第41話 ツンデレ×クーデレな子の扱い方
* * *
授業が始まってから、彼女はもう何も仕掛けてこなかった。
でも、昼休みになると、こっちに気づいてほしそうにしていた……けど、俺は避けた。
教室を出て、一人で食べることにした。
気まずいのは確かだ……でも、あんなふうに急に距離を置かれて、こっちだって腹が立っていた。
この女……本気で俺を狂わせるつもりか。
……なんでよりによって、こんな奴を好きになったんだ……?
いや、こんな時こそアイデアを考えるのに使おう。もし彼女の小説がまた行き詰まった時のために。
弁当を開ける。すると……
隅に、小さなハート型の卵焼きがあった。
……それだけが、いつもと違っていた。
──ありえない……
もう、おかしくなりそうだ……
いや、きっと理由がある。
あいつが意味をわかってて、こんなことするはずがない。
もしかして、わざとか……
後で聞いてみよう。
時間を無駄にはできない。
急いで食べ終えた。作りすぎたのか、一瞬動けなくなるかと思った。
校庭のベンチに寝転がって、空を見上げながら、黒川さんの母親と話したことを思い出す。
………
……
「座ってもいいかしら? どうやらうちの娘は恥ずかしがり屋でね……あれが、多分初めてのキスだったと思うの」
……
「すみません。ドアを閉め忘れてしまって……彼女の看病に集中していて」
「構わないわ。むしろ……若い頃の自分を思い出したの。彼女の父親と出会った頃をね」
彼女の声は、どこか懐かしさを帯びていた。
何かまだ言いたそうだったが、俺は先に質問することにした。
「さっき、俺が真希の父親に似てるって言ってましたよね……具体的にどこがですか? ただの興味です」
彼女は穏やかに微笑んだ。
「彼女の父親は、とても優しい人だったの。私を守るって約束してくれて……いつも穏やかで、賢かった。
あなたが彼女を看病している姿を見て、わかったの。あなたは大丈夫な人だって」
少し間を置く。
「それに……娘があなたと婚約してるって言ったことも、後押しにはなったわね」
「……なんて言えばいいのか。正直、驚いてます」
それってつまり、俺には真希とチャンスがあるってことか……?
いや……今はこの話に集中しよう。
「ただね……まだ完全に信じているわけじゃないの。
もしあなたが彼女を傷つけたら……二度と近づかないでほしい」
「真希のこと、すごく心配してるんですね……でも彼女は、あなたのことを全然違うふうに見てると思います」
彼女はドアの方へ歩いていった。
「彼女には言わないで。今まで通り、私のことは嫌っていてくれていいから。
それから……彼女が冷たく当たってきても、受け止めてあげて」
一瞬、立ち止まる。
「それ、私の遺伝だから」
「……え? よくわかりませんけど……覚えておきます」
………
……
* * *
今なら、彼女の言っていた意味がわかる……
真希のこと、母親を通してもっと知ったほうがいいかもしれない。あの人なら、もう少し話してくれるだろう。
そう思いながら立ち上がった。
「よし……戻るか」
もしかしたら……もう態度が変わってるかもしれない。
教室に入る。
でも、彼女は無視した。
だけど……目を離すたびに、視線を感じる。
「お弁当のことは言わないで。あなたの意見なんて聞きたくないから」
……きついな。
好きな相手に、急にそんな態度を取られる気持ち……少しは想像してみろよ。
やっぱり変わらない……
これ、いつまで続くんだ……?
………
……
その日の残りは、一言も言葉を交わさなかった。
そうして、体育の時間になった。
あの時間……黒川さんは、まるで別人みたいだった。
女子たちは彼女をまるで女神みたいに扱っていた。
まあ……こうなるのは、こういう授業の時だけだけど。
男子も負けてはいなかった。
みんな、まるで手の届かないものを見るみたいに、見惚れた目で彼女を見ていた。
本人は、自分がどれだけ注目されているのか気づいているのかどうか。
こういう日は決まって、彼女がどれだけ可愛いかが話題になる。
それなのに……誰も本気で近づこうとはしない。
……なんだか妙な感じだ。
彼女も、自分から近づこうとはしなかった。
突然、誰かの手が俺の肩に置かれた。
「何かしたんすか? ちゃんと仲直りしたほうがいいっすよ」
雨宮……
どう説明すればいいんだ?
もう一度、彼女の母親に話を聞いてみるべきかもしれない。
結局、あいつの言う通りにすることにした。
……… ……
もう帰り道だった。
一日中、彼女と話せなかった。
でも今こそ……このタイミングだ。
誰にも邪魔されない。
「黒川さん……なんで今日はずっと様子がおかしいんだ?」
エレベーターの中で、上がっていく。
彼女はわかっていた。
でも、予想に反して……
ただ、恥ずかしそうに俺を見ただけだった。
「ごめん……今日はもう先に寝るね。
何か適当に作って。私、お腹空いてないから」
……違う。
やっぱり変わらない。
「小説の新しい下書き、忘れずに渡してね」
それだけ言って、彼女は自分の部屋に入っていった。
俺はその場に立ち尽くした。
引き止めようとした……でも、彼女の母親の言葉を思い出した。
――受け止めてあげて。
頑張れ、慧翔……
彼女を預かってるんだ。失敗は許されない。
シャワーを浴びて、気持ちを落ち着かせた。
それから、彼女の言う通りに簡単な夕飯を準備する。
彼女の部屋の明かりは消えていた。
もう寝てしまったんだろう。
ベランダに出て、彼女の母親に電話をかけた。
すぐに出た。
「遅かったわね。まだ耐えられそう?」
その口調は冷たかった。
間違いなく……親子だ。
でも……
まさか、俺が電話するってわかってたのか?
さすがだ。彼女のことをよくわかってる。
「こんな時間にすみません。実は……真希に何かあったみたいで。何かご存じですか?」
短いため息。
「言ったでしょ。これはあなたへの試練よ。
本当に彼女を愛してるなら、乗り越えられるはず。
もし無理なら……その時の結果を受け入れなさい」
「……じゃあ、証明しないといけないってことですね?
でも、彼女は部屋にこもってて……うまくいくか——」
「行きなさい」
言葉を遮られた。
「うまくいかせたいなら、行きなさい。
簡単じゃないと思うけど」
少し間を置く。
「うちの娘にふさわしいかどうか、見極めるための試練だと思いなさい」
本当は、まだ付き合ってないって言おうとした……
でも、どこかで自分を止めた。
「行きます。彼女のためなら……行きます」
「じゃあ、頑張って」
深呼吸した。
あ……そうだ。
「そういえば……真希が休みの時に、俺の実家に行きたいって言ってて。もしよければ、あなたは——」
「彼女が行きたいなら、行かせてあげなさい。
時間さえ守るなら、問題ないわ」
「ありがとうございます。ちゃんと彼女のことは守ります」
「わかってるわ。
それと、帰ったら電話ちょうだい」
「はい……します」




