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「ありがとう、その、一緒にゴロゴロする?」
怒ってないことに安堵した時の笑顔とは裏腹に声に出したその提案が才原を凍り付かせた。
「どうしてそうなる。」
顔をぴくぴくとさせながら聞き返す。仕事中であったり、力を行使する場面では表情だったり雰囲気を読み取る能力を十全に発揮させる椿は肝心なところで鈍感に成り下がる。
「え、だって、このモフモフ達と一緒にゴロゴロできるんだよ?やってみたらいいじゃん。私だってやってるし。」
どうやら、椿は才原が恥ずかしがっていると勘違いしているようだった。心の底からそんなことを微塵にも思っていないが、何故か一緒にやるかと思っている自分がいるのには驚く。
「はぁ~。」
溜息を吐きながら、ブレスレットを外す。流石にじじいとゴロゴロしたくはないだろうと思い、才原は一瞬で元の姿に戻る。
「どうしたの?こっちに来たら?」
そういって椿は自分のすぐそばをトントンと叩く。才原はもう何も言うまいと投げやりに叩いた場所に寝転がる。
「おぉー。」
「なんだ。」
寝転がった途端に不躾に人の顔に近付き、何故か声を上げる椿に才原は聞いた。
「格好良いね。」
「だろう。」
「うん。何か、日本男子って感じで好きだよ。向こうの人間ってばさ皆外国人みたいに彫りが深くて濃い顔でさ、イケメンでもそんなに惹かれなかったんだよね。うん。でも、才原の顔とか性格とか好きだよ。事故でも才原で良かったよ。」
さらりと殺し文句を無意識無自覚にぶちかましてくる椿。しかも、顔が凄く近い距離でぶちかましてくるので、才原はそのあまりの衝撃に一瞬トリップしかけた。
「近い。それと、無自覚に殺し文句を言うあたり、鈍感なのか?」
「殺し文句って何?言うだけで殺せるの?それって普通の魔法だね。」
全く見当違いのことを話している椿は放置して、久しぶりにゴロゴロしたなと思った。寝ると言ったら、普通に布団入って寝る。という行動しかとっていない。それと、会った時は何とも思っていなかったが、神に貰った薬を飲んだからなのか枯れていた恋愛回路のようなものが働いているような気がする。一度洋服を着て風俗に行ってみるか。いや、やめておこう。性欲が戻っているからと言ってそこら辺の女で済ますのはやめよう、何故か嫌だ。
「ごろごろ~。」
物思いに耽っていると、不意に変な声が聞こえたと思ったら懐にダメージと温かいがはいってきた。黒い髪の毛が目の前にあった。艶々していて、触りたくなるような髪の毛。その誘惑に抵抗することなく触ると柔らかい髪でさらさらしている。そして、自分よりも圧倒的に華奢な身体のくせして力は誰もが屈服する程の生物の壁を越えた化け物。なのに、いい匂いがして……抱きしめていた。
「ふへ?どしたの?」
その声にハッと我に返り、抱きしめていた手をそっと離す。自分のやってしまった行為と、突然蘇ってきた若いものが持つ欲と願望に才原はまた戸惑う。
「寒い。」
「まじで。じゃあ、空調変えるね。」
そう言って、また抱きしめようと思っていると椿はそんなの知らんとばかりに今度は精霊を部屋に解き放ち始めた。
「魔法じゃないのか?」
「この子達がいた方が楽。あと、世界全国に広める気はないから。それに、才原はちょっとばかし魔力が食われるよ。」
椿がそう言うとちょっとだけ身体が重くなったような気がした。
「結構食ったけど、全然平気そうだね。」
ふむふむ。と言いながら椿は才原の身体を嘗め回すように見る。いや、嘗め回すは気のせいか。失礼だし。すると、ある一点に椿の視線を感じる。何だ?と思い聞いてみる。
「どうした?」
「あのさ。」
「?」
至極真剣な表情で聞いてくるので、自分の身体に不具合でも見つかったのか?と思い不安になる。
「腹筋って割れてる?」
脱力した。あんな真剣な表情でそんな阿呆みたいな事を聞いてくるとは期待を裏切らない。
「割れては……いたかな?」
若干呆れを含ませて答えようとしたが、ブレスレットをしながら着替えたものだからわからない。けど、多分割れているだろう。薬を飲む前も割れていたんだから。ちょっと不安になりながら右手を袖から抜き服の中の腹を確かめるとバキバキに割れていた。
「あ、その安心した顔は割れていたね。いいなー。」
