表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/98

第74話『宣言』



キールとバルドが同時に踏み出そうとした瞬間、足元から冷気が()ぜた。

氷が生き物のように()い上がり、二人の身体を瞬時に包み込む。

肩、胸、腕――全てが凍りつき、息さえ白く閉じ込められた。



「……ッ!?」



(だいだい)色の髪をした青年のクロノスは冷気を体に(まと)わせていた。

薄い黄色に光った目が、無表情のままふたりを見下ろしている。

その動きは、認識するより速く、気配さえなかった。



「悪いが、今お前たちを殺す予定はない。少し、大人しくしてろ」



淡々(たんたん)とした声が、逆に冷酷(れいこく)さを際立(きわだ)たせる。

キールは歯を食いしばった。



(攻撃も、接近も……何も感じなかった。一体どんなスピードなんだ?)



クロノスは次の瞬間にはモロスの隣にいた。

残像(ざんぞう)すら残さない、一歩。

モロスはキールたちが凍りつくさまを(なが)めながら、(あざけ)る。



「お前たちが頑張ったせいで、計画を少し早めざるをえなかったが安心しろ。世界は予定通り“終わり”に向かっている」



キールは叫びながら問い詰めた。



「あんたがエイダさんならどうしてアウローラを作る手伝いなんてしたんだ!」



モロスは声を立てて笑うでもなく、ただ“愉快(ゆかい)玩具(がんぐ)を見るように”目を細める。



「理解できないか。まあ、低脳のお前らにわかりやすく教えてやる」



キールの奥底を逆撫(さかな)でするような言い方だった。



「私はまず、この星の情報を得る必要があった。最も効率が良かったのが、世界一の企業のトップ“になり世界情勢(せかいじょうせい)牛耳(ぎゅうじ)ること。殺して入れ替わるだけでいい」



キールは息を呑み、クロノスは氷を維持しながら何も言わない。

モロスはゆっくりと続けた。



「エイダとして動く前に“ある(うわさ)”を耳にした。能力を持つ者たちが現れ始めた、とな」



瞳に愉悦(ゆえつ)(にじ)む。



「そこで《《あの男》》の恋人であったイオラに目をつけた。能力者を保護したいなどと寝ぼけた理想を語り、金に苦しみ、何もかもが未熟だったが利用価値が最高だったよ」



モロスは薄ら笑いが止まらなかった。



「アウローラを作らせれば、能力者たちが集まってくる。保護施設の皮をかぶった“(あみ)”ができるわけだ」



その言葉の意味にキールの呼吸が詰まる。



「集まってきた者は全て記録され、監視され、必要なら殺せる。残った者は私の(こま)として使えるというなんと効率のいいことか」



バルドが歯を食いしばる。



「てめぇ……」



モロスは二人を(あお)るように言う。



「イオラは知らぬ間に私の計画を20年も加担(かたん)していたのだ。(だま)されていることに気づきもせず、利用されて、最後には全部の罪をかぶってくれた都合のいいゴミだ」



