第16章:目覚めの朝
穏やかな朝だった。
レイの部屋に柔らかな光が差し込む中、アオイは静かに本を読んでいた。
そのとき、スマートフォンが震えた。
画面を見たアオイの手が止まり、目が大きく見開かれた。
「……レイ……」
「どうした?」
「病院から……父が、目を覚ましたって……」
声が震え、頬を一筋の涙が伝う。
けれど、その顔には微笑みも浮かんでいた。
静かに、でも確かに彼女は笑っていた。
レイは何も言わず、彼女の前に立ち、手を差し出した。
「行こう。」
病院までの道のりは、静かだった。
言葉はいらなかった。
アオイの手は膝の上で強く握られていた。
レイの横顔には、迷いも、動揺もなかった。
—
病室の前に立ったとき、アオイは深く息を吸った。
「……行こう。」
中に入ると、父は変わらずベッドに横たわっていた。
けれど、その指がわずかに動いた。
アオイはそっと近づき、手を握った。
「……お父さん……」
その瞬間、彼の瞼がゆっくりと開いた。
娘の顔を見つめたまま、彼は手を伸ばし、アオイの頬に触れた。
「……大きくなったな……綺麗になって……」
涙が一気にあふれた。
「……うん……」
それだけしか言葉にできなかった。
—
しばらくして、父は部屋を見回し、レイに気づいた。
「……おや、君は?」
「えっと……」
「まさか……彼氏か?」
アオイの顔が真っ赤になった。
「ち、ちがっ……!」
父は笑いながら、アオイをぎゅっと抱きしめた。
「この子はな、俺の宝物だぞ。勝手に持っていくなよ!」
レイは一瞬戸惑ったが、心の中でこう思った。
(……この父にして、この娘あり、か。)
アオイが慌てて声を上げた。
「お父さん、やめてよ。もう子どもじゃないんだから!」
父はふと、娘の顔をまじまじと見つめた。
そして——
記憶が、蘇った。
—
小さなアオイが泣いていた。
「なんで、みんな遊んでくれないの……?」
父は優しく頭を撫でながら答えた。
「アオイはね、綺麗すぎるんだよ。だから、みんな緊張しちゃうんだ。」
「でもね、大丈夫。今日は俺が遊んでやる。」
—
現実に戻り、父は再びアオイの頭をそっと撫でた。
「……強くなったな。」
そして、レイに視線を向け、静かに言った。
「頼むぞ。泣かせたら、一生後悔するぞ。」
レイは背筋を伸ばし、まるで軍人のように答えた。
「はい、お父さん。」
「はぁ!?何それ!? なんで即了承してんの!?」
アオイの困惑する声に、父は笑い、病室には温かい空気が満ちていた。
—
医師の話では、父のリハビリは1〜2ヶ月かかるという。
けれど、今日の再会だけで、すべてが変わった気がした。




