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「って、えええ!」
「うるさい。」
ベシッ
軽く浅草次郎の頭にチョップをかましておいた。
「痛いです。」
「だろうな。」
なんか才原組長がこっちを同情と憐みの視線を向けてくるんだけど。
「な、え、え!タメ口!?」
「あー、そういうこと?社会的立場はこっちが上だけど、まぁ、仲良くなったからタメ口ってことで。あと、強くなる上で私の秘密も喋るから契約書にサイン書いてもらうよ。今回の契約内容は分かり易くまとめておいたから。」
「へ?え!け、契約書ですか。」
「そう。契約書。あ、浅草ってどこに住んでるの?実家?借家?」
「…アパートですけど。」
「そう、じゃあ、引っ越すから荷物まとめておいてね。」
「え!何処にって聞いてもいいんですか?」
「私の家。」
「ど、どうしてですか?」
「強くなるための条件みたいな?あと、浅草以外にもいるから。」
「俺以外、ですか。」
「そう、2~3人ぐらいかな。」
「そんなに家って広いんですか?」
「一軒家だし、昔の家だから、部屋数は多いよ。両親もいないし。あ、浅草ってアレルギーかなんかある?ほら、動物アレルギーとか。」
「……ないですけど。」
浅草は強くなるためにこの人の指導を何故受けるのか?という疑問と何故俺なのか?という疑問等沢山の?マークが頭の上に浮かんでいた。なのに、トントン拍子で話が進んでいくという謎な現象が起きている。
「あの、」
「ん?」
「誰が俺の師匠になるんですか?」
できれば、才原さんがいいような気がする。
「私だよ?」
「おいくつですか?」
「ハタチです。」
と、年下……。
「あと、俺以外のメンバーを教えてください。」
「えっとね。才原と、入江と、あともう一人いるんだけど名前を知らないんだよねぇ。これが。」
「俺も知らん。」
「あ、思い出した。」
「思い出した?」
≪雪子に聞いたから大丈夫。≫
≪そういう事か。≫
急に黙りだした才原と椿に浅草は怪訝な表情になる。というか、今のメンバーの名前は聞き間違いではないかと耳を疑ってもいる。器用なやつだ。
「そうそう、羽柴秋彦ってやつ。」
「え、それって。」
また濃いメンバーだなと思った。羽柴と言えば強いとかそういうので有名ではないがある意味有名人だ。羽柴はスピリチュアルな力があるとかないとか。結構不思議なやつだ。ほわわんとしているが、偶に空中に向かって何か独り言を喋っていることがある。気味が悪くてその日以降は大体1週間くらいは誰も通ろうとはしなくなる。
「?なんかあるの?」
「いえ、何も。」
「あ、それで。強くなるためのドーピングとしてこの丸薬を飲んでね。才原は既に飲んでるから大丈夫。」
「え、あ、そうですか。」
随分と信頼してるんだな。と思った。不思議な人だなぁとも思った。最近会ったばかりの筈の二人なのにかなり親しいようだ。それにしても、怪しい。才原組長は飲んだと言っていたけど、こんな今時ないような丸薬をもってるなんて、忍者みたいだ。
「はいはい。飲んで飲んで、はい、お水。」
ええい、ままよ!
俺は内心そう叫び丸薬を水で流し込んだ。
あああ、飲んじゃった。
怪しさ満開の丸薬をとうとう飲んでしまったことにぼーぜんとしていると椿が爆弾を落とした。
「うん。大丈夫だね。良かった良かった。それ、私の手作りなんだー。」
「ゲホッゲホッ!!!」
咽た。というか、そのまま吐き出したい。
「えええ!大丈夫?」
背中を優しくさすさすとさすってくれているが、原因はあなたです。
「椿。お前、おちゃらけた怪しい女が作った丸薬を飲んだと知ったら誰でも驚くだろう。」
「えー、酷い。」
それはこっちのセリフだ。というか、何で一般人?の町田さんが非常識そうで、ヤクザの組長が常識を説いているんだ?
「兎に角、その丸薬の効果は私の家に引っ越してくる頃に出るはずだから。んで、私の用事は終わったから。またね。」
そう言って満足そうに颯爽と去っていった町田さん。この部屋に残っているのは俺と才原組長だ。
「俺があいつに師事するのがおかしいか?」
「え!あ、ま、まぁ。」
曖昧な返事しかできない!
