(にぶ)り、バルドの意識は朦朧(もうろう)となっていく。



(くっそ。やはり手練れには、すぐにばれたか。このままだと俺がまずい)



バルドの影の(よろい)が、霧のように霧散(むさん)していく。意識が薄れ、顔を上げることができないバルド。その首筋に氷の剣が、無慈悲に突きつけられた。



「最後に聞きたい。お前の親……オーリアはどうだった?」



バルドはその意図を測りかねたが、薄れゆく意識を繋ぎ止め、静かに答える。



「……いい親ではなかった。だが、最後には和解できた。それでいい」



「あんなゴミクズなのに、和解なんてできるんだな」



クロノスは吐き捨てるように言った。



「それに……俺が憎くないのか? お前の父を殺し、お前をここまで追い詰めたこの俺が」



バルドは、力なく笑った。その瞳は、復讐に燃える者のそれではなく、すべてを見透(みす)かしたような深い光が宿っていた。



「なんだ、モロスと違って人間らしいんだな。それにわざわざ殴るなんて、らしくないんじゃないか?」



クロノスが大きく目を見開いた。動揺が、氷のような無表情をわずかに崩す。バルドは逃さず、さらに言葉を重ねた。



「俺はあんたを恨んじゃいない。そういうのはもう、やめにしたんだ」



「……お前も、キーレスト・ウォルターズにあてられたのか」



バルドはまっすぐな眼差しで笑って答えた。



「そうかもな……」



クロノスは逃げるように視線を()らし、再び氷の剣を振りかざした。

しかし、剣が振り下ろされる寸前――。



パリン!!



氷の刃が何かに弾かれたように(くだ)け散った。バルドを凍らせていた氷も砕け、その場に崩れ落ち、気を失う。クロノスは何かに(しば)られたように身動きが取れなくなった。



「クロノス!!」



雪原に響いたその声に、クロノスは弾かれたように振り向く。そこには、包帯を頭に巻いたフリムが立っていた。セーラー服とブレザーが混ざった制服に、膝丈(ひざたけ)のコートを羽織(はお)っただけの格好。吹き荒れる雪の中、コートの(すそ)から伸びる白い生足が痛々しいほど赤くなっていたが、彼女は寒さなど感じていないかのようにクロノスを見つめていた。



「フリム……なぜ、ここに……」



「もう、こんなことやめよ!?」



フリムの叫びが、氷の山に木霊(こだま)する。この地までクロノスを止めるために追いかけてきたフリム。フリムの存在が、冷え切ったクロノスの心を激しく揺さぶっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