↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/122

第106話 誕生日プレゼント

 そう、それにもう話すこともなくなったから、みんなキッチンへ行った。真夜も、坂本さんとすっかり打ち解けたようだった。


 後で何があったのか聞いてみよう。今は……


「教えてくれよ、雨宮。自慢の彼女って、どんな子なんだ?」


「えへへ〜。やっぱり気になるんだ? いいよ、教えてあげる」


 彼はまるで舞台の主役みたいに立ち上がった。


「彼女は美しいんだ。肌は白くて、目もすごく綺麗で……」


「はいはい、よっぽど気に入ってるんだな。きっとすごく可愛いんだろうな。それで、名前は?」


 彼は俺たちに近づき、まるで広告の商品でも紹介するかのような口調で言った。


「彼女の名前は桜 美咲――」


 彼はそこで言葉を止めた。


 まるで、完全に頭が真っ白になったかのように。


 青ざめているわけではなかったけど、突然黙り込んだせいで、みんなの注目が彼に集まり始めた。


「どうしたんだ、雨宮?」


 我に返ったように、彼はただ手を振った。


「いや、時には匿名のままのほうがいいこともあるんだよ」


 少し焦った様子でそう言った。単に、これ以上の嘘を思いつかなかっただけかもしれない。


「はいはい。あ、そうだ。新しい小説を書いてるって聞いたけど、どんな話なんだ?」


 うん、話題を変えるのが一番だ。


 この話からは早く離れたほうがいいし、他に話すことも思いつかなかった。


「ああ、うん。すごくいいやつだよ。きっと驚くと思う。ファンタジーじゃないけど、ちょっとだけ関係あるかな」


 彼がそんなジャンルの話を書くのは珍しかった。間違いなく興味を引かれた。


「その新しいプロジェクトについて、ちょっと聞かせてくれよ。きっと俺も興味が出ると思う」


 少し挑発するような口調で言った。うん、彼が退屈しないようにするには一番いい方法だし、俺だって何もせずにいるのは嫌だった。


 雨宮は俺の隣に座り、スマホの画面を見せ始めた。


「見て、二十話も書いて、たった六十人しか読者がいないんだ。すごいだろ?」


 彼が、そんなにアクセスを稼げていないことを自慢しているのか、それとも、彼にとっては新しくて、誰も知らないことが単純に嬉しいのか、俺には分からなかった。


「それのどこがいい知らせなんだ?」


 彼は熱意を込めてうなずいた。


「こんなに少ない閲覧数は初めてだよ。初めて。だから、少しくらい実験してみるのも悪くないんだ」


 こいつは……。


 どうやら、マゾヒストなのかもしれない。


「で、その小説はどんな話なんだ? まだ聞いてないけど」


「ドラゴンが転生して……さあ、当ててみて!」


 彼はやる気満々だったけど、その妙な好奇心の向け方は、俺にはまったく理解できなかった。


 だから、試してみることにした。


 まずは馬鹿げたことから。彼を少し考えさせるか、気をそらすために。


「またドラゴンか?」


「……その通り! どうして分かったんだ?」


 本気かよ……。


「慧翔くん、雨宮くん、テーブルの準備して!」


 それはお願いではなかった。その口調は明らかに命令で、一瞬だけ計算するような視線を見せたあと、彼女はまた作業に集中していた。


 もちろん、何もせずにいるわけにはいかなかった。


「行こうぜ、雨宮。俺たちも何かやらないと」


「まあ……どうせ他にやることもなかったし」


 * * *


 結局、すべてうまくいった。


 予想もしていなかったご馳走がテーブルに並び、あとは一つだけ足りなかった。


 気づけば、少し飲みすぎていた。


 それでも、一日はいい感じに終わった。真希は満足そうだったし、俺ももちろん満足していた。


 坂本さんと雨宮がちょうど帰ったところで、あと一人だけ残っていた。


 それは真夜だ。


 彼女にはいくつか聞きたいことがあったし、真夜もそれをよく分かっていた。だから、俺の視線を避けるようになった。


 でも、まさか真希まで彼女を問い詰めようとするとは思わなかった。


 結局、真夜は俺の誕生日に来たくて家を抜け出しただけだと話した。


 母さんに連絡すると、どうやら真夜は明日、家に帰ることになったらしい。


 間違いなく帰りたくなかったけど、他に選択肢はなかった。


 もし帰らなければ、母さんがここまで迎えに来ることになる。そしてもちろん、真夜もそれは望んでいなかったから、明日帰ることを受け入れた。


 あとは一つだけ問題が残った。


 今夜、どこで寝るんだ?


 一つだけ確かなことがある。真希は俺をソファで寝かせたりしない。


 つまり……。


 彼女と一緒に寝るのか?


 単純な好奇心から、聞いてみることにした。


 でも……どうやら、俺の考えは間違っていた。


 彼女は真夜と一緒に寝るらしい。


 どうして最初からそう考えなかったんだろう?


 余計なことを考えずに済んだのに。


 * * *


 まあ……これでいいか。


 邪魔したくないし、それに最近、二人はかなり仲良くなっている。


 あとは夕飯を待つだけだった。


 そう思っていた。


 リビングで静かに座っていた。一日中、大したことをしていないのに、少し疲れていた。でも、よく考えれば、明日のことを考えすぎていたからかもしれない。


 そういえば……。


 ケーキは「坂本さんと雨宮からのプレゼント」だったらしい。


 つまり、真希は俺へのプレゼントを何も用意していなかったということだ。


「何ももらえないからって別に気にしてないけど、俺と彼女だったら、彼女のほうがお気に入りな気がする」


「何つぶやいてるの、ダーリン♡――?」


「わあっ!」


 真希だけだと分かって安心した。


 一瞬、さっき言ったことを聞かれたのかと思って、怖くなった。


 ゆっくりと彼女のほうを向く。


 すると、彼女は何かを持っていた。


 プレゼントの箱だった。


 思わず、それに見入ってしまった。


「ううん、何でもない! ところで……それ、何?」


 真希は、まさにその質問を待っていたかのように笑みを浮かべた。


「当ててみて。あなたへの誕生日プレゼントだよ」


 キスをすることも、近づいてくることもなかった。


 ただ両手を伸ばして、プレゼントを渡してきた。


「楽しんでね。それと、今夜は一人で寝てね。今朝のことは前借りってことで」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。