すると、そんな俺の心情を察してくれたのか苦笑いを顔に浮かべた組長。
「まぁ、実際あいつの方が強いしな。それに、俺も巻き込まれたクチなんだよ。これから宜しくな、浅草。」
「次郎でいいですよ。呼びにくいでしょう?」
「そうだな。じゃあ、俺も行くか。またな。次郎。」
「はい。」
スッと障子を閉める音が静寂の中に響く。
「何だったんだろう。何か、夢みたい。」
俺が組に入った理由は、何だったんだっけ?もう、忘れてしまったようだ。
「はて?本当に忘れてしまったようだ。」
まぁ、そのうち思い出すからいっか。
********
やっほーい!町田椿です。
いやー、愉快愉快。というか、機嫌が頗るいい町田椿です。
そう、町田椿です。
町田椿です。
とうとう、弟子が出来ました。町田椿です。
あの丸薬の正体が知りたいって?
うーん。教えない!町田椿です。
え、町田椿です。がうざいって?わかったわかった。善良な読者様の為にやめますよっと。
「入江はどうすっかなぁ。羽柴は力の使い方を教えてやるって言えば良いし、最終手段は組の命令ってことにしたらいいし。まぁ、いっか。なんとかなるさ。なんくるさいさ。」
フーフーと下手糞すぎる口笛を吹きながら廊下を歩いて会場へ向かう。
********
会場に着くとどうやら次の試合が私のようだ。
現在の試合は山田大和対河野信義だ。
って、誰だよ。
≪現在4回戦目です。あのDブロック勝者の一人で影の薄い男、山田大和さんです。そして、対するはBブロック勝者の河野信義さんです。見た目的に判断すると、山田さんは地味な青年で、河野さんはただのおっさんですね。≫
≪そうっすね。河野さんはあの鬼人の猛攻から運よく逃れられた幸運の持ち主っす。そして、山田さんはあの町田さんの見えない攻撃から影の薄さで何とか逃れられたこれまた運のいい人っす。≫
いや、逃したんだよ。一番強そうだったし。でも、弱いけど。
≪そうなんですねー。確かにあの町田さんの攻撃から逃れられたのは影の薄さなのかもしれないですね。≫
≪河野さんは俺にはよくわからないっす。≫
≪わからない?≫
≪はい。河野さんはいつも軽傷か無傷で帰ってくることが多いそうっす。でも、誰も気にしていないとか。これってかなり凄いことっすよね?≫
≪考えてみればそうですね。ということはこれは意外なダークホースとなるかもしれませんね。≫
≪さぁ、でも、俺にはこの勝負の行方はわからないっす。≫
≪そうですね。おっと、どうやら試合開始時間の様です。それでは、……レディィィィィ…ファイトッ!≫
カァァァァァァァンンン!!
両者は動き出さずに何かを話しているようだ。椿は気になるので聴覚を上げた。
「…いやー、おじさんには試合とかちょっとハード過ぎるね。」
「…」
「本当はBブロックで落ちるつもりだったんだけど、反射的に入江君から逃げていたらこうなっちゃってね。困ったもんだよ。」
「…」
「本当は棄権をしたいんだけど、この大会のルールで出来なくてねぇ、おじさん参っちゃったよ。」
「…」
「ねぇ、何で答えてくれないの?全く最近の若者は酷いなぁ。おじさんこう見えて繊細なんだよ?」
「…」
「まぁ、いいや、っと!」
会話?の途中で強襲する河野。だが、殴った後に山田を見失う。
「あ、あれれ~?」
何とも間抜けなおっさんだ。見ていて滑稽だ。
ドガッ
「うおっ!」
河野が急に前のめりに倒れた。そして、首筋には木で出来た小刀だった。
「いやぁ、参ったよ。実戦ではとうの昔に死んじゃってるねぇ。」
ひやりと冷や汗を掻きながらおどけた風に喋る河野。だが、この男の恐ろしいところは実戦の場の事なので、命の危険のない場所ではあまり運が発揮しないらしい。
≪終了~!!!!≫
五月蝿い実況が流れる。
「山田って、忍者みたい。というか、あれって視線誘導だよね。」
視線誘導とはまぁ、あれを思い浮かべたらいいよ。あの有名なカラフルな頭が沢山出てくる某バスケ漫画だよ。某幻さんがやってるやつね。近くに来たら視野が狭くなってその分死角に動きやすい。腰を低くしていればすぐに見失ってしまう。おまけにあの人は某幻さんの様に影が薄いから(まぁ、某幻さん程じゃないと思うけど)それも活かしている。ただ、観客から見たら何してんの?って感じだけど。対戦相手にとったら地獄だ。
