第72話 朝の視線と、家族の温かさ
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「ん……」
え……? 違う……ただの夢だったのか……。
隣には、明らかに誰かがいた痕跡が残っていた。自分とは違う香りも、まだ微かに残っている。
普段はこういうことに鈍いはずなのに、どうしてわかったのか、自分でも不思議だった。
「やっぱり夢じゃなかったんだな……」
真希はここ数日で少し変わった。ずっと隠していた気持ちをようやくさらけ出して、心を開いてくれたような気がした。
でも、結局真希は真希だ。
そして、今の彼女のそういう一面を知ることができたからこそ、もっといろんなことを知りたいと思った。
…………
それでも……起きるのがめんどくさい。
でも、仕方ない。
ゆっくりと体を起こし、部屋を片付けて、ベッドを整えた。散らかっていたのは、そのくらいだった。
ドアを開けると、向こうで誰かがもう待っていた。
「あ、お兄ちゃん!」
その口調だけで、この後何を言われるか想像できたから、あまり気にしないことにした。
「まず挨拶だろ」
「おはよう、お兄ちゃん」
……この子は。
くそっ……今は無視しよう。
階段を下りてキッチンに目を向けた瞬間、足が止まった。
「あ、慧翔くん、おはよう」
あまりにも自然な真希の挨拶に、なぜか一気に落ち着いた。
「おはよう、息子よ。どうやら昨夜はよく眠れたみたいね。ふふふ」
「…………──」
「…………──慧翔くん……一葉さんに気づかれた……」
「あまりにもわかりやすすぎたのよ〜。あなたたちが二階に上がっていった時、お父さんと私、笑いをこらえるのが大変だったんだから」
真希と俺は、すっかり気まずくなってしまった。
バレてる。
「やっぱり真夜が話を持ち出しかけたのが原因だな」
でも、どのみち今日話すつもりではあった。
「私は何も言ってないよ。話す前に口を塞いだのはそっちでしょ」
そう言って、真夜は涼しい顔でリビングへ行ってしまった。
母さんがもう一度真希と俺を見てから、俺を呼んだ。
「慧翔、ちょっと来なさい」
何も言わず、真希のそばまで歩いていく。
「慧翔、真希ちゃん……おめでとう。やっと二人が付き合うことになって、本当に嬉しいわ。息子が幸せになるところを見られたら、もう安心して死ねる気がするくらいよ」
真希はすぐに顔を赤らめた。でも、必死に平静を装っていた。
とはいえ、もうほとんど隠せていなかった。
「私にとって真希ちゃんは、もう家族みたいなものよ。それに、この様子だとすぐに本当の家族になりそうね。ただ、お互いをちゃんと大事にしなさい。もしどちらかが相手を泣かせたら、絶対に許さないからね」
「……そんなこと、絶対にありません。慧翔くんとは別れません。それに、彼は私の婚約者でもあるんですから、なおさらです」
母さんはその言葉を聞くと、満面の笑みを浮かべたまま真希を抱きしめた。
その光景を見て、俺は今までにないほど安心した。けれど、母さんが真希の耳元で何かを囁くと、真希はさらに顔を赤くして、小さくうなずいた。
「……二人で何かあったのか?」
「ううん、何もないわよ。ただ、将来のお嫁さんにちょっとお願いしただけ。ね?」
「は、はい……そうです……」
何を言われたのか気になったけど、真希の反応を見る限り、どうやら教えてくれそうにはなかった。
結局……女同士の話ってやつか。
「よし、息子よ。先に席について待ってなさい」
何も言わずに食堂へ向かうと、父さんがもう待っていた。
満面の笑みを浮かべ、めったに見せないあのいたずらっぽい目をしながら、まるで発言の許可でも求めるように手を挙げた。
「やっと恋人同士になったな。でも正直、あのビデオ通話の時から、こうなるんじゃないかと思ってたよ」
「そんな前からか? じゃあ……真希に対するあの態度も……」
「まあな」後ろ頭をかきながら、見つかった子どもみたいな顔で言った。「半分はそうだ。まだ本当に付き合ってないってわかってたけど、それがいい刺激になると思ったんだ。で、どうやら間違ってなかったみたいだな」
言い終えた父さんの顔には、隠しきれない誇らしさが滲んでいた。
つまり、結局母さんは父さんにも話してたってことか……。
でも、もう気にならなかった。
むしろ、うまくいってよかったとさえ思った。
その時、父さんがキッチンの方へ向かうと、まるでその瞬間を待っていたかのように、真希が二人の前に立った。
「誠一郎さん、一葉さん……私を信じてくださって、ありがとうございます。これからも、その信頼に応えられるように頑張ります」
そう言って、丁寧に頭を下げた。
思わず小さく笑ってしまった。
「顔を上げなさい。息子の彼女にそんなに堅くなられると、こっちまで照れちゃうわ」
真希はゆっくりと顔を上げた。
その表情はまだ真剣だったけど、目にははっきりとした決意が宿っていた。
よかった……。
二人があんなふうに受け止めてくれて、本当によかった。
「はい……わかりました」
「さあ、ここもあなたの家だと思って。もっと気楽にしてちょうだい」
母さんが温かく微笑み、二人はそのままキッチンへ向かって朝食の支度を続けた。
父さんと俺は、テーブルでじっと待っていた。
すぐに真夜も加わった。
真希が俺の隣に座り、向かいには真夜、父さん、母さんが並んだ。
しばらくは少し気まずい空気が流れていた。
でも、時間が経つにつれて、みんな少しずつその新しい状況を自然に受け入れ始めていた。
時々、真希と目が合ったけど、向かいの三人はそれをまったく気にしていないようだった。
一瞬、食堂が心地よい沈黙に包まれ、食器の触れ合う音と呼吸だけが静かに響いていた。
「お父さん、あーんして」
「あーん」
……
あの二人は一体何をしてるんだ?
しかも、なんでよりによって今日に限ってそんなことをするんだ?




