第13章:一歩、外へ
アオイさんがレイさんの部屋で過ごすようになって、数日が経っていた。
体調はだいぶ落ち着き、顔色も戻ってきた。
だが——彼女は相変わらず、部屋の外には出ようとしなかった。
車椅子の横で、本を読んでいる。
窓から見える景色を、どこか遠く見つめている。
その様子を、レイさんはキッチンから静かに見ていた。
「なあ、ちょっと出かけようか。」
「……え?」
アオイさんは、驚いた顔をした。
「買い物でもいい。気分転換に、外の空気を少し。」
「……無理だよ。こんな格好だし、外に出たって……」
「格好とか関係ない。俺がいる。」
「……でも、見られるの、やだ。」
「誰も見てない。見てても気にするな。」
アオイさんは俯いたまま、小さく首を振った。
「私……そう簡単に外には出られないよ……」
レイさんは、しばらく黙ってから、軽く笑った。
「なら、俺が強制的に連れて行くか。」
「は?」
「覚悟しろよ。」
冗談のような口調だったが、その目は真剣だった。
—
午後、空は明るく、風も穏やかだった。
エレベーターで1階まで降り、マンションの前の小さな歩道に出た。
アオイさんは、車椅子の上で落ち着かない様子だったが、
レイさんは何も言わず、ただ静かに車椅子を押した。
コンビニの前、ベンチのある小さな広場、公園の外周。
「……風、気持ちいい。」
アオイさんが、ぽつりと呟いた。
「だろ。」
「こんな風に外を歩くの、……いつぶりだろ。」
「覚えてるか?」
「ううん。でも、たぶん高校のとき、……お父さんと一緒に出かけたのが最後。」
「……そっか。」
しばらく二人とも無言だったが、それは重くなかった。
風が吹き、葉が揺れる音だけが、会話の代わりのように響いた。
—
帰り道、マンションの前に戻ったところで、
アオイさんがぽつりと言った。
「……ありがとう、レイさん。」
「別に。」
「でも……今日は、ちょっと救われたかも。」
「そうか。」
「また……出てもいいかな。」
レイさんは、それには答えず、小さく頷いた。
そして二人は、ゆっくりとエレベーターへと向かった。




