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第62話 湯けむりの中の告白

 真夜ちゃんと私はもう一度湯船に浸かった。


 一瞬にして体の芯までほぐれていく感覚に、思わず小さな吐息が漏れた。タオルは近くの岩の上に置き、真夜ちゃんは頭の上に載せていた。


「さあ、これで二人きり。話せるわね。でも、もう答えはわかってるけど」


 恥ずかしそうにうなずいた。


「そんなにわかりやすいかな?」


「ふふふ、わかりやすすぎ。お母さんだって気づいてたよ。でも、いつからお兄ちゃんのこと好きになったの?」


 それは私自身も何度も自分に問いかけた質問だった。


 最初の瞬間を挙げるとしたら……


「ビデオ通話でご両親に会った日。あの時初めて心臓がこんなに速く鳴って、でも彼のせいだって認めるのが怖かった」


「じゃあ……いつ気づいたの?」


「熱を出した時かな。その時初めて、自分が彼を好きなんだって気づいたの」


「お兄ちゃん、何かすごいことしたんだね。お姉ちゃんを惚れさせるなんて」


「誰よりも優しく看病してくれて、守ってくれて、わがままも聞いてくれた。その時にこの気持ちに気づいたの」


「へえ〜、そうなんだ。それはびっくり。続けて、すごく気になる」


「えっと……その後、少しずつ距離が縮まって今の関係になったの。手を繋いだり……それから、いろいろね」


「本当? 例えば?」


「えっと……誕生日に、彼がしてくれたことのお礼に、頬にキスしたの」


「きゃあ〜! お姉ちゃん、ずるいね。それで? 聞かせて、楽しみ」


 彼女のしつこさに、ますます恥ずかしくなっていく。


 同時に、自分が正しいことをしたのかどうかも考えさせられた。


 彼が嫌な顔をしなかったのは確かだった。ただ戸惑っていただけ。


 でも、それってどういう意味なんだろう?


 その後は何もなかったけど、思い出すたびに、彼は嬉しかったのかなって気になってしまう。


「お姉ちゃん、一ついいこと教えてあげる。ちゃんと聞いてね。二度と教えないから」


 え? 何の話だろう?


「うん、心して聞くわ──」


 真夜ちゃんは深く息を吸い込んだ。まるで爆弾を落とそうとしているみたいに。


 数秒迷った。


 そしてついに口を開いた。


「お兄ちゃんも、あなたのこと好きかもしれない」


「え?」


 そ……それは本当なの?


 いや、ただの真夜ちゃんの推測だ。


 それでも、驚かないわけにはいかなかった。


 だって彼女は彼の妹で、私よりずっと彼のことを知っているから。


「私……何て言えばいいかわからない。でも、そんな可能性があるって聞けて嬉しい」


「お姉ちゃん、迷わないで。一つだけ教えて。お兄ちゃんのこと、好き? 嫌い?」


「うん、大好き。ただ……」


 私……


 話してもいいよね?


 彼女なら秘密を守ってくれるよね?


「最初は小さな気持ちだった。でも今は、一緒にいないと寂しく感じる。真夜ちゃん……私、慧翔くんのことが大好きなの。だから、この気持ちがちゃんと伝わるように手伝ってほしい」


 それが私の本当の決意だった。


 心から望むこと。


 あとは彼女の返事を待つだけ。


 顔を上げると、真夜ちゃんは大きな笑顔を浮かべていた。頭の上のタオルを取って、私の手を握った。


「うん、何でも手伝うよ。何かあったら頼ってね。お母さんも一緒に応援するから」


「真夜ちゃん……約束する。ベストを尽くすから」


 誰かのためにこんなに変わるなんて、想像もしていなかった。


 でも、彼のこととなると、もしかしたら避けられないことだったのかもしれない。


「わかってる。絶対うまくいくよ、お姉ちゃん!」


「うん!」


 湯船にしばらく浸かったまま、体の芯まで温まったところで、そろそろのぼせそうになってきたので上がることにした。


 脱衣所に戻るのも一苦労だった。特に、真夜ちゃんがまた下着のタグで遊び出さないように気を配る必要があったから。


 でも、着替えを済ませて帰り道につくと、すべてがすっかり変わったように感じられた。


 二人の間にはもう、気まずさも隠し事もなかった。ただ、これまで誰とも感じたことのない、温かい連帯感だけがあった。


 家のドアを開けると、淹れたてのお茶の柔らかな香りが広がった。


 リビングに入ると、最初に目に入ったのは慧翔くんだった。


 彼は長椅子に座り、本を手にして、落ち着いて知的に見せようとしていた……


 でも、本は逆さまだった。


 私たちが入ってくるなり、彼は少し緊張したように視線をそらした。でも、その耳がまだ可愛らしいピンク色に染まっているのを隠せるほどではなかった。


 間違いなく、私たちがいなかった時間を一分一分数えていたのだ。


 どうすればいいかわからず、入り口で立ち止まってしまった。


 でも解決策を考える間もなく、真夜ちゃんが私の腕を取って、慧翔くんのところへ引っ張っていった。


「(さあ、チャンスだよ、お姉ちゃん)」


「(どうすればいいの? どうやってアプローチすればいいのかもわからないよ)」


「(だめだよ〜。とりあえずやってみて。うまくいくって)」


「(……本当に?)」


「(うん! 私を信じて)」


 短いやり取りの後、真夜ちゃんは一人で結論を出したようだった。


 そして次の瞬間、私をソファへ向かって押し出した。


「私は部屋に戻るね。パパもママも今は留守だし、二人きりにしてあげる──」


「真夜!」


「真夜ちゃん!」


 彼女は振り返りもしなかった。


 ただ手を挙げて別れの合図をし、そのまま二階へ消えていった。


「…………」


「…………」


 リビングに気まずい沈黙が落ちた。


「真希……あ、どうぞ、君から……」


「慧翔くん……あ、どうぞ、あなたから……」


 二人同時に口を開いた。


「いいよ……どうだった? もう気分はいい?」


「あ、うん。ありがとう。もうだいぶいいよ。最初は変な感じだったけど。物心ついてから誰かとお風呂に入るの、初めてだったから」


 緊張を少し和らげようと、笑ってみせた。


 それから、もう少し勇気を振り絞ることにした。


 もしかしたら、あれを試せるかもしれない……


「あなたも入ればよかったのに。きっとリラックスできたよ」


「いや……いや、それはちょっと……」


 一瞬目をそらしてから続けた。


「ところで、電車の中で書いたやつ、見せてもらえる?」


 その言葉を聞いて、さっきまで考えていたことはひとまず諦めて、もっと安全な話題に切り替えることにした。


 だって、それは私たちに共通する話題だったから。


「あ、うん。ファイルを送るね。ゆっくり読んでくれると嬉しい」


「……ああ」

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