「お前も割れているだろう。」
「恥ずかしい話、割れていないんだよねこれが。」
そう言って恥ずかしそうに自分のお腹をポンッと叩く。それが冗談に言っているように思えないので、信じられない思いで話を聞いた。
「どうやら、見た目にあんまり影響しないらしいね。筋トレとか精力的にしかも、筋肉をつけたいと思ってたらつくらしいけど、どうやら私はつかない体質みたいでね。本当に詐欺みたいなんだよね。いっつも討伐とかのたんびに侮られて、誰かをフルボッコにしなきゃ何度か夜に襲われかけたよ。性的な意味で。」
それを聞いた時、心の底からこいつの力が化け物じみていて良かったと思った。
「そうか。」
「反応なし?」
「いや、返り討ちにしたんだろ?」
「そうだね。」
「なら、大丈夫だろう。」
確かにそうだが、もうちょっと反応してくれてもいいだろうと思ってしまうのだ。
すると、才原は起き上がり身だしなみを整えこっちを見てくる。
「立て。」
「え?」
「いいから、立て。」
さっきまで自分が立っていた全身鏡の前を指さす。大人しく立ち上がりそこに立つ。
「で?」
「ゴムを貸せ。」
「へ?」
「ん。」
手を出してくる才原にゴムを出す。どうやら才原は髪の毛を整えてくれるようだ。こいつ、女子力が私よりも高いな。ちょっとだけ悔しく思いながらじっとする。
「お前の髪。」
「ん?」
「さらさらで艶があるな。触ってて気持ちがいい。柔らかいしな。」
「そう?気にしたことないね。寝癖がつかないのがいいところだと思ってたよ。」
「お前な…。」
呆れながら「お前櫛持ってるか?」「あるよ。ほい。」アイテムボックスからだした櫛を才原に渡し、髪の毛を梳いてもらう。少し節くれだった細くて綺麗な武骨な指が時折うなじに触れるのがくすぐったくて「んっ。」となる。それと、優しくするので気持ちよくて、頭に鳥肌が立ってしょうがない。
「出来たぞ。」
「うおお。女子力高っ。」
鏡には高めの位置で三つ編みをしポニーテールの様に垂らされている髪形の私がいた。思わず呟いてしまうその技術の高さに口にしてしまう。
「行くぞ。」
棒立ちしている私の乱れた服もいつの間にか正されている。まじで女子力がたけぇ。しかも、今のこいつイケメンだから惚れてまうやないか。と、関西弁で思ってしまう。
「ふぁい。」
ブレスレットを着けた才原は一瞬で老人になり、柔らかく好々爺の様に笑う。不覚にもドキッとしてしまう。じじいなのに。
「今度、組の代表の奴らを呼んで隠居することを言う。」
結界は廊下に出ている時点で解いている。
「そうですか。」
敬語で対応し、私達は靴を取りに行くために離れに向かう。先程から見た目のわりに存在感の薄い雪子達であるが、わざとだったようだ。
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「私はここから履いていくから、玄関に行けば?」
「そうだな。雪子らはどうする。」
「お留守番に決まってるでしょう。権三郎から人化魔法を教えてもらって完璧に習得出来たらいいけど、出来ないしやらないでしょ?だから、ここでお留守番。まぁ、屋敷の中をうろちょろするんだったら……いいよね?」
「いいぞ。」
「だって。じゃあ、先に行ってるね。」
「あぁ」
椿はそう言うとサクサクと玄関方面に歩き出す。それを見送ると才原は溜息を吐く。
《あっけないな。》
《しょうがないだろう。》
《当たり前だ。今までの奴らはクズ以下の目をしていたのだからな。》
《そうだな。それには同意する。》
《あっさりと認めるのだな。》
《こればっかりはな。》
《ふん。》
雪子は才原の事を確認してからクロたちと去っていく。どうせ、この屋敷は雪子によって既に把握されているのだ。うろちょろしていればいい。
才原は雪子達の後を歩いて玄関に向かって行く。その途中で椿と出掛けることを組員達に言うと皆首を傾げるのだった。
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玄関では椿が待っており、少し高い玄関の床に座って足をプラプラさせていた。その姿に可愛いと思ってしまう。自分のセットした髪の毛を揺らしながら、野暮ったい伊達メガネが反射して表情はわかりづらいが、何となくいいなと思っている。
