↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスで一番冷たい彼女と小説を書くことになった  作者: セバスーS.P
第 四 章: 過去と向き合い、未来へ踏み出す一歩
119/122

第119話 過去の願い

 * * *


 夕食を終えると、二人とも執筆に集中した。真希はいつものお気に入りのルーティンに戻り、溜まりに溜まったアイデアを形にするかのように、休憩も取らずに書き続けていた。


 しかし、突然タイピングの手を止め、両手を上げて、解放されたかのように大きく伸びをした。


「終わった〜」


「お疲れ、真希。何か飲むか?」


「お水を一杯だけ。あ、そうだ、この部分にはイラストが必要だね。真昼ちゃん、前の依頼で忙しいかな……」


「大丈夫だと思うよ。三時間くらい前に、頼んでたイラストを送ってくれたから」


 俺はキッチンへ行き、冷蔵庫から水を取り出した。

 真希に渡すと、彼女はそれを飲みながら、自分の書いたものを一通り見直し始めた。


 それにしても、明らかに書きすぎだ。彼女なら、その気になれば一日に五話も公開できるだろう。


 そうしなくてよかった。真希はいつも、一日に公開するのは一、二話までにするべきだと言っている。

 それなのに、どうしてそんな方針にしたのか、いまだに不思議だ……


「今日の話、どう思う、慧翔?」


 少し答えにくい質問だが、言えることはある。


「物語を修正したんだろ? だったら、今書いた分を最後まで読んでから感想を言わないとな。そう思わないか?」


 彼女はうなずき、スマホを手に取った。


「その通りね、慧翔。じゃあ、修正が終わったら明日教えてくれる? いい?」


「わかった……ところで、もう眠いんだ。先にベッドに入るよ……」


 彼女は俺のシャツをつかみ、冷ややかな目でこちらを見つめた。


「一緒に寝るの。……行きましょう?」


 真希……

 俺はうなずいた。


「わかった。そういうことなら……」


 俺の部屋へ向かったものの、彼女は何かを思い出したように、ふと足を止めた。


「今気づいたんだけど、まだお風呂に入ってないの。それに、あなたもでしょ……」


 すっかり忘れていた。なんてバカなんだ。


「先にお風呂に入るよ。出たら声をかけるから」


「はーい!」


 彼女はドアを閉めると、自分の部屋へ駆けていった。


 危うくとんでもない失敗をするところだった。まったく、何を考えていたんだか。


 * * *


 真希が先にお風呂に入り、そのあと俺も入浴を済ませて着替えると、彼女が再びドアをノックした。


 彼女はさっきよりもゆったりした服を着ていた。まるで、寝る前に俺が理性を失わずに済むよう、気を遣ってくれたかのようだった。


 今回は前と違い、彼女がひどく緊張しているのが伝わってきた。たぶん、俺も同じくらい緊張していた。


「よし、じゃあ今度こそ、寝られるね」


 最後にもう一度うなずき合い、二人でベッドに横になった。今日も何も起こらないとわかっている。それでも、緊張は今までにないほど高まっていた。


 明かりを消し、それぞれベッドの端に横になった。俺は右側、彼女は左側。


 前回とは違い、今回は手をつなぐこともなかった。お互いの気持ちはわかっていたし、少し疲れてもいたからだ。


 彼女の目を見れば、それは明らかだった。疲れ切っていて、今すぐ目を閉じたい。そんなふうに見えた。


 俺も同じだった。


 それでも、彼女を安心させてやりたかった。だから、彼女の気持ちを尊重することにした。






 * * *


 数日が経ち、ついに真希の両親と話し合う日がやってきた。

 今、俺たちは二人の目の前に座っている。高級レストランの席で、真希の両親はゆっくりと頭を下げた。


 真希からは「きちんとした服装で来て」と言われていた。彼女自身も、自分のお金で買った見事な赤いドレスを身にまとっていた。


「私……まだ、全部を許せるかどうかはわからない……ごめんなさい……」


 それが、両親に対する真希の返事だった。両親はゆっくりと顔を上げた。


「わかっている……」


「でも……もう一度、やり直すことならできると思う……二人が後悔しているのはわかってるから、だから……もう一度、向き合ってみてもいいかなって」


 真希がそう口にすると、両親の顔に笑みが浮かんだ。二人は互いに笑顔を向け合った。


 俺も、二人のことが嬉しかった。そして真希も……ようやく、少しずつ気持ちの整理がついてきたようだった。


「ありがとう、真希。今度こそ、今度こそ私たちはもっといい親になるから」


 香織さんは、心からの笑顔でそう言った。


「慧翔、行きましょう。もうすぐ夜になるわ。今日は明日、本の販売を始めるための準備をしないと」


 真希はすでに坂本さんにもそのことを伝えていた。話を聞いた坂本さんは、すぐに喜んでくれた。オンラインでの公開と、最初の巻の販売開始まで、いよいよあと一日だった。


 真希は急かすように俺の手を引いた。


「真希も慧翔くんも、頑張ってね」


 香織さんは、もう一度笑顔を見せてそう言った。まるで、俺たちの間で何が起きているのか、すべてお見通しだとでもいうように。


 真希はただうなずいた。


「ありがとう、お母さん。またね」


 俺の記憶が正しければ、真希が「母さん」ではなく「お母さん」と呼んだのは、これが初めてだった。その呼び方が、なぜか俺までほっとさせた。


 ---


 それから数日が経ち、俺たちの関係はさらに深まっていた。坂本さんは今も、あの素晴らしいイラストで俺たちの作品を支えてくれている。もちろん、仕事として報酬も支払っているし、彼女は小説の制作過程にも関わってくれていた。


