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仕舞い終わると、私は犬養に何処に何を入れたのか伝え、アパートを出た。
この間メロンパンを買ったパン屋に行くと開いており、早速メロンパンを買った。
どうやら丁度焼き立てのメロンパンが出来た様で、今後もご贔屓にという感じでサービスされた。
手の中にあるホッカホカのメロンパンからは甘い美味しそうな匂いと微かなドライイーストの匂いを漂わせていた。
むきゅりとメロンパンに齧り付く。
「うま」
マジで美味い。
やっぱ焼き立ては最高だなぁ。
因みにクロと雪子は既に別行動だ。
どうやら行きに乗った電車の匂いに耐えられなかったようだ。確かに、普通の動物よりも鼻の利く二匹にとっては地獄の様だ。
駅についた頃には既にメロンパンは全て胃袋に収まっており、ポケットでカサカサ音が鳴る袋の音が寂しい。もっと食べたかった。
切符を買い、改札を通ろうと思ったのだが、近くで争う声がした為家に帰るのは少し遅れそうだ。
勿論近くで争う声と言っても常人には聞こえない声であり、しかも、今来た電車の音で全く聞こえない上でのことだ。
椿は切符を落とさないように尻ポケットの奥にねじ込む。
少し早足で声の方向へ行くと、学ラン服の(体格から見て)高校生っぽい派手な男の子達が一人の男子高校生と争っているようだ。一人の方はブレザーを着ており、どうやら高校生集団とは他校生同士の様だ。普通のか弱き乙女ならばわーきゃー叫ぶのであろうが、生憎誰よりも濃すぎる死線を潜り抜けてきた椿はそんなことよりもこんなドラマのシーンに立ち会えることに感動していた。
え、ナニコレ。
こんな理不尽の塊の様な私がこんな青春熱血ドラマの様なワンシーンに出会っても宜しいのでしょうか!?あー、感動するわー。
こうである。
しかし、流石にこのまま見逃すわけにはいかないので一応フードを被って、荷物をこそこそと隠し、争いの内容に耳を澄ませる。
舞台セットは電車の線路下。
時折電車が上をゴウンゴウンと通り過ぎ、昼でも薄暗い線路下の中で争う不良達。
完璧じゃね?
そして、高校生ズが何をしているかというと、くだらないただ肩がぶつかっただけの様だ。
すげぇな、肩がぶつかっただけで睨み合えるってすげぇ根性。
何がしたいのかよくわかんねぇな。
異世界では脳筋でも戦いの為に無用な争いはしないってのに。まぁ、たまにいるただ力を自慢したいだけの考えなしには喧嘩を売られるけど。
そして、剣などをちらつかせ、荷物持ちにし、弱ったところを捕まえられ、奴隷商に売られたり、肉壁にされて見殺しにされたりする。地球とは喧嘩のベクトルが違う。それでも、腰抜けの考えなしには違いないが。
おっと、おっぱじめたみたいだ。
あー、違う違う。拳がブレてる。もっとこう素早く出して素早く引けよ。
だーかーらー、違うって!ちゃう!
おい!ブレザー!フラフラすんな!顔を殴られたらそのまま顔でいなせ!阿呆!
拳おっそい!もっと鍛えろ!
私が同い年の時はゴブリン相手に鍛えた筋力で無双しとったぞ!
女に負けてええんかい!
あー、もやもやするぅ!
クッソ!もう知らん!私が見本を見せたるわ!