「さて、次は私かな。」
椿は試合に満足して、靴を履きに行く。
********
柏木は唾をゴクリと密かに飲んだ。表面上は無表情で落ち着いている風を装っているが、実は対する椿の強者の雰囲気に押されていた。背中にはひやりとする嫌な汗を掻き、汗が一筋の線を描くとゾクゾクと怖気がする。だが、同時に武者震いもしていた。ここまでの強者と戦えること、久々に自分が挑戦を受ける立場に無くて挑戦する立場になったこと。挑戦者になったのは何十年ぶりだろうか?と考えるが大分昔の事なのでもうじじいの頭では思い出せない。自分は大分強いほうだと自負していたが、相手は若い娘だというのに自分よりも遥かな高みに居る。何ともあべこべな娘だ。と思った。
「しかし、私は挑戦者という立場になるのだろうな。」
「ん?そうだな。」
「何とも久しい感覚だ。」
「だろうな。」
「お主は戦闘となると口調が変わるのか?」
「戦闘を教えてくれた人が男だったからな。真似だ。それと、スイッチでもある。」
「まぁ、わからんこともない。」
でしょうね。今時日本では殺し合いは滅多に無かったりするが、それでも裏社会ではしょっちゅうという訳ではないが、表社会よりは断然多い。そして、この柏木の最盛期の時代はやっぱり現代よりも物騒だったのだろう。戦後だしな。それと、周りより血の匂いが濃い。最近殺人を犯したとかではなく、なんというか、人を殺したことのある人の匂いみたいなのが濃いってだけだ。まぁ、異世界基準では薄い方かな。
≪両者話合いをしていたようですが、話し終わったっぽいので、第5戦目を開始します!
レディィィィィ…ファイトッ!≫
カァァァァァァァンンン!!
柏木は玄人好みの戦い方を好みそうだ。なので、私は自然体のままずっと立っていた。相手もそれをわかっているのか表情をピクリとも動かさずに正眼に構えて立っている。そして、観戦者も物騒な社会に身を置く者なので、弱くともやっていることは何となくわかるらしい。誰もが野次を飛ばさず息を殺して魅入っていた。そして、柏木は椿の隙を見つけては戦々恐々としていた。というか、明らかな隙を作られていた。そして、椿は柏木が隙に気付いているのに何故か満足気だ。
「取り敢えず全力の一撃を出せ。」
「成程のぉ。相分かった。では、………」
柏木は力が一番のせられる上段の構えをし、
「参る!!!」
椿に向かって振り下ろした。常人であれば当たり所が悪ければ脳出血か何かで死亡出来るだろう威力がのせられた木刀が椿に向かって振り下ろされる。
椿は木刀で正面からピタリと打ち止めた。観戦者らはその光景に目を見開いた。大の男、しかも、毎日鍛えている男の全力の一振りを片手でしかも、難なく止めたことに驚愕と信じられないという感情があった。
しかし、現実は目の前にある。そして、誰もがそれを受け入れた。
「……悔しいのぅ。お主は本当に人間か?」
「人間だ。」
「まぁ、良いわい。それで、その強さの秘密を教えてくれと言ったら答えてくれるのか?」
「う~ん。まぁ、それは———」
次の瞬間自分の手の中にある木刀の重さが消えた。そして、
カラン
という子気味良い木の音がした。それは自分の手の中にあった程よい重さの木刀で、手には少々の痺れが残っていた。
「———試合終了後に、な。」
柏木は自分の喉元に突きつけられている木刀にひやりとする。もしこれが真剣だとしたら……。そう思うと相手は自分の想像の出来ない化け物だという事だ。そして、こいつの秘密とは聞きたいが聞きたくないとも思う。化け物級の奴の秘密など化け物級の秘密だということだ。
「はぁ、参った。」
柏木は両手を降参の意思を示すように挙げた。
≪し、試合終了~~~~!!!!!!≫
「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」」」
観戦していた者たちの興奮の声が響いた。




