第54話 見た目以上に大きな想い
* * *
準備を終えて部屋に戻ると、真昼ちゃんはさっきより少し落ち着いたように見えた。
「おっ、真希ちゃん……ちょっとだけ仕上げしてあげる。いい?」
私は小さく微笑んでうなずいた。
全部話してしまったせいで、まだ少し罪悪感が残っていた。
でも、彼女は私の姿をじっと見た瞬間、目を見開いた。
「うわ……これ、やば……」
「え? 何か言った?」
「なんでもないなんでもない」
そう言いながら私の手首を掴み、ドアのほうへ引っ張っていく。
「暗くなる前に行こ〜」
反応する間もなく、真昼ちゃんは勢いよくドアを開けた。
そして、まるで司会者みたいに両手を広げる。
「じゃじゃーん! 本日の主役の登場でーす!」
「え……?」
顔を上げる前から、和泉くんの視線を感じていた。
そして真昼ちゃんに背中を押されて前に出た瞬間——
見てしまった。
和泉くんが、じっと私を見つめていた。
びっくりするくらい、見入っていた。
「あ、和泉くん……そんなに見ないで……」
一気に耳まで熱くなって、思わず顔を隠してしまう。
隣では、雨宮くんがニヤニヤしながら和泉くんの脇を肘でつついていた。
「ほら、ちゃんと言えって」
面白そうに笑う。
「どう見ても反応待ってるじゃん」
和泉くんは一瞬視線を逸らした。
顔が真っ赤だった。
「に……似合ってる……」
「弱っ」
雨宮くんはすぐにツッコんだ。
「もっと男らしく言えよ〜」
「うるさい……!」
和泉くんは深呼吸して、もう一度私を見た。
そして——
「すごく……綺麗だ」
「──っ」
あ……
だめ……
思ってたより、ずっと恥ずかしい。
心臓が壊れそうなくらい鳴っていた。
笑顔も、もう隠せなかった。
こんなふうに緊張してる和泉くんを見ると、今すぐ抱きしめたくなる。
しかも……
今すぐ「好き」って言いたくなってしまった。
真昼ちゃんと雨宮くんは、そんな私たちを見て笑いをこらえていた。
「はいはい」
雨宮くんが楽しそうに手を振る。
「俺たちは先に下行ってるから。その代わり、ちゃんと手繋いで来いよ〜」
「え……?」
「黒川さん、めちゃくちゃ緊張してるじゃん」
横目で笑いながら言った。
「ちゃんとエスコートしてやれって。な、坂本さん?」
「あ、うん」
真昼ちゃんもすぐにうなずく。
「ちゃんとお願いね、和泉くん。私たち、下で待ってるから」
二人は意味ありげに笑ってから、先に階段を降りていった。
そして……
私たちだけが残された。
今しかない。
きっと、この時間を作ってくれたんだ。
「お願いね、和泉くん……」
ほとんど同時だった。
お互いに、自然と手を伸ばしていた。
指先がそっと触れ合い、そのまま絡まる。
「階段で降りたいんだけど……だめ?」
和泉くんは緊張したように笑って、小さくうなずいた。
「黒川さんがそれでいいなら……もちろん」
ゆっくり、階段を降り始める。
本当にゆっくり。
まるで、どちらもこの時間を終わらせたくないみたいに。
途中、何人かの住人とすれ違った。
みんな、どこか微笑ましそうに私たちを見る。
それだけで、また顔が熱くなった。
でも、手だけは離さなかった。
何も言わないまま、二人とも歩く速度をさらに落としていく。
この瞬間を、少しでも長く味わうために。
それでも結局……
階段を下りきってしまった。
それでも、まだ彼の手を離したくなかった。
もう、こんなふうに誤魔化し続けられないのはわかっていた。
二人の指がゆっくり離れていく。
まるで、誰も終わってほしくなかった映画のエンディングみたいに。
