表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/79

第54話 見た目以上に大きな想い

 * * *


 準備を終えて部屋に戻ると、真昼ちゃんはさっきより少し落ち着いたように見えた。


「おっ、真希ちゃん……ちょっとだけ仕上げしてあげる。いい?」


 私は小さく微笑んでうなずいた。


 全部話してしまったせいで、まだ少し罪悪感が残っていた。


 でも、彼女は私の姿をじっと見た瞬間、目を見開いた。


「うわ……これ、やば……」


「え? 何か言った?」


「なんでもないなんでもない」

 そう言いながら私の手首を掴み、ドアのほうへ引っ張っていく。

「暗くなる前に行こ〜」


 反応する間もなく、真昼ちゃんは勢いよくドアを開けた。


 そして、まるで司会者みたいに両手を広げる。


「じゃじゃーん! 本日の主役の登場でーす!」


「え……?」


 顔を上げる前から、和泉くんの視線を感じていた。


 そして真昼ちゃんに背中を押されて前に出た瞬間——


 見てしまった。


 和泉くんが、じっと私を見つめていた。


 びっくりするくらい、見入っていた。


「あ、和泉くん……そんなに見ないで……」


 一気に耳まで熱くなって、思わず顔を隠してしまう。


 隣では、雨宮くんがニヤニヤしながら和泉くんの脇を肘でつついていた。


「ほら、ちゃんと言えって」

 面白そうに笑う。

「どう見ても反応待ってるじゃん」


 和泉くんは一瞬視線を逸らした。


 顔が真っ赤だった。


「に……似合ってる……」


「弱っ」

 雨宮くんはすぐにツッコんだ。

「もっと男らしく言えよ〜」


「うるさい……!」


 和泉くんは深呼吸して、もう一度私を見た。


 そして——


「すごく……綺麗だ」


「──っ」


 あ……


 だめ……


 思ってたより、ずっと恥ずかしい。


 心臓が壊れそうなくらい鳴っていた。


 笑顔も、もう隠せなかった。


 こんなふうに緊張してる和泉くんを見ると、今すぐ抱きしめたくなる。


 しかも……


 今すぐ「好き」って言いたくなってしまった。


 真昼ちゃんと雨宮くんは、そんな私たちを見て笑いをこらえていた。


「はいはい」

 雨宮くんが楽しそうに手を振る。

「俺たちは先に下行ってるから。その代わり、ちゃんと手繋いで来いよ〜」


「え……?」


「黒川さん、めちゃくちゃ緊張してるじゃん」

 横目で笑いながら言った。

「ちゃんとエスコートしてやれって。な、坂本さん?」


「あ、うん」

 真昼ちゃんもすぐにうなずく。

「ちゃんとお願いね、和泉くん。私たち、下で待ってるから」


 二人は意味ありげに笑ってから、先に階段を降りていった。


 そして……


 私たちだけが残された。


 今しかない。


 きっと、この時間を作ってくれたんだ。


「お願いね、和泉くん……」


 ほとんど同時だった。


 お互いに、自然と手を伸ばしていた。


 指先がそっと触れ合い、そのまま絡まる。


「階段で降りたいんだけど……だめ?」


 和泉くんは緊張したように笑って、小さくうなずいた。


「黒川さんがそれでいいなら……もちろん」


 ゆっくり、階段を降り始める。


 本当にゆっくり。


 まるで、どちらもこの時間を終わらせたくないみたいに。


 途中、何人かの住人とすれ違った。


 みんな、どこか微笑ましそうに私たちを見る。


 それだけで、また顔が熱くなった。


 でも、手だけは離さなかった。


 何も言わないまま、二人とも歩く速度をさらに落としていく。


 この瞬間を、少しでも長く味わうために。


 それでも結局……


 階段を下りきってしまった。


 それでも、まだ彼の手を離したくなかった。


 もう、こんなふうに誤魔化し続けられないのはわかっていた。


 二人の指がゆっくり離れていく。


 まるで、誰も終わってほしくなかった映画のエンディングみたいに。


