第103話 慧翔への尋問
「ただいま〜」
「慧翔くん! いったいどこにいたの?! ずっと待ってたんだよ。部屋にいるのかと思ったくらい」
真希は少し汗をかいていて、髪も少し乱れたままリビングにいた。
「……どうしたんだ? なんかボサボサだぞ」
「うん……新しいのを書いてたんだけど、ただ……」
「ただ……?」
「『ただ』って何? 言ってみて」
「……コーヒーを床にこぼしちゃって、掃除道具がどこにあるかわからなくて。とにかく……何か探したんだけど、モップがどこにも見つからなくて。どこに置いたの?」
なぜかわからないけど、すぐにがっかりしてしまった。もっと大変なことが起きたのかと思っていたのに。でもよく考えれば、自分でもモップをどこに置いたか覚えていなかった。
「えっと……実は俺も覚えてないんだ」
これで、なぜ彼女が汗をかいていたのかわかった。あちこち探し回ったけど、見つからなかったんだろう。
「あ、そうだ。いつ帰ってきたんだ?」
「私? ああ、うん。十五分くらい前に着いたよ。真昼ちゃんとの用事はもう終わったから。楽しかったし、その勢いで何か書きたくなって、それで……」
なるほど。そういうことか。
真希は俺の答えにただうなずいた。
「よし、モップは後で探そう。今は慧翔くんと何かしたい……ううん、見てほしいものがあるの」
「……何か? 何だ?」
真希は俺がノートパソコンをテーブルに置くのを、ただついてきた。
「小説をチェックして。どう進んでるか見て、感想を聞かせて。私はキッチンで夕飯に何が作れるか見てくるから」
立ち上がろうとしたら、彼女がシャツを掴んだ。
「待って。どこにも行かないで。それ、一緒にやれるよ。今までやったことないけど、一緒に見たいの。いい?」
真希は少しお願いするような目で俺を見ていた。
「真希……」
「一緒にやろう。これを一緒に見る必要があるの。いい?」
間違いなく、彼女に押し切られた。
「わかった。一緒に見よう」
真希は少し顔を赤らめてうなずいた。その表情は、説明するまでもなく多くを語っていた。そして、あのよく知る彼女の一面がまた現れた。
ツンデレな真希が戻ってきた。
年に一度くらいかと思っていたけど、どうやら間違っていた。最近はかなり頻繁に現れる。
付き合い始めた今、彼女はこれをどう扱うんだろう。
まあいい、今はそんなこと考えてる場合じゃない。一緒にその日の小説のアクセス数を確認しないと。
そういえば、俺はポイント数しか見ていなかった。アクセス数がどれくらいかはまだ知らなかった。
真希はもう小説のページを開いていた。あとはクリックするだけで現在の統計を確認できる。
そして、彼女が開いた瞬間……
「わあ……すごい。私たちが一切宣伝してないのに……今日だけで一万アクセス以上もある」
真希は驚きのあまり、画面から目を離せずにいた。間違いなく、俺よりも衝撃を受けているようだった。
「どうやら俺の負けだな、真希。お前がずっと正しかった」
彼女は答えなかった。ただ抱きついてきた。いつものように、彼女の体温が俺の体に伝わってきた。
もしかしたら……もしかしたら、今が……
彼女の体を両腕で包み込んだ。でも、伝えたいことがあった。
「信じてくれてありがとう。まだまだ先は長いけどな」
そう、彼女の言う通りだった。小説はまだ始まったばかりで、俺たちの恋人としての人生も同じだった。
そういえば、彼女の実家に行く日がだんだん近づいている。事前に母親と話して、問題がないか確認しておくべきだろうか?
「真希……最近のご両親のこと、どう考えてる? また会うの、緊張しないか?」
真希は首を振って、自信に満ちた笑顔で答えた。
「きっと大丈夫だよ。あなたがそばにいてくれれば、何でもできる気がするから」
俺にはそんな風に自信満々に言えるはずもないけど、彼女がそう言ってくれるのは嬉しかった。
でも、そういえば、まだ新しいエピソードを公開していなかった。そろそろ公開すべきだろう。
「あ、真希、今日も……」
言い終わる前に、彼女はもっと強く抱きしめてきた。離したくないかのように。俺も離れるつもりはなかったけど。
「それは後でやろう? 今はただ、こうしていたいの」
それはお願いではなかった。ただ、そう決めていることを伝えているだけだった。
でもその時、彼女が突然、俺のシャツの匂いを嗅ぎ始めた。
彼女の表情が少しずつ強張っていく。殺気のようなものを感じて、反射的に離れた。
「どうした……?」
「女の匂いがする。誰といたの? 真昼ちゃんの匂いでもないし」
「真希、落ち着け! 違うんだ。クラスメート……いや、元クラスメートの一人だ。年上の男に絡まれてるところを見つけてな」
彼女の表情がすぐに変わった。一瞬、聞いたことを驚いたようだったけど、すぐに誤解していたことに気づいて、顔が赤くなり始めた。
それでも好奇心は消えなかった。今はまるで探偵になったようだった。
「誰だったの? 私が知ってる人?」
「そうだな。去年、みんなと仲良くなろうとして、たくさん友達を作ったやつだ。お前の……『正反対』の存在だ」
真希は目を丸くした。誰のことを言っているのかすぐに理解して、一秒もかからずにその名前を思い出した。
「高嶺さん……」
「そう。高嶺優希さんだ。一人でいるのが変で、結局家まで送ってった」
「なるほどね。どうやら私はとても紳士な彼氏を持ったみたい。ちょっと誇らしいかも」
まあ……
彼女が自分を誇らしげにしているのは、見ていてよくわかった。




