第15章:同じ食卓、同じ週末
――同じ食卓
夜、レイさんはハンバーグの皿を二つ持ち、隣の部屋のドアをノックした。
「入るぞ。」
「……はい、どうぞ。」
緊張気味のアオイさんが、少しだけ恥ずかしそうに出迎えた。
リビングに並べられた小さなテーブルに皿を置き、二人は向かい合って座る。
「いただきます。」
「い、いただきます……」
一口食べた瞬間、アオイさんの表情がパッと明るくなった。
「……ん! やっぱりおいしい!」
「よかった。」
「このソース、自分で作ったの?」
「市販のをベースにちょっと足しただけだ。」
「ちょっとでこれ!? やばい、毎日来てもいい?」
「毎日は困る。」
「ひどっ!」
笑いながら箸を進める。会話は自然に弾み、食事が終わるころには、二人の間にあった壁がほんの少し低くなったように感じられた。
「じゃ、そろそろ戻るわ。」
「……うん。今日はありがとうね。」
「またな。」
「……うん、また。」
レイさんがドアを閉めると、アオイさんは一人、しばらく黙って皿を見つめていた。
小さく微笑んで、ぽつりと呟く。
「……また、ね。」
――週末の朝
次の日。土曜日の朝。
まだ寝起きの顔のまま、アオイさんがキッチンで水を飲んでいると——
ピンポーン。
「……えっ?」
インターホンの表示に映ったのは、レイさんの顔だった。
慌ててドアを開けると、彼が立っていた。
「おはよう。準備しろ。買い物に行くぞ。」
「……へ?」
「お前、最近うちでばっかり食ってるからな。今日は買い出し手伝え。」
「……なんで急にそんな話に?」
「当然だろ。食べるなら、手伝う。」
「うわ……レイさんって……」
ふくれっ面をしながらも、アオイさんは観念したように笑った。
「しょうがないなあ……じゃあ、5分待ってて。」
—
数分後、ドアが開いた。
そこには、白いワンピースにライトブルーのカジュアルジャケット、サンダルを履いたちょっとしたおしゃれをしたアオイさんがいた。
レイさんは、思わず一言。
「……かわいい。」
「え? 今なんて言った?」
「いや……何も。」
「ふーん?」
「行くぞ。」
「ちょっとごまかしたでしょ……まあいいや、行こうか。」
――買い物の途中
スーパーでは、二人が小さなカゴを分担して回っていた。
「このネギ、細いのと太いの、どっちが好き?」
「太い方が甘い。」
「さすが主婦。」
「主夫な。」
「はいはい、主夫さん。」
—
「今日の夜ごはん、何が食べたい?」
「んー……カレー!」
「……また?」
「だってレイさんのカレー、スパイス効いてて好きなんだもん。」
「食べすぎて飽きるなよ。」
「ふふ、じゃあ一回だけにしとく。」
買い物は、思ったよりも自然だった。
まるで何年も一緒に暮らしているような、そんな不思議な空気。
――カフェにて
買い物帰り、レイさんは静かなカフェに立ち寄った。
「ちょっと休むか。」
「……いいね。」
受付で注文をしようとしたとき、店員がにっこり笑って言った。
「彼女さんですね。カップル用メニューもございますが、いかがですか?」
その瞬間——
「……あ、はい。」
レイさんが、条件反射のように答えてしまった。
隣で、アオイさんの肘がレイさんの太ももを軽く突いた。
「なっ……!」
「お客様、こちらカップルシートへどうぞ。」
二人は窓側の席に通され、向かい合って座る。
コーヒーが運ばれてきて、ひと息つく。
アオイさんは、ふくれっ面のまま言った。
「……今の、なんだったの?」
「……反射だ。」
「ほんとに?」
「……たぶん。」
「ふーん。」
彼女はコーヒーを一口飲んだあと、小さく笑った。
「まあ……いいけど。」
ガラスの向こう、街の人たちが歩いている。
でもこの空間だけ、どこかゆっくりと時が流れていた。
レイさんは窓の外を見ながら、心の中でそっと思った。
(この時間が……長く続けばいいな。)