少なくとも……
私は、そう感じていた。
その時、ふと思い出した。
まだ真昼ちゃんに、お母さんが和泉くんとのことについて決めた話をしていなかった。
でも……
まだ、その時じゃない。
まずはお父さんと話して、ちゃんと結論を出さなきゃいけない。
「ずいぶん遅かったね〜」
雨宮くんがニヤニヤしながら笑う。
「まさかキスでもしてた?」
「「してないから!」」
雨宮くんって、本当にひどい。
よくそんなこと言えるよね。
しかも、真昼ちゃんの前で。
「ほら、急ごう」
雨宮くんは軽く手を振りながら先に歩き出した。
「遅くなりすぎる前にさ〜」
「は〜い」
それ以上は何も言わず、私たちは駅へ向かった。
…………
………
……
* * *
しばらくして、ようやく真昼ちゃんの家に着いた。
「ただいま〜」
なぜか、その声を聞いただけで少し緊張してしまう。
真昼ちゃんのお母さんは、さっきまで料理をしていたのか、エプロン姿のまま出てきた。
私たちを見ると、ぱっと明るい笑顔を浮かべる。
「さ、入って入って。遠慮しなくていいからね」
みんなが先に中へ入っていく。
私も続こうとした時、真昼ちゃんのお母さんが先に近づいてきた。
「もしかしたら真昼が迷惑かけてるかもしれないけど」
小さく笑う。
「あの子、結構手がかかるところあるから」
「そんなことないです!」
慌てて首を振った。
「むしろ、真昼ちゃんは私にとって、お姉ちゃんみたいな存在で……」
彼女は少しだけ目を丸くしたあと、優しく微笑みながらリビングのほうを見た。
「そう言ってもらえて嬉しいわ」
表情がふっと柔らかくなる。
「私も、あの子のこと誇りに思ってるの」
「母さん、早くー。待ってるよ」
リビングから真昼ちゃんの声が聞こえた。
「はいはい、今行くわ」
そのまま、私たちも中へ入る。
「お邪魔します……」
リビングには、すでに料理が並べられていた。
雨宮くんと和泉くんが座って待っていて、ちょうど和泉くんの隣だけが空いている。
わかりやすすぎる。
まるで、最初からそこに座るのが決まっていたみたいだった。
部屋に入った瞬間、和泉くんが顔を上げる。
一瞬だけ、目が合った。
……いや。
さすがに、今その隣には座れない。
今日のことがあった後だと、余計に意識してしまう。
結局、私は真昼ちゃんの隣に座った。
それでも……
真昼ちゃんは横目で少しだけ不満そうにこちらを見ていた。
まるで、違う行動を期待していたみたいに。
「……和泉くんの隣、座ればよかったのに」
「そんなの、恥ずかしすぎるよ」
視線を逸らす。
「ずっと隣にいるとか、無理……」
真昼ちゃんは小さく苦笑して、それ以上は何も言わなかった。
それに正直……
これ以上、真昼ちゃんの家で気まずい空気にするのも、なんだか申し訳なかった。
その後は、真昼ちゃんのお母さんといろんな話をした。
真昼ちゃんの小さい頃の話とか、ちょっと恥ずかしい失敗談とか。
本人は必死に止めようとしていたけど、結局みんなで笑っていた。
しばらくして、真昼ちゃんのお母さんはキッチンへ戻っていった。
真昼ちゃんも手伝うために、そのあとを追いかける。
リビングから見ていると、二人が何かをひそひそ話しながら、ときどきこっちを見ていた。
特に、和泉くんのほうを。
数秒後、真昼ちゃんが一人で戻ってくる。
「和泉くん、ちょっと手伝ってもらってもいい?」
「え? ああ、いいけど……」
最初は不思議そうにしていたけど、キッチンのほうを見て何か察したみたいに立ち上がった。
そして、そのままキッチンへ入っていった。