心の中で存分になじった椿は足踏みさせていた足を一歩踏み出し、地球の常識の範囲内の速さで駆け寄る。
学ランズが背中をこちらに向ける中を風の如く駆け抜け、たった今ブレザーに迫っていた重そうな拳は椿の手によって阻止された。
「な、何だ?」
答えようとした椿。
だが、残念なことに飛び出した後の事を考えていなかった人見知りは喉に言葉が詰まってしまい、何も答えられない。
ただ、これだけは確認しておこうと思いブレザーに顔を向ける。
「だ、大丈夫、です、か?」
最後の小さな声はキチンとブレザーに届いていたようでブレザーの顔が渋くなる。
内心、暴力とかそんなことよりも、人に接しているだけで心臓がバクバクしているのである。
冷や汗がぶわりと吹き出し、人前に出た時の謎の恥ずかしさで身体が火照り、寒いのか暑いのかよくわからない。
「え、えっと、多対一は、だ、駄目です!」
普段は仕事モードなのであまり問題はないが、あれでも人見知りモードなのだ。天気の話を振られたって滅茶苦茶困るくらいだ。
しかし、声で女とわかった学ランズは正体不明の低身長の女の椿をぎろりと睨む。
「え、えー、っと、かかってくるのならば!まとめて!こい!」
濃厚な殺気がのった魔力が可視化する程にバチバチとやり合うのならばここまで緊張はしないのだが、椿からしたらじゃれあい以下のいわばただの話し合いに等しいことをするとなると、滅茶苦茶きょどるのである。
今作始まっての初めてみる椿である。
しかし、これが地である。
「……っぷ!」
ぶひゃひゃひゃ!と今時の高校生にしては少々おっさんじみた笑い声をあげる学ランズ。
腹を抱え笑い始めた学ランズに素で驚いた椿の心臓は破裂する寸前だ。
吃驚させんな!と内心叫んだ。
笑いがおさまった未だ私が手を離していない学ラン高校生が私に声をかける。
「ねぇちゃんよぉ、これ離して?」
椿は言葉にできなかったので首を横に振ることで意思を示した。
「おい!」
ブレザーが椿に吠える。
多分、余計なことをすんなとかそんなところだろう。
「取り敢えず、制圧させていただく、ます?」
ちょっと、勇者時代の(暗黒時代)口調が混じったが何の問題もない。こいつらをぶっ飛ばすだけだ。
「はぎょ!?」
多分「は?」って言おうとしたのだろう学ラン不その1がぶっ飛ばされる。
精々2メートルくらいだ。まだ、人の範疇だ。
「ふっ」
何となく空気を読んで、「ふっ」と息を出しながら近くの不良共を殴っていく。気絶させれば簡単だが、なんだか面倒なことになりそうなのでやめておこう。後々の処理も面倒だしな。ここを通るご近所さんにも大迷惑だ。
「ぐえ」
「ぶっ」
「ごふっ」
最後の一人を殴る。
「がふ」
気絶しないぎりぎりの力加減でやっているのでかなり苦しいはずだ。
「ふー」
疲れてはいないが精神的には滅茶苦茶疲れた。
家に帰ったら皆に癒してもらうとしよう。
一応唾とか飛んでいるのが見えているので、手を気休め程度にパンパンと払う。
さてと、後のブレザーくんをどうにか致しましょうか。
「大丈夫、ですか?」
あぁ、人見知りは辛い。
「あ゛?」
全く怖かないが、これはどういう反応だ?
一応魔力で視させてもらったが、殴られた痣とか擦り傷だけで大きな怪我はないらしい。よかったぜ。
「取り敢えず、た、立ちましょう。そして、逃げましょう。」
椿は未だ座り込んでいるブレザーに手を差し伸べる。
「ちっ、余計なお世話だ。」
Sow cool.
ま、でも、気になるのでついて行くが。
余談だが、人見知りでも、決して図太さがなくなるわけではない。
椿の出した手を振り払うブレザー。素直じゃない奴。
ブレザーは立ち上がり、服に着いた汚れをパンパン払う。うむ、先程から思っていたが、見事な金髪だ。眉毛は色素の薄い茶色なので染めた様だ。目もよく見ずとも色素が薄い。太陽に弱いだろう。それと、背もまぁまぁ高い。まぁ、私から見れば全員のっぽだが。
「あ、待ってて下さぃ。」
「あ゛?」
私は荷物の事を思い出し、取りに行く。
なんだかんだ言って良い奴っぽいので待ってくれている。気配でバッチリわかるぞ。
荷物を持って戻るとブレザーが突っ立って待っていた。
「え、っと、取り敢えず公園に行きましょう。」
科白だけ聞いたらオドオドヒロインだが、残念ながらクネクネしていないし、見事に可愛くない三白眼の地味女なのでただの人見知り女だ。
「あ゛?なんでだよ?」
「怪我の手当てをしようかと思いまして。」
「は?ついて行くかよ。」
「え、化膿してしまうので速く処理しなければいけないですよ?取り敢えず一緒に行きましょう。」
そうだ。怪我の手当てをしたい。放置していたらどうなるのかよく見てきたのでこれだけは放っておけない。小さな怪我は大きな怪我の元になる可能性は決して低くないのだ。
椿はブレザーの腕を片手でがしりと掴んで近くの公園に連れていく。
ブレザーがぎゃーぎゃー騒いでいるが、そんな腕力で私を振りほどけると思うな。
*******
公園に着くや否や椿は問答無用とばかりにブレザーの腕を未だ冷たい公園の勢いの好過ぎる水道に突っ込んだ。
「いっづ!」
「痣は家で軟膏塗って治してください。」
私は塗れた腕を清潔な布で拭いていく。因みに魔法は使う気はない。親しい人間には使うが知らない人間にバレる様な危ない真似はしない。たかが掠り傷だ。まぁまぁ、親しい人間で致命傷を負っていたら助けてしまうかもしれないが、そうすれば、私はこの地球にはいられなくなる。そんなのは御免だ。まだ読んでいない漫画があるからな。
話を戻そう。
腕が拭けたら次は顔だ。
濡らしたハンカチではなくて、がっつりバシャバシャいってもらうとしよう。
「顔を洗ってください。」
「は?」
「汚いので取り敢えず洗ってください。」
椿は有無を言わさず顔を洗わせる。
ブレザーは戸惑っていたが椿の気迫に飲まれ渋々洗う。
「いっ!」
沁みる程度だろうが我慢せい。
しかし、そこは流石不良だ。謎の根性と意地を張るのを発揮する。
これなら洗い流せただろう。後はタオルで拭いて、持っている軟膏を塗る。勿論この世界の市販の軟膏だ。オから始まる超有名な軟膏だ。後は、適当に青缶のクリームでも塗っとくか。
ベンチに座ったブレザーに塗りたくる。こいつ、されるがままだな。ってか、顔整ってんなぁ。普通にモテるだろうな。まぁ、別に、人ならざる者の美貌を見てきた私には普通に見えるが。
「おし、終わりです。」
「ちっ、………ありがとよ。」
最後にボソッと言ったのめっちゃはっきり聞こえてるからな!
