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才原の姿は着物を着ている渋いご隠居姿だ。迫力がある。流石だ。
「何だ。来客か?」
「うん。猫をもらうことになったから。」
「突然すぎる、訳の分からん文脈を使うな。」
「ごめんごめん。」
私は才原に仕事の帰りに沢田と知り合い
「そうか。こいつが何か迷惑をかけていないか?」
「い、いえ、そんなことはないです。寧ろこちらがお世話になってるくらいです。」
敬語使えたんかぁーい!
才原の妙な迫力に少々オドオドしつつも沢田がそう答える。
「む、それは蒸しケーキか。」
「イエス。皿いる?」
「要らん。手を洗ってくる。」
「わかった。」
才原が洗面所に向かうと沢田が大きく息を吐いた。
「……おい、何で普通に喋れる。というか、どういう知り合いだ。」
「まぁ、秘密を共有し合う物の仲って感じですかね?……知り合って1か月も経っていないんですが。」
ギョッとした顔でこちらを信じられない様な目で見る沢田。
心外である。
「ってか、来客あるのに俺呼んだのかよ。」
「えぇ、才原には特に遠慮する必要はないので。」
「お前の思考回路が謎だ。」
よく言われる………人もいないな。
「何味がある?」
「プレーン、チョコ、柚子、オレンジ」
「茶は?」
「自分で淹れてきたら?」
「…」
「わかった。」
沢田が信じられないとこちらを珍獣を見る様な目で見てくる。才原はこちらの意図を察してくれているので納得している。才原にこれから住む家の勝手くらい把握してもらわねば面倒だという私の意図が伝わってよかった。
短期間で私をよくわかってらっしゃる。
「俺、帰るわ。明日また来る。何時ならいける?」
沢田はもう帰るらしい。持ってきたものはごろうの物だけなので後は手ぶらだ。
「明日は17時からならいけます。ちょっと待っててください。」
私は家電の横にあるメモに家と携帯の番号を書いて沢田に渡した。
「来るときに連絡をください。あ、それと、ごろうの字って漢字ですか?」
「あぁ、それは持ってきた袋の中の診察券とかに書いてる。」
「わかりました。正直言って連絡くれれば何時でも来てくれていいですよ。」
「わかった。」
そう言って沢田はごろうをひと撫でした後「じゃあな。」と言って帰って行った。
「………で、先程の説明で省いた部分を含めて全て吐け。」
沢田が出て行って暫くしてからの第一声である
「はいはい。」
私は沢田の目の前で言わなかったことを言った。猫のごろうと取り引きしたこと。沢田がフルボッコになっていたこと。最後のは沢田の名誉に関わることなので、流石の椿でも言えなかったのである。
「成程な。」
「あれ?意外とあっさり受け入れたな?」
「そうだな。正直言ってお前の事を吃驚箱人間だと思って過ごしている。」
「え、何それ。」
「非常識な事でもなんでも出てくるという意味ではあっているだろう?」
確かにそうだが。
もうちょっとマシな例えがないのかと思ったり思わなかったりする。
「不満そうな顔だが、一つ聞きたいのは猫と意思疎通って出来るのか?言語の問題もあるだろし、何と言っても猫にそこまでの知能があるとは思えない。しかし、お前が出来たからなぁ。」
「あー、そこは意思疎通をとる時に私が無断でごろうの能力を底上げしたからな。」
「底上げ?」
才原が疑問の声を上げる。
「そう、底上げ。猫の限界は人間並みの思考能力を持つこと。と言った感じに。正直言って、脳科学とかは別次元での底上げの話だから。」
「別次元というのはどういう事だ?」
意味不明だわな。
「つまり、この世の物質界に存在しないってこと。だから、例えごろうを機械で調べても脳味噌のサイズも何も変わっていないし、ごろうの身体には何の問題も起こっていない。私の力とはそゆこと。」
これで、少しは分かってもらえただろうか?
