第70話 思いもよらなかった答え
私の言葉は、ただ彼をさらに驚かせただけだった。
今はただ彼の返事を聞きたかった。
私の気持ちに対する返事を。
再び不安が顔を覗かせ始めたその時、彼の腕が私を強く抱きしめた。
ほとんど反射的に抱き返すと、安堵と嬉しさが入り混じった声が耳元でささやいた。
「よかった……俺は……俺はこんな日が来るなんて思ってなかった」
彼の抱擁が少し強くなった。
「きっとバカみたいに見えたよな、急に距離を置いたりして。でも、それは俺も同じ気持ちだったからなんだ」
バカ……
遅すぎたよ。
もう好きじゃなくなったのかと思った。
胸を軽く叩いた。責めるというより、小さな抗議みたいに。
それでも、笑顔は止められなかった。
すべてうまくいった。
「これって少女漫画みたいだと思わない? それとも私だけ?」
「えっと……多分君だけだと思う。俺はそんな主人公にはなれないし」
「気にしないよ。でも、よく考えたら、私たちの物語もそんなふうに始まったわけじゃなかったよね。全部成り行きで……なのに、こんなふうになるなんて」
「ああ、知ってるよ」
彼は優しく微笑んだ。
「それで、思い描いてた結末は変わった?」
もっと強く抱きしめながらうなずいた。
「それで……どうやってお父さんとお母さんに言う?」
「怒らないと思うよ。むしろ、あの人たちは俺より君のことが好きなくらいだ。実の息子よりもな」
「えへへ……じゃあ、もうすぐ家族の一員になれそうだね。ここまで来たら、もう避けられないみたい」
もう一度目が合った。
でも、突然彼の表情が変わった。
彼の視線は私の後ろの一点に止まり、驚きと恐怖が入り混じった表情でそこを見つめていた。
「……お前……いつからそこにいるんだ?」
戸惑いながら、彼の視線の先を追った。
振り返ると、そこには真夜ちゃんがいた。両手でスマホを握りしめ、満面の笑みを浮かべながら。
「えへへ〜。完璧な瞬間を撮ったよ」
真夜ちゃん?
確か友達と一緒にいるはずじゃなかった?
「いつからそこにいるの、真夜ちゃん?」
彼女は誇らしげにスマホを揺らした。
画面には一枚の写真が映っていた。
それは……私が慧翔くんにキスした瞬間だった。
慧翔くんの目が一瞬輝き、彼も自分のスマホを取り出した。
「送ってくれよ。記念に残したい」
「慧翔くん、ダメ! 恥ずかしすぎる……!」
顔が熱くなるのを感じた。
あの写真の中で、自分がどんな顔をしているのか、想像もできなかった。
「俺たちカップルの最初のキスだろ? 残しておくべきだと思う」
「……」
慧翔くん……
実は私もその写真が欲しかった。
でも、真夜ちゃんと慧翔くんの前で言うのは恥ずかしすぎた。
「わ、わかった……慧翔くんがそう言うなら……でも、あの写真だけだよ!」
二人が同時に小さく笑った。まるでその返事を待っていたかのように。
「よし、お姉ちゃん。それで二人の思い出がまた一つ増えたね」
「真夜ちゃん、そんなこと言わないで!」
彼女が続ける前に口を塞ごうとしたけど、もう遅かった。
慧翔くんが目を見開き、ゆっくりと私の方を見た。
「真希……それについて何か知ってるのか?」
「えっと……前にうっかりキスした時、お母さんが写真を撮ってて……」
慧翔くんの頬が赤くなり始めた。
「なんでそれが真夜の手に?」
私が答える前に、真夜ちゃんが彼に近づいて何かを耳元で囁き始めた。
慧翔くんは完全に固まった。
彼の表情は少しずつ変わり、まるで彼女の言葉を一つ一つ噛みしめているようだった。
どうやら、私には恥ずかしすぎる説明を、彼女が代わりにしてくれたらしい。
数秒後、彼は再び私を見た。
「真夜が言ってたこと……本当なのか?」
息を吸ってから、ゆっくりとうなずいた。
「……うん、でも事故だったんだ。お母さんがその日に写真を送ってきて……そのまま保存しちゃった。実は……」
スマホを取り出して、待ち受け画面を見せた。
あの写真だった。
見せただけで、頬が熱くなるのがわかった。
慧翔くんは完全に固まっていた。
数秒間、一言も口にできなかった。
それから、彼の唇に小さな笑みが浮かび、思わず笑い声が漏れた。
「何笑ってるの? これを見せるだけでも十分恥ずかしいのに」
「あの日のことを思い出しただけだよ……ごめん、ごめん」
「これは私たちだけのものなんだからね? 私たちの……初めてのキスなんだから」
「.........そうだな」
彼の笑顔がさらに優しくなった。
「でも……俺もその写真が欲しい」
「慧翔くん……わかったけど、真夜ちゃんに頼んで。これは……これは私だけのものだから」
「はいはい。でも、たぶん同じ写真だと思うけどな」
「それはあなたにとってだけでしょ、バカ……あっ!」
言い終わる前に、真夜ちゃんが私に飛びついて、力いっぱい抱きしめた。
「おめでとう、お姉ちゃん! おめでとう、お兄ちゃん! やっと恋人同士になったね! 私の頑張りが報われたよ!」
「ありがとう。真夜ちゃんが何度も背中を押してくれなかったら、多分一生慧翔くんに気持ちを伝えられなかった」
微笑みながら抱き返した。
それは本当だった。
もし真夜ちゃんが何度も何度も背中を押してくれなかったら、多分勇気なんて出せなかった。
慧翔くんがしばらく私たちを見つめてから微笑んだ。
「ああ。俺もお前には感謝してるよ、真夜。実は……今夜真希に告白しようと思ってたんだ。でもその前に、彼女の気持ちを勘違いしてないか確かめたくて」
慧翔くん……
彼も同じだったんだ。
「多分、あなたに先に言ってもらうのを待つべきだったね」
思わず笑い声が漏れた。
真夜ちゃんも満足そうに笑い始めた。まるでその言葉を待っていたかのように。
でも、彼女の表情が突然変わった。
彼女らしくない真剣な表情で、慧翔くんを指さした。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんを泣かせたら、許さないからね。わかった?」
「好きな人を傷つけるわけないだろ。まして今は彼女なんだから」
その迷いのない答えに、心臓がもう一度跳ねた。
「よし」
真夜ちゃんは満足そうにうなずいてから、また私の方を向いた。
「お姉ちゃん、もしお兄ちゃんが何かバカなことをしたら、遠慮なく殴っていいからね」
慧翔くんに少し意地悪な笑みを向けた。
「いいね。それに、おまけの罰として一晩中小説を書かせることにする」
慧翔くんはごくりと唾を飲み込んだ。
「まあ……俺が何か悪いことをするわけないけどな」
「ただ、もしそんな日が来たらって言ってるだけ。お互いが納得してるなら、私は何も言わないよ」
冗談だというのは明らかだった。
でも、慧翔くんがそのままうなずくなんて、予想外だった。
まさか十三歳の女の子が、私たちを恋人同士に結びつけることになるなんて、誰が想像しただろう。
隠しきれない喜びを胸に、真夜ちゃんは私たちの手を取って、祭りの屋台の方へ引っ張っていった。