キールの怒りは頂点を達した。



「イオラさんを馬鹿にするな!! あんたに()みにじられるためにアウローラを作ったんじゃない!!!」



氷で拘束(こうそく)されているにも関わらず、その叫びは身体を引き千切(ちぎ)るほどの怒りが込められていた。

モロスはその激昂(げっこう)すら心地よさそうに見つめる。



「そうだ! その反応が見たかったのだ! お前たちが絶望する姿は、美しい」



モロスは、キールを見下ろしたまま、表情ひとつ変えずに言った。



「だがお前を見ていると、どうしても《《あいつ》》を思い出す。胸が焼けるように苛立(いらだ)ち、吐き気がする。 本当なら今すぐ殺したいくらいだ」



言葉は淡々(たんたん)としていて、(こご)えるほどの殺意を()びている。



「だが、《《約束》》だからな。今だけは生かしておく」



その瞬間、バルドの眼が鋭く(にら)んだ。



「さっきから約束だの、あいつだの…何を隠していやがる!! 俺たちをどうするつもりなんだ!!」



モロスはバルドへ視線を向け、冷たい嘲笑(ちょうしょう)が顔に浮かぶ。



「知りたければ自分の目で世界を見ればいい。これから起こることそのものが答えになる」



バルドが体を動かそうとするが、氷の拘束(こうそく)は全く()けない。

モロスは興味を失ったようにクロノスへ視線を投げた。



「連れてこい。“あいつらの絶望する顔”が楽しみで仕方ない」



クロノスは無表情のまま、わずかに(うなず)く。

そしてまた、存在そのものを()き消すように自身の姿を消そうとした瞬間



「待て!!」



氷の中でキールが声を張り上げた。



「サイラスさんとフリムさんは……今どこにいる!?」



モロスの眉がわずかに動く。



「フリム?」



その名を聞いた瞬間、クロノスの足が止まる。

クロノスは振り返らずに短く()げた。



「……氷の串刺しにした。もう死んでいる」



キールの呼吸が止まり、胸が(つぶ)れるような静寂(せいじゃく)が落ちる。



「……っ!! 嘘だ……!!」



キールの声がひきつった悲鳴になり、バルドも息を呑んだ。



「サイラスはどうしたんだ……!!」



モロスは鼻で笑い、楽しそうにしている。



「《《彼女》》に礼を言うといい。お前たちの物語を、最高の形で“仕上げてくれた”のだから」



バルドは喰らいつくように叫んだ。



「一体何をした!!」



モロスはただ一言、(つぶや)く。



「今にわかるさ」



氷の中で、キールもバルドも、指一本動かせなかった。

影は氷に乱反射(らんはんしゃ)屈折(くっせつ)し、バルドの能力は完全に遮断(しゃだん)されている。

そしてキールは、先ほどの覚醒(かくせい)が反動となり、呼吸を整えるだけで精一杯(せいいっぱい)だった。



そのとき、背後の巨大モニターが突如(とつじょ)として点滅した。



「なんだ……?」



モロスが振り返った瞬間、モニター全体が赤く染まり、緊急速報(きんきゅうそくほう)の文字が点滅する。



――緊急ニュース速報



アナウンサーの硬い声が、氷の静寂(せいじゃく)(やぶ)った。



「緊急ニュースです。本日、フルア国がレアマシーに対し――武力行使(ぶりょくこうし)への移行および、事実上の独立宣言を発表しました」



キールが息を呑み、バルドは氷の中で体温が下がるのを感じた。

画面が切り替わり、フルアの元首(げんしゅ)が映る。



「先日の“基地消滅事件”について、我が国の科学部門からレアマシーによる人為的(じんいてき)攻撃であるとの結論を受けた。これは明らかな条約違反、我々フルアを支配・占領(せんりょう)する意思の表れだ」 



サイラスがいた基地での爆発が()じ曲げられるように(ほう)じられていた。

キールの心臓が、冷たい手で握りつぶされるように脈打つ。

元首はさらに続けた。



「この40年、我々は屈辱(くつじょく)圧政(あっせい)のもとに置かれてきた。だが、もう()(がた)い。レアマシーは人間兵器を(もち)いて我が国を攻撃したのだ。そして、レアマシー内部には人体実験の研究所が存在すると判明した」



キールの目が大きく揺れ、バルドも血の気が引いた。



「おい、待て」



「そんな……」



元首は、まるで世界に引き金を引くように、最後の一文を叩きつけた。



「そして、ここに宣言します。“UMHは確かに存在する”――と」



ニュースの音声が、まるで破滅(はめつ)()げる(かね)のように部屋中に響く。

この瞬間、世界の空気が変わった。

それは 全世界への宣戦布告 であり、長年隠されてきた真実が、最悪の形で曝露(ばくろ)された瞬間だった。



モロスはただ静かに息を吐き、冷たい笑みを浮かべる。



「あぁ、ようやく始まったな」



その声は嬉しさでも興奮でもない、純粋な“終末への期待”の響きだった。



氷に閉じ込められたキールとバルドは、ただ目の前で“世界の終わり”を突きつけられる。



逃げることも、止めることも、声を上げることすらできないまま――

世界はゆっくりと、確実に、音もなく崩れ落ちていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