第120話 真希の夢見た一日
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真希と付き合い始めてから、もう四年以上が経った。
今のところ、すべて順調だ。
彼女が、出会った頃のような冷たい一面を見せることは、もうなくなった。
まるで別人のように変わったが、もちろん俺にとっては嬉しいことだ。
高校も卒業し、今は小説の執筆に専念している。
あのとき出版した小説も、そろそろ最終回を迎えようとしていた。少なくとも、家に帰ったらその続きを書き上げるつもりだ。
その間に小説は大ヒットし、アニメ化も実現した。二期まで放送され、収入にも十分な余裕ができたおかげで、家まで買うことができた。
今は真希と一緒に暮らしているが、今日は自宅にはいない。
俺の両親の家に来ているのだ。初めて訪れた頃とは違い、真希はすっかり馴染んでいて、まだ結婚していないのに、まるで家族の一員のようだった。
このことは両親には話していないし、真希にも口止めしてある。なぜなら……今日、両親の前で彼女にプロポーズするつもりだからだ。
真希には少し前に伝えてあるものの、まだ覚えているかどうかはわからない。でも、きっと大丈夫だろう。
一方、彼女の両親からは結婚の許しをもらっていた。二人とも、すぐに快く承諾してくれた。
あの日以来、二人は真希にとって、本当にいい両親になったようだ。
娘である真希に、つらい思いをさせたことを許す機会をもらえたのだから、当然なのかもしれない。
とはいえ……健二さんは予想どおり、何度目になるかわからないほど、俺に念を押してきた。真希を傷つけるな、と。もちろん、そんなつもりはないし、これまで傷つけたこともない。何か問題が起きても、その都度きちんと話し合って解決してきた。
それに……今日、俺は真希にプロポーズするつもりだ。
あと数時間しかない。緊張するなというほうが無理だろう。
指輪について、女の子の意見を聞きたい。真夜なら力になってくれるかもしれない。
「電話してみるか……?」
すぐにメッセージを送ると、真夜からは「すぐ行く」とだけ返事が来た。
まあ……大事なのは、あまり時間をかけすぎないことだ。うまくいくといいけど。
「お兄ちゃん、何で呼んだの……?」
真夜は目の前にある指輪の箱を見ると、言葉を失った。そして、すぐにドアを閉めた。まるで、ほかにも誰か来ているかのように。
「お姉ちゃん、お母さんと一緒にリビングで待ってて! いい?!」
真夜は勢いよくドアを閉めた。真希も一緒に来ていたのか……。
ええっ?!
「一人で来てくれって言っただろ。ちょっと手伝ってほしかったんだ」
「わかってる、私のせいだよ。でも……」
真夜は近づいてくると、箱を手に取ってゆっくりと開け、戸惑ったように指輪を見つめた。
「ついにお姉ちゃんにプロポーズするの?」
そう言いながら、彼女は驚いた様子で指輪を見つめ続けた。
「まあ……お前たちには前から話してあったけど、これは真希と二人で決めたことなんだ。でも、みんなの前で改めて伝えたいんだ」
真夜は金色の指輪が入った箱を閉じた。もちろん、純金ではない。
それから、何と言おうか考えるように俺を見つめ、やがて口を開いた。
「いいと思うよ。お姉ちゃん、きっとイエスって言うよ。お兄ちゃんが誕生日を迎えたあの日から、ずっと待ってたんだから。お姉ちゃんにしてみれば、お兄ちゃんはちょっと遅いくらいなんだよ。だから、お姉ちゃんにとって大切なものにしてあげてね」
真夜ももう十七歳だ。周りで起きていることを、ちゃんと理解できる年齢になっていた。
そのとき、真夜はじっと俺を見つめて言った。
「頑張って、お兄ちゃん。まあ、私が何か言うまでもないと思うけど」
真夜は俺の返事を待たずに部屋を出ていった。あとは、俺次第だ。
俺も部屋を出ると、みんなはすでにダイニングに集まっていた。
ダイニングに着くと、真希は母さんと夕食の準備をしていた。一方、真夜は席に座り、スマホを手に学校の友達と話していた。
卒業後の予定について話しているらしい。まだ数か月先のことなのに、声がここまで聞こえてきそうなほど盛り上がっている。
「慧翔、どうしてそんなに遅かったの? 待ってたのよ」
その声は、俺にとって世界で一番美しい女性のものだった。以前にも増して美しくなった彼女は、まるで天使のように俺を甘やかしてくれる一方で、わがままを聞いてもらえないとすぐに文句を言う。
