第49話 プレゼントと、すれ違う想い
ようやく着いた。
ものすごい人の多さだ。家族連れの姿もちらほら見える。両親に、小さな子供たち……買い物袋を抱えながら笑い合っているカップルもいた。
一瞬、馬鹿みたいな想像をしてしまう。
和泉くんと私も……いつか、あんなふうになれるのかな。
えへへ〜〜
「え……坂本さん、なんでそんな変な顔してるんですか?」
やばい!
ここで変な想像しちゃダメだった……
絶対、変な子だと思われた──
言い訳を考えるより先に、彼が小さく笑った。
からかうような笑い方じゃない。むしろ、私のわかりやすい反応を面白がっているみたいだった。
それがなんだかおかしくて、私もつられて笑ってしまう。
「ははは、面白いですね。そんな一面があるなんて知りませんでした」
「えへへ、今日知れたでしょ? これで私のこと、もっとわかったってことだね。ふふふ」
はあ……思ったよりうまくいった。よかった。
「さて、どこに行きましょうか?」
どこ……?
あ……あそこだ。
二階に服屋があった。でも、その少し先にアクセサリーショップもあったはず。
髪飾りとか、いいかもしれない。
だって真希ちゃん、あんまりアクセサリーとか使わないし。
「二階に行きましょう。たぶん、いいものが見つかると思う」
「うーん……そうですね。いいと思います。じゃあ行きましょうか」
それ以上は何も言わず、一緒にエスカレーターで上がった。
二階は、明るいショーウィンドウとおしゃれな服で溢れていた。色もデザインもたくさんあって、思わず私も周りを見回してしまう。
「和泉くん、まずはこっち行こ」
袖を引っ張って、レディース服のコーナーへ連れていく。
でも、着いてすぐに……大事なことを思い出した。
真希ちゃんが本当に好きそうな服が、全然わからない。
親友なのに、たまに好みが謎すぎるんだよね。
「本当に服がいいと思いますか?」
「え?」
和泉くんが足を止めて、マネキンを少し不思議そうに見つめていた。
「普段使いできるもののほうが、いいと思うんですけど」
落ち着いた声でそう言いながら、近くの棚に視線を向ける。
「プレゼントは二人からってことになってますし……服って、ちょっと特別すぎる気がして」
私が返事をする前に、彼は通路の向こうにある別の店を指さした。
「あっちに行きましょう。たぶん、彼女が本当に欲しがりそうなものがありますよ」
「……そうかもしれないけど、なんで服より小物のほうがいいってわかるの?」
彼は後頭部をかいた。
明らかに気まずそうで、そのあと少しだけ目を逸らす。
「えっと……一緒に住んでるから、なんとなく好みもわかってきて……」
……怪しい。
「しかも、そんな恥ずかしそうに言われると余計に……」
そんな彼の様子を見て、胸がちくりと痛んだ。
嫉妬。
いやいやいや……当然だ。
一緒に住んでるんだから、それくらい信頼されてて当然なんだ。
「暗くならないうちに急ぎましょう」
「は〜い」
一瞬、諦めにも似た気持ちになったけど、それでも私は彼の後をついていった。
アクセサリーショップに着くと、和泉くんが真剣な顔でショーケースを見ている間に、私はそっと近づいた。
そういえば……まるで、本当に特別な人へのプレゼントを探してるみたいだった。
一つ一つ、真剣に選びすぎている。
もしかして、あの二人……
いや。
ありえない。
もし本当にそうだったら……
本当に、そうだったら……
これ以上考えたら、頭がおかしくなりそうだ。
「わあ、これすごく素敵〜〜!」
ふと、一つのネックレスが目に入った。
シンプルだけど、どこか上品だ。
絶対、彼女に似合うと思う。
和泉くんは私の声で気づいたみたいで、こちらへ近づいてきた。
「そんなにテンション上がるなんて珍しいですね。どうかしたんですか?」
「えっと……まあね。ほら、これ。彼女、好きそうじゃない?」
彼も一緒にショーケースへ目を向ける。
可愛いネックレスが並んでいたけど、その中でも一つだけ特に目を引いていた。
そこまで高いものじゃない。
でも、黒い石がすごく綺麗だった。
なぜか、真っ先に真希ちゃんを思い浮かべる。
黒い髪に、少し冷たそうな目つき……何もしなくても漂う、あの自然な上品さ。
私は和泉くんの方を見て、反応を待った。
すると、まるでタイミングを合わせたみたいに、同時に目が合う。
「どう思いますか、和泉くん? いい選択だと思いません?」
「はい、俺もいいと思います。ただ……」
彼は値札を見て、それからもう一度私を見た。
「予算、足りますかね?」
思わず苦笑いが漏れる。
ギリギリいけそうだった。
それだけでも少し安心する。
でも……正直、もっとお金を持ってくればよかった。
「いくら持ってきたんですか?」
「えっと……五千七百円です」
彼は気まずそうに小さく笑った。
「それしか持ってこなかったんです。もっと普通のものを買うと思ってたので……俺、バカですよね。ははは……」
気づけば、和泉くんがそっと私の肩に手を置いていた。
その表情は真剣で、無理に笑わなくていいと言ってくれているみたいだった。
「買いましょう。足りない分は俺が出します。いいですか?」
「和泉くん……」
その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「ありがとう……和泉くんがいなかったら、どうしたらいいかわからなかった」
彼は何も言わず、ただ静かにうなずいた。
そして結局、そのネックレスを買うことにした。
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