第17章:小さな未来の話
病室に差し込む昼の光は、以前よりもずっと温かく感じられた。
数日ぶりに訪れたアオイは、車椅子を押しながら病室へと入った。
レイもその横に静かに付き添っていた。
「お父さん、調子はどう?」
ベッドに座った父は、少し痩せた体を起こしながら笑った。
「リハビリが鬼のようにきつい。けど、悪くない。」
「それは……よかった。」
「それと、お前ら二人、あれだぞ?」
「ん?」
「この前のあの告白みたいな流れ、俺はちゃんと聞いてたからな。」
アオイがすぐに顔を赤くする。
「え、や、やめてよまた……!」
「ほら見ろレイ、お前のせいで娘が照れてるじゃないか。責任取って、なんか言え。」
レイは視線を逸らしながら、短く答えた。
「……かわいいと思っただけです。」
「やるじゃねえか。」
父が親指を立ててニヤリと笑う。
アオイは無言で父の腕を軽く叩いた。
—
帰り道。
エレベーターの中、二人の間に静かな空気が流れる。
レイは先に言葉を口にした。
「……疲れたか?」
「ううん、大丈夫。会えてよかったから。」
「そうか。」
病院の外に出ると、春の風が柔らかく髪を揺らした。
歩道に咲く花を見ながら、アオイがポツリと呟いた。
「……ねぇ、レイさん。」
「ん?」
「もしさ……いつか、普通に歩けるようになったら、最初にどこ行きたい?」
レイは数秒考えて、静かに答えた。
「……海かな。」
「海?」
「風が強くて、でも広くて、開放感がある。……お前に似てると思った。」
アオイは驚いた顔をして、すぐに目を逸らした。
「……またずるいこと言う。」
「事実だ。」
「……ふふ。」
静かに笑いながら、アオイは車椅子のハンドリムに手をかけた。
その手に、レイがそっと手を添えた。
「少し、歩こうか。俺が押す。」
「……うん。」
春の道を、二人はゆっくりと進んでいった。
まるで未来が、少しずつ形を帯び始めるように。