そう、真希だ。
歩き方こそ四年前とほとんど変わらないが、日々のトレーニングのおかげか、背も伸びて、ずいぶん大人びた。今では、母親のような落ち着きさえ感じられる。実際には、まだ母親でもないのに。
どう表現すればいいんだろう……。
「慧翔、聞いてる?」
真希が近づいてきた。話を聞いていなかった俺に、少し不満そうな視線を向けている。
「ごめん、見とれてただけだよ」
真希は、昔の彼女とは違って、顔を赤らめたりはしなかった。ただ俺のそばまで来ると、頭にそっと手を置き、微笑んだ。
「あなたはいつもそうやって言うよね。そろそろ別のことも言ってくれていいんじゃない?」
「新しいことも言えるかもしれないけど、それは後のお楽しみだ。ところで、夕飯は何を作ったんだ?」
「えっと……」
真希と一緒にテーブルのほうを見ると、母さんが俺たちと一緒に作った夕食を運び始めていた。
「ちょっと多すぎないか? 全部食べきれると思う?」
文句を言っているわけではなかった。本当に、全部食べきれるのか気になったのだ。それに……やっぱり多すぎる……。
でも……それが、俺を焦らせた。もう後には引けない。
ちょうどそのとき、みんながテーブルに集まり始めた。
真夜でさえ、まるで何もかもお見通しだと言わんばかりに、俺にウインクしてきた。
「真希、それじゃあ新しいことを言うから、心の準備をしてくれ」
みんなが一斉にこちらを向き、そのせいで余計に緊張した。けれど、同時に、今こそ実行するべきときだった。
真希もうなずいた。
この瞬間、ハリウッド映画のように片膝をついてプロポーズするべきか、少し迷った。
でも……いや、やろう。
深く息を吸い、真希の前に片膝をついて、指輪の箱を取り出した。
箱を開け、指輪を彼女に見せる。
「真希、少し遅すぎたかもしれないけど、これは俺からの約束だ。今でも、俺と結婚したいと思ってくれてるか?」
みんなが驚いた。真夜以外は、誰も知らなかったのだ。そして真希に目を向けると、彼女も不意を突かれたような顔をしていた。
「もちろんよ。遅すぎるくらいだったんだから。何か月も待ってたんだからね、バカ」
そう言って、真希は「はい」だけでは足りないとでもいうように、俺に抱きついた。
それから少し体を離すと、左手を上げて、薬指に指輪をはめてほしいと言わんばかりに差し出した。
俺は何も言わず、その指に指輪をはめた。真希はとても幸せそうだった。そして、両親の前では初めてとなる、喜びに満ちた熱烈なキスを交わした。
三人はその光景を見て、拍手を始めた。少し恥ずかしかったが、こうなることは覚悟していた。
「よくやったね、お兄ちゃん。これで、このごちそうを食べる理由もできたね!」
真夜はいつもどおり、いや、いつも以上に興奮しているようだった。
彼女は俺たちの向かいに座り、こうして最初の夕食が始まった。これで、真希と俺は婚約者同士だ。
「今夜は二人とも同じベッドで寝なさい。練習のためにね」
「えっ?」
俺と真希の声が、ぴったり重なった。
まさかそんなことを言われるとは思わなかった。けれど、もう後には引けない。それに、この数年間、実家にいるとき以外はずっと一緒に寝てきた。
そう、ここ、俺の両親の家で同じベッドに寝るのは初めてだった。
それ以上は反対しなかったが、二人には、こうして一緒に寝るのは初めてではないと言いたかった。もし何か起こることを期待しているのなら、そんなことはないと伝えたかった。
「いいよね、真希?」
真希もうなずいた。特に嫌がる様子もなかった。それなら十分だ。
あとは、結婚式の日取りを決めるだけだ。すべてうまくいくと確信している。
後でみんなにも報告しよう。雨宮もまた顔を出してくれたらいいのに。これを自慢したら、きっと面白い反応を見せてくれるだろう。
こうして、物事はさらに良い方向へと進み始めた。
しばらくして、真希の両親にも報告した。二人は祝福してくれて、俺たちの幸せを願ってくれた。
もちろん、真昼さんにも報告した。そういえば、真希と真昼さんに少し強く勧められて、彼女のことを名前で呼ぶようになった。それでも、敬称は変わらず「さん」のままだ。
慣れるまでには時間がかかったが、いい決断だったと思う。
まさか、こんな未来が待っているなんて、想像もしていなかった。




