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うーん。さてここからどうしようか。実はここいらに用なんぞ全くない。下手に動いたら迷子になるくらいだ。どんなに怪物スペックを持っていても地理には敵わないのだ。ちょっとした方向音痴とも言う。(地図を読むのは苦手だ)
「兎に角あそこのパン屋に行ってエネルギーを補充しよう。うん、これは補充ね。」
私は一人でに言い訳がましくいい匂いを漂わせているパン屋にフラフラーと吸い寄せられていった。
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「ふへぇ(うめぇ)」
口にはメロンパンを頬張り美味そうに食べている椿の情けない顔が晒されていた。誰もこの女が異世界最強の生物だとは思わないだろう。異世界でなくおそらくこの世界でも最強だろうが。
「あ、間違えた。……どうしよう。」
椿はいつになく真剣な顔で悲壮感に満ちた顔になった。一体どうしたというのだろうか。椿が真剣な顔をする程大変なことが起き
「カレーパンじゃなくて、メロンパンを先に食っちまった。甘いものはデザートという決まりなのに。マジかよ。あぁぁぁ、失敗した。大失敗だ。」
そうではなかったようだ。
未だに飲み込めていないメロンパンだった(汚いが)残骸を頬に残して、おかめの様な顔を晒している。先程よりも吐いた科白のせいでより情けない顔が大勢の前に晒されていた。そして、ここに才原がいたならばきっとこう突っ込むだろう。「お前は天然の詐欺師だな。騙される奴が気の毒だ。」と。
「つ、次から失敗しなければいい。そう。これはセーフ。セーフ。」
何がセーフなのだろうか。
「まぁ、とりあえず、まずは再訪問だな。」
私は気を取り直して?再訪問に向けてツブレ荘に向かった。
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ブーーーー
私またあのレトロなインターホンを鳴らした。うん。レトロだね。
「……出ねぇな。」
やっぱり。そう思ってはいた。だが、出ないとなると、この現代では滅多に押せないインターホンを長いこと押してみたくなるのは人間としての性だろう。うん、しかたねぇ。
ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「うるせぇ!!!!」------------
ガチャン!とかなりの音を立てて部屋を飛び出してきたのは先程と同じ身なりの男。犬養だ。
「あ、出てきた。」
「あ゛?」
犬養が凄むが、私はそんなことよりも犬養の家の中の惨事に目がいっていた。先程は立っていた位置的に部屋の中が見えなかったが正面から見るとそれは地獄といっても過言ではない程の惨状だった。まぁ、これは無視しよう。
「先程ぶりです。犬養さん。」
私は少し砕けた口調にして話す。仕事になるとコミュ障が改善されるのは、スイッチがあるからだろう。仕事になればONになり、プライベートではOFFになる。それを利用しながら私は仕事をしていく。
「お前は…さっきの」
「はい、町田と申します。」
「で、何の用だ。」
「借金の取り立てです。」
私がそう言うと犬養の眉間にしわが寄る。おおお、すげー。
「女がやることじゃねぇだろう。」
「そうですね。一般的には。になりますが。」
「つまりお前さんは一般人じゃねぇって言いたいのか?」
「そうですね。少なくとも貴方よりかは強いと自負しています。」
「なんだかさっきと態度も違うようだが?」
「それは作戦変更です。先程の方は私を有効活用できなかったようですので。」
「だな。」
「実は貴方の借金の額も何も知りません。ですが、返済してもらわないと額が増える事になりますし、貴方もデメリットしかないのでは?」
「……こっちも事情ってもんがあんだよ。」
どんな事情だよ。兎に角、こいつのテリトリーにはいってみっか。
「話してもらえないのなら仕方がありませんね。…では、今日から犬養さんと私は友達ということで私は貴方にお節介を焼かせていただきます。…早速ですが、失礼いたします。」
私は結局ごり押し作戦で行くことにした。
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何なんだこの女は。
今日いつもの様に借金の取り立てが来た。金を借りたときに覚悟はしていた。なのでビビることもない。毎回毎回同じ奴が来たが、今日は何故か違った。
女だ。
150もないだろう身長と地味な顔にピクリとも動かない表情。良いところと言えば、艶やかなストレートのサラサラの髪だけだ。化粧もしていないんじゃないか?いやいや、今どきいないだろう。それよりも、この目の前のこれまた地味な男の借金取りが言うには”我が社の最強”だとよ。
っは。
俺は鼻で笑いそうになった。確かに動きは隙がなく無駄がない。まるで達人の様な佇まいだ。だがしかし、所詮は女の力。男には力では勝てないのだ。たとえ相手が合気道の達人だったとしても俺は古武術道場だけでなく様々な武術を身に着けている。こんな女なんぞに後れをとるか。
しかし、この地味な借金取りが言うには男に圧倒的な力で勝ったらしい。だが、この男は少し誇張し過ぎているような気がする。それにしても良く喋った。そのあとだ。この変な女がまたやってきた。しかも1時間も経っていないのにだ。いったい何の用だ?なんだか俺に対しての態度も少し崩れている。懐柔作戦に切り替えたのか?
「話してもらえないのでしたら仕方がありませんね。…では、今日から犬養さんと私は友達ということで私は貴方にお節介を焼かせていただきます。…早速ですが、失礼いたします。」
は?
こいつはいきなり何を言ってるんだってうおっ!!
