第100話 旧友との再会
* * *
授業が終わると、真希は坂本さんと一緒にどこかへ行った。二人の間に何か変な様子はなく、ただ普通に放課後に女子同士で出かけるといった感じだった。
少なくとも、彼女はそう言っていた。
今は何をすればいいのかわからなかった。それに、雨宮も授業が終わるなり姿を消してしまったから、彼に頼ることもできなかった。
もう一つの問題は、早く帰りすぎることだった。真希の存在にすっかり慣れてしまって、今部屋に戻ってもあまりに寂しい気がした。
間違いなく変な感覚だ。九ヶ月以上一人で暮らしてきたのに、今では彼女がいない場所に戻ることを想像するだけで辛くなった。
何か飲み物を買いに行こう。
喉が渇いてきたから、ついでに何か飲み物を買える。でも……
何を飲もう?
「助けて!」
え?
今の声は? 女の子の声だった。
……たぶん気のせいだ。
一歩踏み出したけど、また同じ声が聞こえた。今度はもっとはっきりと。
「誰か、助けてください!」
どうやら本当に誰かが助けを必要としているようだ。
迷わず声のした方へ走っていくと、中年の男が女生徒に絡んでいるのが見えた。
あの制服……
俺と同じ学校のやつだ。
見たことがある気がするけど……
ああ、思い出した。
去年のクラスメートだ。
クラスで人気のある女子で、真希とは違って特定のグループに囲まれているタイプだった。
なんでこんなところに一人でいるんだ?
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。行動しなきゃ。
彼女の前に立ちはだかって、真剣な目で男を見た。
「彼女から離れてもらえますか? もし離れなければ警察を呼びます」
男は一瞬驚いたように見えた。突然現れた俺を上から下まで見て、数秒間迷った後、軽蔑の目で見下ろした。
「ちっ! またな、次はないぞ。はははは!」
男は気味の悪い笑い声を残して去っていった。
それでも、彼が完全に視界から消えるまで、緊張は解けなかった。
「大丈夫か? 何かされたか?」
「いいえ、大丈夫です。助けてくれてありがとうございます……」
彼女の言葉は途中で止まった。目が合った瞬間、彼女の思考が一瞬止まったように見えた。
何か聞こえないような声で呟いた。
「和泉慧翔くん……? 和泉くんですよね?」
彼女の水色の目が輝いて、確かめるように待っていた。
否定する理由もなかったからうなずいた。すると、彼女は微笑んだ。
「今気づいたの? 優希さん」
「えへへ、ちょっと変わったからね。前はもっと離れてたのに」
「……そうだな。時間が経てば変わることもあるさ。ところで、いつものグループと一緒じゃないんだな」
「えへへ……みんな用事があってね。私も宿題がたくさんあるし」
「そうなのか? でも今日が初日だろ。初日から宿題が出るなんて、ちょっと変だな」
彼女は気まずそうに笑ったけど、また俺を見た。
「そうだね。それに、弟の面倒も見なきゃいけないし、ちょっと複雑なんだ。だから……うちに来てくれない? 君たち、きっと気が合うと思うんだ」
子供と話すのか……
将来のためになる経験かもしれない。
今までやったことがないから、うまくやれるかどうかはわからない。
でも、やってみて悪いことはないだろう。
「いいよ。気に入ってもらえるかな?」
「ずっと君の話をしてるから、大丈夫だと思うよ」
ずっと俺の話を?
なんで?
「何を話してるんだ?」
彼女は小さく笑ってから答えた。
「高校では一人ぼっちの男の子になってほしくないから、友達を作るべきだって言ってたんだ」
どうやら俺は彼にとってただの参考資料だったようだ。そうだろうと思った。
「どうやら少なくともやる気にはなってるみたいだな」
「ねえ、君のいいところも話してたんだよ。すごく賢くて優しい人だって、みんなから好かれてるけど近づけなかったって、それに……」
彼女の口調は、その思い出をもう少し長く引き延ばしたいかのようだった。でも、突然じっと俺を見つめ始めた。何か言いたげな様子で。
その目つきは見覚えがあった。でも、今回はそれが同じ意味かどうかはわからなかった。
逃げはしなかったけど、間違いなくこの駒を動かすべきだった。
「そういえば、新しいクラスはどうだ?」
彼女はすぐに目をそらしてうなずいた。
「うん、まあまあ慣れてきたよ。前のクラスから残ったのは二人だけだし、知ってる人もあまりいないんだ」
「そうか。最初のうちは慣れるのがちょっと大変だよな。でも、君は君だし、きっとたくさん友達を作れると思うよ」
「ありがとう、和泉くん。そういえば、君がこんなに優しい人だとは思わなかったよ」
「そうか? どうして?」
彼女は空を見上げて微笑んでから、また俺を見た。
「えっと、君は結構距離を置いてたし、気づいてなかったかもしれないけど、すごく冷たい表情をしてたんだ。でも今は、それがただの君の普通の顔だってことがわかったよ」
本当にそうだったのか?
真希にそんな風に見えたかどうか、聞いたことはなかった。
「自分では普通の人間だと思ってたけど、そうじゃなかったみたいで驚いたよ」
彼女は口元を押さえて笑った。
「ちょっと言い過ぎたかもしれないけど、そんな感じだったよ。悪い人ってわけじゃなかったけどね」
「えっと……ありがとう、優希さん。なんで他の人に気づいてもらえないのか、考え始めてたところだったんだ」
もちろん、友達、特に他の男の子たちのことを言ってた。今なら、授業中にほとんど誰も話しかけてこなかった理由がわかった気がする。
優希はそれをよく知っていた。何しろ、クラスメートの中で、彼女だけは何度も話しかけてきた唯一の人間だったから。
でも、それには何か理由があるはずだと思って、あまり気にしたことはなかった。少なくとも、今までは。
それに、たぶん彼女が近づいてきたのは同情からだったんだろう。
「お礼なんて言わないでよ。私の方こそ、さっき助けてもらってありがとうって言いたいぐらいだし」
「いや、そんなの大したことじゃないよ。ただやるべきだと思ったからやっただけだし、やってよかったと思ってる」
「よし、急ごう。もうすぐ家に着くよ。ただ、誰かがいるといいんだけど」
「そうだな。暗くなる前に急ごう」
そう決めて、歩く速度を上げた。真希がいつ帰ってくるかわからなかったけど、どうやら彼女も少し遅くなりそうだった。
それに、まだ午後3時26分だ。
まだ間に合う。