 少なくとも……


 私は、そう感じていた。


 その時、ふと思い出した。


 まだ真昼ちゃんに、お母さんが和泉くんとのことについて決めた話をしていなかった。


 でも……


 まだ、その時じゃない。


 まずはお父さんと話して、ちゃんと結論を出さなきゃいけない。


「ずいぶん遅かったね〜」

 雨宮くんがニヤニヤしながら笑う。

「まさかキスでもしてた?」


「「してないから!」」


 雨宮くんって、本当にひどい。


 よくそんなこと言えるよね。


 しかも、真昼ちゃんの前で。


「ほら、急ごう」

 雨宮くんは軽く手を振りながら先に歩き出した。

「遅くなりすぎる前にさ〜」


「は〜い」


 それ以上は何も言わず、私たちは駅へ向かった。


 …………

 ………

 ……


 * * *


 しばらくして、ようやく真昼ちゃんの家に着いた。


「ただいま〜」


 なぜか、その声を聞いただけで少し緊張してしまう。


 真昼ちゃんのお母さんは、さっきまで料理をしていたのか、エプロン姿のまま出てきた。


 私たちを見ると、ぱっと明るい笑顔を浮かべる。


「さ、入って入って。遠慮しなくていいからね」


 みんなが先に中へ入っていく。


 私も続こうとした時、真昼ちゃんのお母さんが先に近づいてきた。


「もしかしたら真昼が迷惑かけてるかもしれないけど」

 小さく笑う。

「あの子、結構手がかかるところあるから」


「そんなことないです!」

 慌てて首を振った。

「むしろ、真昼ちゃんは私にとって、お姉ちゃんみたいな存在で……」


 彼女は少しだけ目を丸くしたあと、優しく微笑みながらリビングのほうを見た。


「そう言ってもらえて嬉しいわ」

 表情がふっと柔らかくなる。

「私も、あの子のこと誇りに思ってるの」


「母さん、早くー。待ってるよ」


 リビングから真昼ちゃんの声が聞こえた。


「はいはい、今行くわ」


 そのまま、私たちも中へ入る。


「お邪魔します……」


 リビングには、すでに料理が並べられていた。


 雨宮くんと和泉くんが座って待っていて、ちょうど和泉くんの隣だけが空いている。


 わかりやすすぎる。


 まるで、最初からそこに座るのが決まっていたみたいだった。


 部屋に入った瞬間、和泉くんが顔を上げる。


 一瞬だけ、目が合った。


 ……いや。


 さすがに、今その隣には座れない。


 今日のことがあった後だと、余計に意識してしまう。


 結局、私は真昼ちゃんの隣に座った。


 それでも……


 真昼ちゃんは横目で少しだけ不満そうにこちらを見ていた。


 まるで、違う行動を期待していたみたいに。


「……和泉くんの隣、座ればよかったのに」


「そんなの、恥ずかしすぎるよ」

 視線を逸らす。

「ずっと隣にいるとか、無理……」


 真昼ちゃんは小さく苦笑して、それ以上は何も言わなかった。


 それに正直……


 これ以上、真昼ちゃんの家で気まずい空気にするのも、なんだか申し訳なかった。


 その後は、真昼ちゃんのお母さんといろんな話をした。


 真昼ちゃんの小さい頃の話とか、ちょっと恥ずかしい失敗談とか。


 本人は必死に止めようとしていたけど、結局みんなで笑っていた。


 しばらくして、真昼ちゃんのお母さんはキッチンへ戻っていった。


 真昼ちゃんも手伝うために、そのあとを追いかける。


 リビングから見ていると、二人が何かをひそひそ話しながら、ときどきこっちを見ていた。


 特に、和泉くんのほうを。


 数秒後、真昼ちゃんが一人で戻ってくる。


「和泉くん、ちょっと手伝ってもらってもいい?」


「え? ああ、いいけど……」


 最初は不思議そうにしていたけど、キッチンのほうを見て何か察したみたいに立ち上がった。


 そして、そのままキッチンへ入っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