椿がごろうの身体をいじったことによる障害も何もないのは、それが正常だとごろうの身体を改造したからだ。そして、この技術は椿特有のものであって、決して異世界で確立している技術ではないし、そもそも魔力でやっていないのだ。まぁ、このことは今後解ってくるだろう。
「想像は出来ないが、概ね理解した。で、何故、それをただの飼い猫にした?ただ、猫を連れてこれば良かったんじゃないか?それを、わざわざ、聞いただけでもかなり高度そうな技術を瞬時に施すほどその猫は価値があるのか?」
才原は桜組・組長の顔をしていた。その威圧感のある目をごろうを向ける。
ごろうは、その目にビクッとしたが、負けじとシャーと威嚇し返す。哀れごろう。
「いや、価値があるとかないとかじゃなくてな。うちの家族になったからにはそれ相応の力を持つ必要があるんだよ。私の力は生存と無事家に帰ることが目的として手に入れたつもりなんだが、それはかなり大きい力でね。私の周りにいるには多少の力がいるんだよ。でないと、直ぐに死んでしまうからな。」
椿の言いたいことはあれだろう、何かしらのトラブルに巻き込まれたときに、何とか生き残れるくらいの力がいるという事だろう。椿が一体どれ程の力を持っているかは、才原には未だわからない。その片鱗は見たが、何しろ、多少酔っている時に見たのと、さり気なく使った時しかないので、今いち椿の持っている力がわからないのだ。大岩を砕くなりなんなりもっと分かり易かったらいいのだが、如何せん全ての技が地味だ。そして、本人が言うには超高度なことをしているらしい。やはりわからない才原であった。
「はぁ~、何となくはわかった。」
才原は重い溜息を吐いて、その表情を柔らかくさせた。ごろうはその変化を読み取り、首を傾げつつも戸惑いながら警戒を続けた。
「ま、そんなことはどうでもいい。で、自分の魔力の色がわかったか?」
「ああ。」
「じゃあ、教えて。」
椿は、そう言いながら床から立ち上がり、ソファにどかりと座る。
「そうだな。一言で言うなら紺色だが、薄くなる?とお前の魔力の色の様な感じだな。」
「お~!大正解。で、どうやって魔力の色を見た?」
椿が無表情でしかし、口調は弾ませて聞いてきた。傍から見たらなかなかに面白い奴だ。
「椿が俺の中に魔力を入れたことがあっただろう?その時の感覚を頼りにやってみたんだよ。」
「ほぉ。才原は結構感覚派なのか。それでいて、理解はしている、と。」
椿はたったこれだけで才原の特徴を捉えたようだ。
「で、自分の魔力の色を見た感想は?」
「そうだな。もっと、感動的に見られると思ったんだが、正直言って直ぐに仕舞ってしまいたかった。」
「でしょうね。」
「あれだな、自分のデリケートな部分を曝け出している気分だ。例えば血液とか。」
「そうそう、下世話なとこじゃなくて血液ってとこが大事なんだよ。」
「何故だ?」
「だって、そうだろ?自分が血液垂れ流しているのを見たらどこか怪我をしていると思うし、普通の人は血を見たらギャーギャー騒ぎ出すしな。いくら才原が血を見慣れていて、何の感情を持たなくなったとしても、魔力の色を見たらソワソワとちょっと不安な気持ちになってしまうのが、本能なんだ。」
ここで才原は疑問を口にした。
「どうして、色なんだ?」
「そう、その色が大切なんだよ。まず、色には多少だが、苦手なものがある。それは、反対の色を持つ者を苦手に思う。簡単に言うと五行に近い。」
「成程。何事にも弱点というものがあるのか。ふむ。」
才原は癖なのか顎をさすりながら少し考えを巡らせた。
「では、黒の弱点は白という感じか?」
「う~ん。実を言うと黒や白という色はかなり希少なんだよ。持っていたとしても、身体に何かしらの欠陥や症状が出ている。例えば他人を色で判断するとか。所謂超能力的な力を持つ人たちが黒だったり、白だったりする。と言っても、黒や白に近いってだけで、殆ど何かしらの色がメッシュの様に混じっているけど。」
「そうか。」
「私は見たことがないけど、完全な白だったり黒だったりするとその人はかなりヤバい人だな。見たことがないけど、こう、想像がつかないくらいにやばい。いたら緊急連絡しなくちゃいけないくらいの事案だな。」
椿は重く頷いた。ならば、黒に近い紺色の俺はどういう事だろうか?と考える。
「紺色はなんの問題もない。」
そんな才原の考えを見透かした様に椿が言った。
「何故だ?」
「紺色は黒に幾ら色が近くとも、紺色だから何の問題もない特殊枠ってこと。基本青系統は特殊枠だとでも思っていたら、何の問題もない。細かい説明はまたの機会に。時間がかかるから。今日は基本中の基本を教えるから。」
「わかった。」
知りたい気持ちがないと言えば嘘になるが、椿が説明を後回しにしてもいいと判断したのならばそれに従うしかあるまい。それに、基礎を知らなければ何の意味もないからな。説明されてもわからなかったら、ただの二度手間だ。若くなり長命になったとはいえ、物忘れは極稀にある。まぁ、本当に興味のないことだったりするが。それは椿も同じだと少し前に聞いたことがある。
