表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/78

第71話 雨の夜と、初めての夜

 祭りの屋台をいくつか回った後、私たちは家に戻った。


 予想通り、一葉さんと誠一郎さんはもう帰ってきていた。


 玄関ではなく、リビングに座って静かに話していた。家の中に漂う温かな空気の中でも、真夜ちゃんの興奮は少しも冷めていなかった。


「ただいま〜!」


「ああ、おかえり。楽しかった?」


「うん! すごく楽しかった! それにお兄ちゃんがすごく感動して……」


 言い終わる前に、慧翔くんと私が同時に彼女の口を塞いだ。


 一葉さんと誠一郎さんが怪しそうに顔を見合わせた。


 でも真夜ちゃんは、まだ話す時じゃないとすぐに察したようだった。


「何かあったの?」


 一葉さんが私たちの反応を見て、不思議そうに尋ねた。


 今はすべて真夜ちゃん次第だった。


「えっと……お姉ちゃんがお兄ちゃんにすごく恥ずかしいことをしちゃって、今二人とも死にそうなくらい恥ずしがってるんだ」


 二人はまだ半信半疑といった様子だったけど、その説明でひとまず納得したようだった。


 * * *


 その話はその夜はもう蒸し返されることもなく、しばらく話した後、それぞれ自分の部屋へ戻った。


 でも、ちょうど寝ようとした時、雨が降り始めた。


 この辺りではあまり珍しいことじゃなかったけど、小さい頃から雷は少し苦手だった。


 ただ、大丈夫でありますように……


「きゃあっ!」


 突然の雷鳴に、ベッドの上で飛び起きた。


 やっぱり……このままじゃ眠れそうになかった。


 間もなく、ドアの向こうから三回、優しいノックが聞こえた。


「……真希、大丈夫か? 何かあったのか?」


 心配させたくなかった。


 今夜だけは我慢すればいい。


「ううん……大丈夫。心配してくれてありがとう、慧翔くん……きゃあっ!」


 言い終わる前に、さっきよりさらに大きな雷鳴が、雨音とともに家を揺らした。


 慧翔くんが明らかに心配そうに再びドアをノックした。私はベッドの上で縮こまりながら、なんとか落ち着こうとしていた。


 ノックは止まなかった。


 雷の音が数秒だけ弱まった時、急いで立ち上がってドアを開けた。


 ……あ。


 やばい。


 それを忘れてた。


 まだ間に合う。


「ちょ、ちょっと待って……すぐ開けるから。でもその前に、あなたに見られちゃ困ることをしなきゃ」


 慧翔くんは軽くうなずいた。


 それだけで大きな安堵だった。


 こんな姿を見られたくなかった。


 急いで服を整え、晒しを巻き直して、もう少し胸が目立たないようにした。


 終わると、深呼吸してドアを開けた。


 彼はまだそこに立って待っていた。


 でも、一言も言う前に、彼は私を腕の中へ抱き寄せた。


 まったく予想外の抱擁だった。


「大丈夫か? 何度も叫び声が聞こえて、心配で仕方なかった」


「慧翔くん……」


 声がいつもよりずっと柔らかくなっていた。


「今夜……一緒に寝てもいい?」


 彼の体が一瞬で強張った。


 数秒間、何も言えずに固まっていた。


「慧翔くん?」


「……真希……本当にそれでいいのか?」


 彼の声には誠実な心配が滲んでいた。


 誤解を避けたいんだろう……そして正直なところ、私も彼が何を言おうとしているのかわかっていた。


「何も起こらないよ。ただ……雷が怖くて、誰かと一緒に寝たいだけ」


「真夜と一緒に寝ればいいだろ。二人とも女同士だし……な?」


「バカ」


 もっと強く抱きしめた。


「あなたがいいの。あなたじゃなきゃ眠れない気がする……彼女が彼氏と一緒に寝ちゃいけないって決まりでもあるの?」


 彼の心臓がどんどん速く鼓動するのがわかった。


 彼の頬も赤くなり始めていた。


 その時、また雷が家の真上で轟いた。さっきよりもずっと大きく、ずっと近くで。


「きゃあっ!」