女は俺の部屋に急に上がり込んできた。おいおい。これって不法侵入ってやつじゃねえの?
「ほう。なかなかの汚部屋です。星3つです。」
何故か俺の部屋の評価を下している。意味が解らん。しかし、その評価は全く嬉しくないな。それに星3つだと言いたかっただけじゃないのか?
そして、その犬養の予想は的中している。
「では早速犬養さんと一緒にこの部屋を片付けさせてもらいます。」
「は?いや、俺やんらねぇぞ。」
「主に私が動くので犬養さんにはいるものといらないものの判別をお願い致します。そして、犬養さんがいると判断したものの中でも私がいらないと感じたら強制的に捨ててもらいます。」
それは強権だな。
「では、早速始めましょう。」
そう言って女は、いや、町田はどこから出したかわからない手袋をまるでオペ前の外科医の様な格好でキメた。そして、俺は強制的に部屋の掃除をさせられるのだった。
「はぁ~、面倒。」
まぁ、直ぐに諦めるだろう。
そう思っていた時期がありました。ってか、この女やばい。
俺に判断を求めてくるものを顔色ひとる変えずに聞くもんだから俺は最初この女は恥じらいがないのかと思った。いや、あれは絶対ないだろう。
町田は色々俺に見せてきた。正直言って他人に見られるのがこんなにも恥ずかしいものだとは思わなかった
「これは?」
あー、その雑誌は
「それは袋とじが最高だから置いとけ。」
「捨てですね。まぁ、あの袋とじが最高だとは思えませんが悪いものではありませんね。」
見たのか!!
「で、これは?」
あー、その写真は
「エロいから置いとけ。」
「捨てですね。それにこの写真のどこがエロいのですか?贅肉がだるんだるんじゃないですか。まぁ、この白玉の様な肌を抱くのは男の方は好ましいんでしょうね。」
「で、これは?」
あー、SDカードは
「エロ動画が入ってっから置いとけ。」
「うーん。中身を消して再利用しましょう。しかし、この動画は一人だけマグロがいましたよ。男優はエロかったですが。その他は女優も最高でしたね。ちゃんと感じてました。私のお勧めはあのボブカットの女の子ですね。」
「だろ!!って、ちげぇだろ!!消すな!ってかいつ見たんだよ!!」
まじでいつ見た。
「犬養さんがそこで座ってニヤニヤとエロ本を読んでいる間にパソコンで拝見させていただきました。その本そんなに良かったですか?」
マジかよ……。
そして、その本も結局捨てられた。
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すっかり暗くなった夜。
すっかり綺麗になった部屋にビフォーアフターした犬養の部屋。
埃をかぶっていた部屋の明かりが綺麗に照らす。窓には白くなったカーテンが揺れ、外には溜まっていた洗濯物が風に揺られている。埃とカビ臭かった布団と畳はいぐさの匂いはしないまでも、元の匂いは消え去っている。心なしか息がしやすくなった気がする。
「おー。」
俺は素直に感心した。
町田は諦めることなく俺の部屋を掃除して見せた。今まで俺の面倒を見ようと部屋を片付ける女が続出したが、全員諦めていった。プロでも雇わなければやっていけないだろう。俺もそう思うからな。
「晩ご飯も一応作りました。残っていたインスタントのみそ汁とパックのご飯ですが。」
部屋の中央にあるちゃぶ台には(今時ちゃぶ台とか珍しい)ホカホカのご飯(ちょっと開けて電子レンジでチンしたらいいあのサ〇ウのごはん)が艶々と自己主張をして、その隣では魅惑的な匂いを漂わすみそ汁(お湯で溶かすだけ)が鎮座している。
現在時刻は21時前。ご飯を食べる時間を大幅に過ぎている。
「こんなのあったっけな?」
「ありましたよ。賞味期限は少し過ぎていますが、味が少し落ちているだけなので問題ないです。」
「そうか。じゃあ、いただきます。」
俺は久々に味わうまともな飯を食う。
おかずも何にもないが、美味いな。流石サ〇ウのごはんだ。
途中で飽きた白飯に塩をかけると滅茶苦茶美味かった。何だこの塩。スーパーの塩か?
「なぁ、塩ってこんな美味いもんか?」
「ただの塩ですよ。犬養さんの台所にあったもので作りましたので。」
「だろうな。」
ズズズっとみそ汁を啜れば自ずと「はぁ~」という息が出る。わかるだろ?
「ごちそうさまでした。」
俺は美味かったという思いを込めて言った。
「そうですか。」
町田はそう淡々と言った。そして、俺にいつの間に作ったのか氷が入った麦茶が出てきた。飲むと麦茶のこおばしさと甘さがしたで後味をすっきりさせてくれる。麦茶ってこんな美味かったか?
「では、食器を洗いますのでゆっくりしていて下さい。」
「おう。」
俺は満腹感からだけではない満足感を味わいながら目を閉じた。
「では、そろそろお暇します。次はご飯のお供になるようなおかずを持ってきます。おやすみなさい。」
「おう、すまんな。おやすみ。」
町田は食器を洗うとすぐさま帰りの準備を済ませ、そそくさと帰った。しかもまた来るらしい。面倒な。しかし、楽しみも出来たな。ご飯のお供か、うん、楽しみだ。
俺はこうして町田椿という天然爆弾の様な存在に絆されていった。




