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瞬殺された雑魚の剛田健夫は気絶したので運ばれて退場していった。柏木は剛田に一礼もせず退場していった。私はちょっと思っていたのと違う人物像に嫌な感じがした。人の好さそうな社長の部下とは思えなかった。あ、人の好さそうな社長って嫌味だから。
まぁ、それは置いといて。現在私は試合会場のど真ん中で入江直人もとい入江と対峙している。そして、鬼人の名に負けないほどの眼力で睨まれている。別に命の危険とかじゃないけど、お母さんに逆らえないみたいな妙なプレッシャーを感じる。普段は普通に歩いていたら優男みたいな顔をしているくせにこと戦闘になると急に雰囲気が変わりやがる。正直言って、異世界でのあいつに似ていてキモイ。特に豹変するところが。そいつは普段は明るいフレンドリーな良い奴なのに戦闘になると急にオネェ口調になって腰をクネクネさせるのだ。大して仲は良くはなかったけど、見ているだけで背筋がぞわぞわするので避けていたのだ。そして、入江もそいつと同じような匂いがする。
≪睨んでますねぇ。≫
≪そうっすね。≫
≪その眼光に物怖じしない町田さんも格好良いですね。こう、姐さんって呼びたくなります。≫
≪俺もっす。≫
やめろ!断固拒否する!
ちょっと危機感を覚えながら実況達の言葉に耳を向ける。
≪さて、このまま調子が悪くなければ町田さんの勝ちなような気がしますが…≫
≪えー、俺は入江さんが何か面白い事を起こしてくれそうな気がするっす。≫
≪むむむ。…で、では、両者に期待して……レディィィィィ…ファイトッ!≫
カァァァァァァァンンン!!
コングが鳴っても私達は動かなかった。私は瞬殺できるけどでも、それでは面白くないので全身の力を抜いて隙を全身につくって待ち構えていた。これは自惚れとかじゃなくて、私くらいのレベルになると隙をつくってもそれが隙になりえない。つまり、罠に見られてしまったりする。まぁ、実際罠だったりするし、隙かどうかわかるかの実験だったりする。それは解る人には侮りに見えてしまうけど。雰囲気を出すために雪子が風魔法で少し強めの風を起こす。(椿が頼んだ、そして、雪子は結構演出に関していい仕事をする)その風で私のおろしてある黒髪がサラサラと揺れる。それでも相手はこちらを睨むのをやめない。ピリピリとした緊張感の中私は戦闘するときの高揚感が薄れていっているのを感じた。この世界の人間は総じて弱すぎるのだ。さっきの予選の時は色々と期待してしまった高揚感があったけど、やっぱり強者の雰囲気みたいなのがない。もっと肌が張り詰めて風で切れそうになったり、周りの空気が急に重力を帯びたみたいな感じが全くない。まぁ、それは魔力が充満しているからだけどな。
………ちょっと、動くか。
相手は素手。手にテーピングみたいなのがつけられているけど、弱すぎる人間が強者を相手に挑む格好ではない。私は木刀を相手の足元に投げた。
「……何のつもりだ。」
「弱すぎる相手に武器をやったまで。私の木刀を拳で捌けないだろ?前の試合を見たけど、構えも拙い相手を殴ることしか芸がない。全部が拙すぎる。だから、私が見本になる。」
そう言って私は(勿論親切心で言った)構えた。相手から見て自分の腕の長さが解らないように。半身に構えて力を抜きスピードが出る構え。
「嘗めるな。」
「嘗めていない。お前が私を嘗めている。お前如きの雑魚が粋がるな。」
「挑発させようったって無駄だ。」
そんなつもりは全くねーよ!と雰囲気ぶち壊してでも言いたい。
「取り敢えず来い。」
「っち。わかったよ。」
そう言って入江は不本意そうに木刀を手に取り中段に構えた。なかなか様になっているここの道場に通っているのかな?まぁ、戦闘センスはまぁまぁあるから筋は良いってことなんだろうな。
「いくぞ。」
入江が前のめりになり突っ込んできた。それでも命のやりとりをしたことがないのか隙だらけで相手の命を取ろうとしていない奴の狙いだった。私は迫ってくる得物を拳でいなし、相手の態勢を空いている手で崩した。相手の向かう進行方向に軽く押してやればいとも簡単に転んだ。入江は転ぶ拍子に私に向かって木刀を投げてきたがそれをきゃっちして脳天に打ち込んでやった。
「負け、た。」
「得物を投げるのはいただけないが、まぁ、良しとしよう。一対一の時は投げてもいい、けど、多対一の時はやめとけ。」
「ご忠告どうも。」
「ねぇ、」
「何ですか。」
「料理って出来る?」
「出来ますが、それを条件に今度良いこと教えてあげるからうちの家においでよ。」
「は?」
「決まりだね。あ、油物とかじゃなくて普通の和食が食べたいからうちの家族の分もお願いね。じゃあ、よろしく。」
私は言いたいことを言って会場を後にしようとした。が、思い出したことがあったので振り返ってこういった。
