第99話 君の言葉を信じて
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また真希と一緒に眠る夜だった。前回とは違って、今度は本当に付き合っている。
それが嬉しかった。けれど、だからといって小説から気を逸らしていいわけじゃない。
そろそろ、もっと頑張らないといけない。真希がどんどん先へ進んでいく中で、俺だけが取り残されたくなかった。間違いなく、俺も成長しなきゃいけない。それを今やっておけば、今だけじゃなく、きっとこれから先の未来にも役立つはずだ。
今は、とにかく彼女のそばにいる必要がある。
そのためにも、できることは全部やろう。
そう心の中で決意しながら、俺は静かに息を吐いた。
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…………………………
…………………
気づけば、もう夜が明けていた。前回と同じように、真希は隣にいなかった。
けれど、今回は違った。
キッチンのほうから、真希が小さく鼻歌を歌っているのが聞こえてくる。
その声はとても楽しそうで、それを聞いているだけで、なぜか胸の奥が少しだけ軽くなった。
そういえば……俺のスマホはどこだ?
昨夜から一度も見かけていない。変だな。
そう思って部屋を見回し、振り返ると、テーブルの上に俺たちのスマホが並べて置かれていた。
俺は立ち上がって、そこへ向かい……
自分のスマホを手に取った。
けれど、画面は真っ暗なままだった。
電源が切れている。
何時なのか知りたかったから、いつものように電源を入れようとした。
……けれど、つかない。
もう一度ボタンを押してみる。
それでも反応はなかった。
「あ、私が切ったの。つけるの忘れてた」
「切った? なんで?」
「誰にも邪魔されたくなかったから。結局、二人きりでいる時間が一番好きなんだ」
この子は……。
まさか、二人の時間を誰にも邪魔されないようにするために、そこまでしていたとは思わなかった。
そのことを知ると、思わず小さく笑ってしまった。
「ありがとう、真希。学校に行く準備をしよう。俺は身支度してくる」
「うん。朝ごはんは待ってるから」
「分かった」
それ以上は何も言わず、俺はそのまま風呂に入りに向かった。
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「真希、もう準備できたか? 急いでるんだ」
「もうすぐ! すぐに出るから、ちょっと待ってて。もし先に行ったら許さないからね」
「行かないよ。だから早くしてくれ」
くそっ、この子は……。
そう思いながら、俺は小さくため息をついた。
そういえば、昨日のアクセス数はどれくらいだったんだ?
真希がそのことについて何も言わなかったのが、少し不思議だった。
でも……ちょっとだけ見てみてもいいよな?
俺はスマホを取り出すと、深く考えることもなくアクセス解析を開いた。
そして、表示された数字を見て、思わず目を疑った。
60。
それが、昨日の読者数だった。
……60。
俺にとっては、これまで見慣れていた数字と比べると、あまりにも少なすぎる。
どうして、こんなに少ないんだ?