「じゃあ、次に……
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あれから椿にみっちりと教えてもらい、頭の整理も出来た。やはり、この頭の回転数が格段に良くなっているようだ。かなり、楽になった。この間まで年寄りの頭であまり捻った考えが浮かばなかったりしたが、柔軟な脳を持つとこの様になるのだと驚いているし、感動もしている。と同時に少し恐ろしくも感じている。あの小瓶一つの液体を飲むだけで劇的な変化を及ぼせるものを創れる存在と近しくなるという、恐ろしいことに。そして、未だに聞いていない事なのだが、自分が飲んだものの正体を未だに知らない。という訳で聞いてみようと思う。自分の損になりそうな情報ではないし、椿も絶対に聞くなとは言われてはいないのだから。
「なぁ、椿。」
「何?」
自分の容姿を見て声を1トーン上げて擦り寄ってきた女達とは違い、アルトの心地良い椿の地声で返事が来た。
「俺が飲んだあの液体って何だ?」
「あー。」
「言えないことか?」
椿が難しそうな顔をしてこちらを向く。
それから苦笑いをする。
「いや、なんていうか。何と言えば良いんだろうって。効果としては、不老長寿と言える寿命と、頑丈な身体に自分の魔力を見える能力、そういった力の成長限界がないこと。まぁ、これらは只人の魂が耐えれないからじっくり馴染んで、毎日ちょっとずつ膨らんでいくんだけど。才原は元々の親和性というか、そういう才能があったから馴染む速度が予想以上に早いけど。」
「…………それで?」
才原が頭を抱えつつも椿を一生懸命に真っ直ぐに見て現実を受け入れようとしている。
「えっとー、私は神とかではないのだけど、それに近い能力を持っていて、対抗できる人の様な感じ?で、偶にお手伝いをする人?みたいな。そして、私に迷惑をかけたその神が迷惑料として一生の伴侶にする人へ渡すような薬で、ってこれは説明したな。で、その伴侶は私と同等かそれ以上の能力を得られるようになる。私の寿命とか力は例え神様、えー、神でもどうにもこうにも大きすぎる力なので持て余すんだよ。私が手を出さなければ無害ってことは神達にはわかっているから、寧ろ下手に監視すると自分たちの方が危なくなるから基本放置ってこと。」
「ん?」
「どした?」
才原が不思議で仕方がないといった顔をしている。
「お前だけでも手一杯なのにそれを、伴侶という形で増やしてどうする?神には危険が増えるだけでは?」
「あぁ、それね。私は人の善し悪しというか、そういうのには敏感な方だから大丈夫ってこと。それに、神が悪いことをして私達が動いて懲らしめてくれたら手間が減るという事でくれた。まぁ、要求したのは私だけど、流石に旦那があっという間に死ぬっていやだろ?それに子供ができないって事でもあるし、流石に私も自分の子供をお腹を痛めて産みたいし、家族が欲しいんだよ。」
「子供が、出来ないのか?」
才原は衝撃を受けた顔をして、椿に聞いた。
「うん。そうだね。魔力があるという事はそれ相応の魔力を持つ人でないと、子供を流産する可能性が高くなってくる。」
「そういえば、魔力量の多い奴の近くにいると魔力量が少ない奴は魔力に酔うんだったか。」
才原は先程の長い説明を思い出した。
「そういう事。それが子供にも出来てしまうという事。それに、私の身体は特殊でもあるから。異世界でも魔力の強い人とは比べ物にならないし、それこそ神とならできるけど、どうにもこうにも恋愛対象に見れないんだよなぁ。癖の強い奴らばかりだから、恋愛感情を持てないんだよなぁ。まぁ、それも人間とはまた違う繁殖方法だから嫌なんだけど。その点才原は人間だし、魔力も私と比べても遜色ないから。」
「そうか。」
元々普通の人間であった椿は強大な力を持っても喜ばしいことではない。それに、引き換え女としての幸せを失ってしまうことはとても悲しい事だろう。多分椿は日本の家に帰って普通の暮らしをしたいと思っていたのだろう。しかし、それが無理なことはもう既にわかっていることだろう。
「まぁ、子供って言ってもずっと先の話だけど。正直言って、未だ私の戸籍が生きている間は気が向かない限り産まないでおこうかなぁとは思ってるけど。あ、なんか才原との間に子供を産むのが当たり前のように言ってしまったけれども、拒否してもらっても構わないから。」
「それはないだろう。」
そう即答した才原に椿は目を真ん丸にし、呆気にとられた顔をした。
「さて、そろそろ腹が減ってきた頃合いだな。今日の夕飯は何だ?」
確かに外は既に暗く、壁掛け時計を見ると19時前になっていた。
「え、って、え?夕飯は、とん平焼きと普通にご飯と味噌汁だけど、後は幾つか小鉢がある、けど。」
「そうか。マリア、これから俺の部屋になるところへ案内してくれ。」
《はぁーい。》
才原は平然としていて、戸惑う椿を置いてマリアと一緒に居間から出て行った。
「え、えええ~?」
椿は料理中もそんな言葉をずっと言っていた。