「あ、私が勝ったから。」
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あまりに呆気なくそして、見事な勝利に全員がポカンとしていた。
特等席に座る桜組の幹部たちは椿を話題に談笑していた。
「あやつの素性はわかっとんのか?」
幹部の一人が調査から帰ってきた部下に聞いた。
「町田椿20歳。血液型は…いいですね。A市で極々平凡な一般人の両親の間に生まれた平凡な一般人です。中学の時に両親を事故で亡くし、その財産でこの間まで生活していたようです。高校まで順調に進み大学には進まず桜木組の金融会社に事務員として入社。と言った感じです。もっと調べたかったのですが、情報が入らず断念しました。あの戦闘能力についてですが、解りません。情報が手に入らなかったのもありますが、町田椿はどこかの道場、格闘技道場等に入っていませんでした。偶然を装って友人になろうとしましたが、何故かその偶然が起こらず、我々が戸惑っているところです。家に侵入しようと思いましたが、あのペットがいるせいで出来ませんでした。そして、ペットの出処も探しましたが、全くわからずじまい。それに、あのペットは私達以上に賢い。私達の会話を全て理解できているようです。一言で言いますとあの人たちは異常です。」
部下が終始申し訳なく報告をすると「もう下がれ」と上司から命令された。「御意」部下はそう言うと下がりその場から退散した。
「ペットねぇ。」
報告を聞いた幹部達はそのペット達を横目で見やった。今時というか、日本では殆ど飼うことが不可能な黒豹にリードも着けていないサル。これまた飼うことが殆ど不可能に近い狼。まず白い狼等取引き出来るものではない。あの町田椿とやらはその二匹を飼えている。これはハッキリ言って異常だ。そう、異常なのだ。人間並み、いやそれ以上の知能を持つ特定動物。あの中で地味に見えるニホンザルでもそうなのだ。まず、白い狼は絶滅危惧種だ。ペットなんぞにするには大勢の人間を敵にまわし、尚且つ日本に輸入させるだけでも世界でも有数の金持ちレベルの金がいる。もう既にここで可笑しい。次にあの黒豹は聞けば準絶滅危惧種らしい。つまり絶滅危惧種予備軍だ。白い狼同様の財力がいるし、伝手もいる。例え動物園と取り引き出来たとしてもそこでも金がいる。ニホンザルは普通に飼えると思うが、あんな知能のサルはまず難しいだろう。どこもかしこも金が要る案件なのにあのあの町田椿は平凡と言う。可笑しいだろう!食費もかかる、躾も必要だ。そんな財力と人脈と全てが足りないのにあの町田椿は可笑しい。化け物だ。おまけにあの戦闘力。頭がおかしくなりそうだ。なのに桜木組・組長もうちの組長も親し気だ。どこが平凡?どこが一般人の要素がある?さらにおまけするとうちの組長があの町田椿について詮索するなと言っていた。黒田のやつは「俺より強い気配がする。」と言っていた。それは町田椿に対しての言葉と思っていた。が、……全員だと!もう乾いた笑いしか出てこない。周りの部下たちは何故か受け入れている。俺も受け入れたら楽になるのだろうか……。
「……結論を言うと俺はうちの組長の言う通り詮索をこれ以上しないほうがいいと思う。それと、組長は何かわけを知っている風だった。俺はこの現実を受け入れようと思う。」
「何を言っている。あんなの数で押せば倒れる様な女ではないか。何をそんなに憶する?」
あぁ、こいつは幹部の中では馬鹿なやつだったな。周りはこいつは馬鹿かという冷たい視線を向けている。お前部下にそんな目線を送られて恥ずかしい奴め。
「いいか、あの女の周りは異常だらけだ、まずな————」
俺は懇々とそいつにその異常性を説いた。そして、話しているうちに受け入れようと考えた。寧ろその異常性を利用してやろうじゃないかとすら思っていた。
「わかった。」
周りはほっと息をついた。良かったと。こいつは馬鹿だが、究極の馬鹿ではない。考えはあまりしないが、こいつは理解力はある奴だった。ごちゃごちゃ考えずまず受け入れるやつだ。
「まぁ、そこまで気負うことはないだろう。逆に利用してやればいいじゃないか。」
「そうだな。そこまで強いのならば部下たちを鍛えてもらえるな。」
そうだそうだ。そうすればいいんだ。こいつも結構いい案を出すじゃないか。俺はうんうんと頷き安堵した。が、そうでない奴もやはりでるらしい。現実を受け入れられない奴が。
「……いや、駄目だ。」
「あの女は害だ。危険人物だ。まず、その異常性が脅威だ。政府が注目していないのがおかしい。俺は認めない。」
そう言って去っていった奴がいることを幹部たちは見ていなかった。金色の目を除いて。
確かに異常。そして、あらすじで調整された世界、と言っていましたが実際大雑把な神なので抜けているところが多々あります。