胸の奥がざわつき、指先がわずかに冷たくなった。
きっと、何かの間違いだ。
そう思って、もう一度画面を確認する。
けれど、数字は変わらない。
……いや、そんなわけない。
これは間違いなんかじゃない。
俺は画面を見つめたまま、何も言えずに固まっていた。
「慧翔くん、準備できたよ。出るね」
「ああ──」
彼女が出てきて、俺の前に立った。昨日とは違って、どこかいつもとは違うように見えた。
髪はいつもより艶やかで、肌も普段より輝いているように見える。
まさか……。
「メイク、したんじゃないか?」
彼女は少し心配そうに頷いた。俺はしなくてもいいと言ったけれど、それはメイクをしちゃいけないという意味じゃない。それに、実際に彼女の姿を見てしまえば、素直に認めるしかなかった。
すごく似合っている。
「似合ってるよ、真希」
そう言うと、彼女は満足そうに微笑んだ。けれど、すぐにその表情を隠すように視線を逸らし、そのまま俺のほうへ歩き始めた。
「ありがとう、慧翔くん。してよかったよ」
彼女は俺の手を取ることもなく、ただそのまま俺の横を通り過ぎていった。怒っているようには見えない。少なくとも、俺にはそうは見えなかった。
でも、真希が時々こういう態度を取るのは、なんだか少し面白いと思ってしまう。本人は何でもないような顔をしているけれど、よく見ていれば、ほんの少しだけ機嫌が変わっているのが分かる。
とにかく、今は急がないといけない。遅刻なんてしたくないし、それに、今日は公開したばかりの話だから、昨日よりアクセス数も増えているはずだ。
それについて、真希に話すべきだろうか……。
もし昨日の数字があまりにも少なかったと知ったら、きっと彼女は怒るだろう。
だから、彼女が自分で気づくまでは言わないほうがいい。俺から教えるよりも、自分で気づいたほうがいいに決まっている。
そう考えながら、俺は小さく息を吐いた。
* * *
結局、俺たちは二人一緒に学校へ着いた。
けれど、真希は学校に着くまで、一度も俺の手を握ろうとはしなかった。
そういえば……どうして彼女は、さっきからそんな態度を取っているんだ?
今回は彼女の母親にも話さないといけない。そうする必要があるのは分かっている。
でも、その前に……。
「何か言いたいことでもあるのか?」
俺がそう尋ねると、彼女は足を止めた。そして、少しだけ間を置いてから、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「ごめん。まさか、あんなに少ないとは思わなかった……」
どうやら、もう知っているみたいだ。
少なくとも、真希も昨日のアクセス数を気にしているんだと分かって、俺は少しだけ安心した。
「言わなくてごめん。自分で気づいてほしかったんだ。たった60アクセスしかなかったって」
「え? 何の話? 今日の予定の話だよ。放課後に真昼ちゃんと約束があるから、あんまり一緒にいられないんだ」
……しまった。
どうやら俺が勘違いしていたらしい。
てっきり、彼女も小説のアクセス数について話しているものだと思っていた。
俺は一瞬、何も言えなくなった。さっきまで勝手に真希の気持ちを想像していたことが、急に恥ずかしくなってくる。
「昨日のアクセス数はどれくらいだった? 教えてよ」
どう言えばいいんだろう……。
たぶん、かなり言いにくい話になる。でも、ここまで来たら隠していても仕方がない。
俺は一度だけ深く息を吸ってから、静かに口を開いた。
「えっと……昨日のアクセス数は60だった」
そう言って、俺は思わず視線を逸らした。
真希はきっと怒るだろう。
特に、俺がそのことを隠していたと知ったら……。
そう思っていた。
けれど――。
「それはいい知らせだね、慧翔くん! 60アクセスもあれば十分だよ。Xでもどこでも宣伝してないのに」
「え?」
まったく違う反応を想像していた。
怒られると思っていた俺は、思わず彼女の顔を見返した。心臓が一瞬だけ大きく跳ねたような気がする。
まさか、そんなふうに言ってくれるなんて……信じられなかった。
「昨日のアクセス数が少ないって、怒ると思ってた」
そう言うと、真希は首を横に振って、優しく微笑んだ。
「違うよ。ゆっくりでも、少しずつ増えていくはずだよ。待ってればいいんだ。そのうち、ちゃんと分かるから」
……くそっ。
その言葉を聞いて、俺は小さく息を吐いた。
どうやら、俺は彼女を信じるしかなさそうだ。
うまくいくといいけど。
それに、今日は新学期の初日だ。まだ時間はたっぷりある。
公開する話だって、まだまだ残っている。
だから、今すぐ結果を求める必要なんてないのかもしれない。
焦らずに続けていけば、いつかこの数字も変わっていくはずだ。
俺はそう自分に言い聞かせながら、もう一度だけ小さく息を吐いた。
* * *