「あ、そう言えばまだ名乗ってませんでしたね。町田椿と申します。」
「……沢田卓哉」
ほうほう。
私は疲れたふりをして、どさりと沢田の隣に人一人分の距離を開けて座る。
空は灰色。
しかし、心は快晴。なんつって。
「…あんた、強いな。」
ブレザーこと沢田がそう呟いた。
「強くなりたくてなったわけではなかったんですが、人の役に立ったのならば僥倖です。」
「そうなのか?」
私が悲し気にそう言うと沢田が目を見開き驚いた。
まぁ、確かに強かったらそれはそれで良いんだろうが、経緯がなぁ。
因みに私は勇者が嫌いだ。ラノベを読んでいてどうして、勇者になりたいのか甚だわからない。異世界に転移したことには興奮したが、勇者と呼ばれたことには何故か嫌悪しかわかなかった。どちらかというと、魔王の方が好みだ。そして、勇者という単語をなくしたい。
「詳しくは話せませんが、成り行きですね。」
「ふーん。」
「強く、なりたいですか?」
物理的にな。
「わかんねぇ。」
でしょうね。
「ただ」
え、ちょっと待って、これって意味深な科白言うシーンだよね?え、やめてよ?これラブコメだからね?ね?
「無力感だけがある。」
え、初対面の人間に言わんといて。やめてぇや。
「はぁ。」
まじで、はぁ、や。
ねぇ、焦ったらわし関西弁でんねん。どうしてくれる。
「はっ、まぁ、おこちゃまにはわかんねぇか。」
「おこちゃまって、一応こう見えて成人しているんですけど。」
「はぁ?」
え、マジで?
まぁ、確かに?見た目は145㎝の?史上最少の勇者と言われた私ですけど?
成人に見られないのはショックです。
「え、マジで?年上?は?幾つなんだよ?」
「20歳です。」
「え、マジかよ。4つ上かよ。」
16か。
「それでも敬語は無しなんですね。」
「俺のスタンスだからな。」
そんなちんすこうよりも脆いもんは道端に捨てとけ。
「そうですか。」
「あんたは何で敬語なんだ?年下ってわかってただろ?」
私の顔を下から覗きこむ様に見る沢田。
「人見知りなんです。」
「は?めっちゃ喋ってるけど。」
まぁ、確かにそうだよなぁ。
今は沢田に慣れたから良いんだけど。まぁ、未だに心臓バクバクだけどな。
「と言っても心臓バクバクなんです。親しい人にはタメ口なんですけど。」
「あっそ。」
もう、意味わからん。
何こいつ。
自分から聞いといてその反応?
「あー、だからあんなにキョドってたのか。」
「はい。」
「あ、そうだ。あんた猫いる?」
え、急な話題転換?
「えっと、別に引き取るのは構いませんけど。」
「あー、じゃあ、引き取ってよ。今までうちで飼ってたんだけど、もう限界でさぁ。」
何が?え、何が限界なの?
「あ、これから時間大丈夫?」
「問題ないですけど。」
「俺んち○○駅の近くなんだよね。マジで大丈夫?」
あ、私の家の最寄り駅でもあるな。
「家の最寄り駅でもあるので、大丈夫です。」
「奇遇だな。じゃ、行こう。」
こうして、私は心臓をバクバクさせながら沢田の猫をひきとることになった。
ねぇ!急すぎない!?
マジで急すぎですね。