 考える間もなく、もっと強く彼にしがみついた。


「ま、真希……?」


 彼の声が少し震えた。


 数秒の沈黙の後、彼は小さく諦めたようにため息をついた。


「……わかった。いいよ」


「それに、あなたの部屋がいい……まだ入ったことないし……」


「わかった……もう断れないよな?」


「そう、断れない」


 それ以上何も言わずに、彼の部屋へ向かった。


 * * *


「くつろいでいいよ」


 そう言って明かりを点けると、部屋がゆっくりと明るくなった。


 広いベッドがあった。二人で寝ても十分な広さだ。


 部屋は私が使っている部屋と同じくらい広かった。いくつかの棚には、慧翔くんが子供の頃、一葉さんや誠一郎さん、真夜ちゃんと一緒に写った写真が飾られていた。


 それに、とても落ち着く香りがした。


 正直に言うと……彼の匂いがした。


「わあ……ここがあなたが何年も寝てきた部屋なんだね……」


 ドアをそっと閉めながら、彼が答えた。


「ああ。実は、家族以外の女の子がこの部屋に入るのは初めてなんだ。葵さんだって入ったことない」


 それがなぜか嬉しかった。


「まあ……彼女なら何でも一番でいいでしょ? ははは」


 もちろん、家族より上になりたいわけじゃなかった。でも、他の女の子の中で自分だけがその場所にいることを知って、嬉しかった。


「そうだな、その意味ではそうだよ。じゃあ、床に布団を敷くよ」


「慧翔くん……一緒に寝たいって言ったよね。同じ部屋じゃなくて、同じベッドで」


「え? えっと……俺……」


 彼の言葉が止まり、頬が赤くなり始めた。


「反論は認めないよ、慧翔くん〜」


「……わかった」


 彼があんなに恥ずかしそうにうなずくのを見て、思わず笑ってしまった。まるでわざとからかっているみたいだった。


 彼は急いでベッドに向かい、そのまま明かりを消した。


「じゃあ、早く……後悔しても知らないからな」


 その言葉は、まるで私を臆病者扱いしているように聞こえた。


 もちろん、もう後戻りはできなかった。


 想像していた通り、柔らかくて寝心地のいいベッドに横たわった。


 背を向けたまま、彼の手を探した。あの日、うっかり一緒に寝てしまった時と同じように。


 見つけると、指を絡めて優しく微笑んだ。彼には見えなかったけど。


 彼は抵抗しなかった。


 むしろ、温かく握り返してくれた。


「慧翔くん……?」


「うん?」


「あなたの手、気持ちいいよ〜」


 そう言って、もう少し彼の背中に寄り添った。


 彼の心臓がどれだけ速く鼓動しているか、はっきりと感じられた。


「君の手も……気持ちいいよ」


 心の中で微笑んだ。


 もう少し強く彼の手を握った。でも今回は、もっと何かしたかった。


「慧翔くん?」


「うん?」


 ゆっくりと耳元に近づき、かすかに聞こえる声で言った。


「大好きだよ、慧翔くん」


 あまりに突然すぎて、ちょっと恥ずかしかった。


 でも、彼の体が震えるのを感じると、なぜかすべてが報われた気がした。


「俺も……大好きだよ、真希……」


「慧翔くん……」


 彼の手を離し、両腕を彼の腰に回して、そっと抱きしめた。


「このままずっと眠っていたい」


 体をもっと彼に寄せた。まるで大きなぬいぐるみを抱きしめるように。


「いいのか……?」


「ダメ! 彼女に逆らった罰だから、今日はこうやって寝るの……明日も多分ね」


「どうやら俺の愛しい彼女は、状況を利用するのが好きみたいだな……ちゃんと眠れるか心配だよ。眠れなくなりそうだ」


「えへへ〜。チャンスを見つけただけだよ。さあ、慧翔くん……おやすみ」


 もう少し体を寄せて、彼の柔らかな頬にキスをした。


 それから顔を彼の肩に寄せた。


 彼は完全に固まっていた。


 私はもうおやすみを言った。


 そしてそれで……ようやく安心して眠れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