「行くぞ。」
「はい。」
いつもの敬語より少し弾んだ調子で返事をした椿と並んで少し遠い門の脇の扉をくぐって歩いていく。どうやら、つけている奴はいないようだ。
「何食う?」
「行ったら決める。」
「チュッパチャップス食べてみてよ。」
「虫歯が。」
「大丈夫。糖尿病も気にすんな。見たいだけだから。残りは私が舐める。」
「どんな趣味だ。」
どうやら、この格好の自分が飴を舐めたら面白そうだと思っているらしい。
「チキンが食いたい。あと、お菓子と、コンビニのくじが引きたい。あとね。」
「多いな。」
「だって、才原のおごりじゃん。余裕余裕。」
確かに。
「いいだろう。が、食えるのか?」
「いける。あ、あと、おにぎりと炭酸飲料。」
「デブの所業だな。」
「デブらない……と思う。」
「大丈夫だろう。一度だけ沢山食べても急に太りはしない。それと、運動があるだろう?」
「あ、本当だ。忘れてた。」
「…」
自分で提案しておきながら、忘れるとは。
「……次の休日はいつだ。」
「んー、普通に来週の日曜だね。で、どうしたの?どっかいくの?」
「お前の服を買ってやる。」
「なぁー。」
「なんだ。」
「ブレスレットとっていくの?」
「どっちがいい?」
「そこら辺の大型店舗でいいからさぁ。とっていかない?」
「どうするんだ?」
「家を出て、後をつけられていないんだったらどっか人気のないトイレかどっかに結界を張って待っとくから、そこでブレスレットを外したらいい。あと、服も着替えたらいい。」
「なるほど。」
「内緒のお出かけ。楽しみだねぇ。」
「お前の服は全部酷そうだ。」
「いやいや、才原が女子力高すぎ。」
「女子力じゃなく、普通だろう。椿が頓着しなさすぎるのだ。」
「うっそん。」
「最近の小学生の方が洒落ているぞ。」
「……、私小学生に負けてるのか。」
「そうだな。」
「辛辣ぅ。」
「だから、見立ててやると言っている。」
「あ。」
「どうした?」
立ち止まった椿を振り返る。
「ぐふふ。」
「何だその気持ち悪い笑い方は。」
いや、椿がやると不思議と可愛いな。これが惚れた弱みってやつか?恋は盲目というしな。
「いや、初デートだなぁ、と思って。」
才原の科白を無視して、感慨深げに言う。
「これは初デートじゃないのか?」
不思議そうな顔を傾げて問う。
「これは、デートじゃない。本人がそう思ってなかったらデートじゃないでしょう。」
「あやふやだな。」
「デートの定義って誰も解けないでしょ。異性と二人っきりで出かけるのをデートって言っちゃったら、皆デートしてるからね。」
「まぁな。」
プラプラとコンビニに向かって歩いているとコンビニが見えてきた。
「久しぶりだねぇ。チラッとは見かけてたけど、中には入らなかったんだよね。」
「そうか。」
コンビニに入ると懐かしいあの音楽が流れてくる。カゴを持って棚から気になったものをポンポコ入れようと意気揚々としていたのだが、懐かしむのが先に出てしまう。
「うわー、このお菓子懐かしい。このおにぎりもー。お茶も欲しいけど、ジュースも欲しい。」
あちこちに目移りし、見た目中学生の成人はポテポテと歩き回る。
「好きなものを買え。残ったら持って帰れ。食い残しは俺が食う。」
「おっとこまえー!じゃあ、ジャンジャン入れちゃう。」
そう言って、おにぎりコーナーから数種類のおにぎりを飲み物を二本。お菓子を沢山入れてレジに行く。その姿を好々爺の表情で才原は見つめる。惚れたのも確か。だが、微笑ましく愛しいのも本心。椿と会ってから自分の乾いた心がどんどん潤されていくのを感じる。
椿はレジに商品が沢山入ったカゴをドンっと置き、肉まん、コンビニチキン等を注文している。それを店員が驚愕の表情でせかせかと袋に詰めている。
「才原!」
「はいはい。」
微笑ましいものを見る様な目で才原はコンビニでは到底払わない様な金額になった会計を払う。店員の目は才原の財布に同情するような視線をよこしてくる。
「「「ありがとうございましたー。」」」
スーパーから帰ったような荷物を二人共持ちながらコンビニから出ると、店員が声を揃えて言ってくる。
「ありがとう。」
心底嬉しそうな顔をする椿は才原の目には毒だ。視線をさり気なく逸らし、「帰るぞ。」と声をかけ先を歩く。
当分イチャイチャ回が続くと思います。




