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第70話『友情と家族』



キールは深く息を吸い込み、ふらつきながらも立ち上がった。



「レスト、どれくらい能力は使えそうだ?」



「水の武器は、あと二回くらい……です」



キールの声は震えているが、目は折れていない。

バルドはその目を見て、静かに(うなず)く。



「そうか。なら――レスト。

 俺のことを信じて、あいつらに向かっていってくれ」



キールは、ほんの一瞬だけ驚いたように息を呑み、そっと言う。



「僕、キーレストです」



バルドはぽかんとした後、気恥(きは)ずかしそうに視線をそらした。



「好きに呼ばせてくれ。初めての友達なんだからよ」



キールは目を細め、屈託(くったく)のない笑顔を浮かべる。



「バルドさんって意外とこだわるんですね」



ぱしんっ。



「いた!!」



バルドはキールの頭を思い切り叩いた。

そんな二人の空気を切り裂くように――



「ルビル!! 起きろ!!」



吹き飛ばされたゾディアが、気を失っているルビルを荒々(あらあら)しく揺さぶっている。

ルビルは目を覚まし、状況を把握(はあく)した瞬間、顔を(ゆが)めた。



「あいつ……なんであっちにいるの……?」



ゾディアが叫んだ。



「俺たちを裏切ったんだ!!」



ルビルの目が狂気に染まっていく。



「あんた、分かってるんでしょうねぇ!!」



鋭い叫び声が最深部に響いた。

バルドはその声に冷静に言い放つ。



「もう……家族には(しば)られない。お前らのことは(にく)いが、もうそれも終わりだ」



ルビルの拳に光が集中していく。

高熱を()びた光の拳が、彼女の狂気を照らし出した。



「家族こそが、この世界で一番(えら)いもの!!

 それ以外は全部ゴミよ!!!」



ゾディアも狂ったような目で叫ぶ。



「ルビルの言う通りだ!! 家族以外、信用する価値なんてない!!」



ゾディアは全身から狂気じみた怒気を放ち、鎖を(むち)のように(あやつ)った。

次の瞬間、その鎖は生き物のようにしなり、ルビルの腰を(から)め取る。

巻き付いた鎖がきしみ、ルビルは怒鳴った。



「やめなさいよ、ゾディア!!」



しかし、ゾディアは聞く耳を持たず、獣のように叫ぶ。



「黙れ!! 家族のためだ!!」



ゾディアは鎖を高速で回転させ、すさまじい速度へと変わっていく。

ルビルの身体は振り回され、光を帯びた拳が周囲の空間を焼き焦がしていた。

ゾディアの咆哮(ほうこう)とともにルビルを放り投げる。



「家族以外の絆は死ねえええ!!!!!」



風圧と共に、ルビルの拳が直進の閃光(せんこう)となってキールに迫った。

水の刀を握るキールは、(ひざ)を沈めて迎撃(げいげき)姿勢を取る。

だがその瞬間、キールの視界に“影のゆらぎ”が差し込んだ。



「……え?」



一拍(いっぱく)遅れて、影が大きく広がり、ルビルの眼前の空間が黒く反転するように影の奥にルビルの姿が消えていく。

次の瞬間、ゾディアの目の前にルビルが“現れた”。



「……はァ???」



ルビルの拳は制御不能のまま、ゾディアに直撃する。



「ぐぉぉあっ!!」



すさまじい衝撃で二人は後方の壁へと叩きつけられ、金属が()じ曲がる音が最深部に(とどろ)いた。

バルドは影を使って、ルビルを移動させていた。

その光景を見ながら、影を(まと)ったバルドは鼻で笑う。



「何が“絆”だ。連携一つ満足に取れないのかよ」



バルドの足元で、影が広がり、まるで次の獲物を誘う獣のようにうごめく。



「レスト!! 走れ!!」



キールの右手には凝縮(ぎょうしゅく)した“水の刀”を持ち、走り出した。

壁に叩きつけられたゾディアとルビルは、互いを(のの)り合いながら立ち上がる。


視界の(はし)で迫るキールを見つけ、ゾディアが鎖を放った。

鎖が空気を裂き、キールに(おそ)いかかる。

キールは水の刀で次々と鎖を(さば)くが、その数は増え、進行を邪魔していく。



「っく!!」



影の手が鎖を捕らえて、軌道をねじり、強引に攻撃を止めた。



「レスト、行け!! 鎖は俺が(おさ)える!!」



キールはバルドを信じて、二人に突き進んだ。

ゾディアの背後に隠れるように立っているルビルは叫ぶ。



「ゾディア!! 早く止めなさいよ!!」



ゾディアはキールの接近に焦り、狂った顔で返した。



「お前は◆◆◆◆を止めろ!! こいつは俺が殺す!!」



ルビルはバルドを狙うため、大きく迂回(うかい)して走り出す。

光を(まと)った拳の軌道はバルドへと一直線に向けられていた。


バルドがキールの動きに集中しているその一瞬を、ルビルは狙っている。

キールは水の刀を握りしめ、ゾディアの目前にまで踏み込んだ。



「レスト!!! 一気に叩き込め!!」



バルドの声に(こた)えるように、水の刀は瞬時に形を変え、野球バットのように湾曲(わんきょく)した“打撃特化の武器”へと変わる。



キールは全身の体重を乗せて、大きく振りかぶった。

ゾディアは顔をひきつらせながらも即座に鎖を展開し、幾重(いくえ)もの鎖を()んで巨大な盾を形づくる。

その鉄の(かたまり)がキールの前に立ちはだかった。


バルドは背後の軽やかな足音に気づく。

ルビルが不敵な笑みを浮かべ、光の拳を構えていた。



「あんたは自分の心配をしなさいよ!!」



バルドの表情が一瞬だけ強張(こわば)ったが、影がにじむ。

ゾディアとルビルの足元の影が二人を影に沈ませた。

次の瞬間、二人の視界が裏返る。

ルビルはゾディアのいた場所に、ゾディアはルビルがいた場所に、まるで地面に引きずり込まれたかのようにワープした。


二人は驚く。



「なっ……!?」



「またなの!?」



二人は動揺のあまり姿勢を崩し、無防備な状態で立っていた。


だが、戦闘で生まれた(すき)は命取り。

キールは迷わず動く。



“ドゴッ!!!!”



キールの振りかざされた攻撃は会心の一撃となって、ルビルの頭部を直撃した。

彼女の瞳は白目を向き、身体が地面に崩れ落ちる。


指先は小刻(こきざ)みに震え、声すら出ない。



「家族の絆はどこ行ったんだ? これで一人、脱落だ」



挑発と共に、バルドはゾディアを(なぐ)る。

キールは静かに息を整え、ゾディアの背後を取るように立つ。

キールとバルドは完璧(かんぺき)(はさ)み撃ちの形となっていた。



ゾディアは(ひたい)に汗を浮かべ、恐怖を隠し切れず歯を()みしめる。

キールは刀を構えたまま、(おだ)やかで確信に満ちた声で言った。



「これが僕たちの“友情”です」




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