 明日は、坂本さんと真希が実際の本の販売を担当してくれることになりそうだ。


 イベントはいつもどおり大規模なものになると聞いている。だから、用意する本もかなりの数になるだろう。


 とはいえ、真希が最初に提案したのは三百部だった。

 俺たちはこの世界ではまだ新人だからだ。最初は二百部ほどから始めるのが一般的らしいが、真希はもっと売れると考えている。


 作者が高校生だと知られたら、どんな反応をされるのか……正直、想像するだけで少し緊張する。


「明日、うまくいくかな……」


 部屋に戻る途中、俺は思わずそうつぶやいた。


 真希は俺を見つめると、そっと指を絡めてきた。


「読んでくれる人はたくさんいるんだから、きっとうまくいくよ。それに、坂本さんは本当に綺麗だから、会いに来る人も多いと思うわ」


「そんなこと言うけど、君だって綺麗だろ」


「うーん? 私は何かで顔を隠すし、あなたもそうするのよ。顔がバレたら、ちょっとした騒ぎになりそうだからね。許可はもらってるとはいえ……」


 真希はそう言って、くすっと笑った。その答えがあまりにも自然だったせいか、俺はすぐに、二人そろって頭から袋をかぶっている姿を想像してしまった。


 間違いなく面白い光景だろう。でも……今にして思えば、うまくいけば家を買うための貯金だって始められるかもしれない。


 どうして今まで考えなかったんだろう? そうしておけば、その日が来たとき、もっと余裕を持って暮らせるのに。


 言うべきか、それとも黙っておくべきか……。


「慧翔、もし小説がうまくいったら、そのお金を家を買うために貯金しない?」


 一瞬で、真希に先を越された。まさに俺が考えていたことだった。


「俺も同じことを考えてた」


 彼女は優しく微笑んだ。


 俺も同じことを考えていたのが嬉しいらしい。


「想像できるよ。東京のこの辺りで、坂本さんの家からそんなに遠くないところにある家。だろ?」


「どうなるかは、これから次第だね。二人とも気に入る場所なら、それでいいと思う」


「ねえ、慧翔。私、もう想像しちゃうんだ。まだ四年先のことだってわかってるのに、二人の未来を想像せずにはいられないよ」


 彼女はどこか物憂げな声で、胸に秘めた夢を語りたそうにしていた。もう少し聞いてみるなら、今がいいかもしれない。


「どんな未来を想像してるんだ?」


 わざと尋ねてみた。すると彼女は、待ってましたとばかりに頬を赤らめて笑った。


「もちろん、結婚して、私たちのアニメを作って、それから……」


「それから?」


「家族を持つこと……子供の頃から、そういう未来を想像するのが好きだったの」


 その年齢にしては、ずいぶん先のことまで考えているんだな。


 普通の女の子なら、どこかへ行きたいとか、何かをしてみたいとか、そんな夢を思い描くものだろう。


 でも、真希は違う。そして、これから先に待っていることを考えると、彼女の夢も少しずつ現実になりそうな気がした。


 実際、今週の初めには父さんから電話があった。


「うまくいくといいな」と言っていた。まるで、真希と俺がいつか必ず家族になると期待しているかのようだった。


 まだ何も始まっていないし、結婚だってしていない。それなのに、もう急かされている気分だ。


 この調子だと、十八歳で真希と結婚することになりそうだな……。


 そこまで考えるのに、一秒もかからなかった。頭の中で勝手に分析が進み、あっという間に結論が出てしまう。


「小説が一番大事だと思ってた」


「そうだよ! 好きなことと夢を混同しないで」


「真希、どっちも根っこは同じだろ……」


 真希は二度まばたきしてから、口を開いた。まだ少し理解しきれないといった様子で俺を見ていたが、それでも俺の言いたいことはわかっているようだった。


「とにかく、どうして……どうして家族なの?」


 彼女はようやく満足したようだった。俺がその理由を尋ねるのを、解釈について聞かれるよりもずっと待ち望んでいたかのように。


「わかってるでしょ。私、幸せな子供時代を過ごせたわけじゃないから、子供の頃からずっと考えてたの。少なくとも、両親よりはうまくやれるって、自分に言い聞かせてた」


 そう答えるだろうと思っていた。聞かなくても、わかっていた。


「わかってるよ。もしそうなったら、君はきっといいお母さんになる。間違いない」


「あなたもいいお父さんになるよ。じゃあ、明日うまくいくか見てみようね」


 * * *

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。