第14章:元に戻る笑顔
夕方、部屋に差し込む光がやわらかく、空気はどこか穏やかだった。
レイさんは、いつものように夕飯の準備をしていた。
今日はハンバーグ。香ばしい匂いが部屋に広がっていく。
時間は、ちょうどベランダに出るタイミング。
煙草を一本くわえ、ライターに火をつけた瞬間——
「レイさ〜ん!」
元気な声が壁の向こうから響いた。
その声に、レイさんの口元が自然と緩む。
「……やっと戻ってきたな、そのテンション。」
「うん。ちょっとリハビリしてたの。『元気な自分』になる練習。」
「随分うるさい練習だな。」
「ひど!でも、なんかね……今日は気分がいい。」
「それは何より。」
「で、今日のメニューは?」
「ハンバーグ。ソースはデミグラス。」
「ずるい!おいしそう!」
「……なあ。」
「ん?」
「……今日の夜、俺がそっちに行くのは、ありか?」
一瞬、沈黙。
「……え?」
「飯、持っていく。食べさせに。そっちで一緒に食おうかと思って。」
アオイさんの返事が、少しだけ遅れる。
「……べ、別に……いいけど……迷惑じゃないなら……」
レイさんは、ゆっくりと煙を吐いたあと、こう言った。
「俺がいつ“迷惑”だって言った?」
「……言ってないけど……」
「それに……俺は、お前が好きだって、言っただろ。」
その言葉に、アオイさんは一瞬で言葉を失った。
沈黙の中、風の音だけが通り過ぎていく。
「……う、うん……覚えてる……けど……」
アオイさんは視線をそらし、頬を真っ赤に染めながら、小さく呟いた。
「ずるいよ、急にそういうこと言うの……」
「ずるいか?」
「うん、ずるい。」
でも、その声には——確かに笑いが混ざっていた。




