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ごめん。才原。これからも末永く宜しく。
心の中でそう呟きながら、縁側を片付ける。
それにしても
「気持ち悪い。」
悪意のない酒には異世界スペックは無力だ。
「頭痛い。なんで才原は平気そうなの?あいつすげぇな。」
一緒に潰れたはずの才原はケロッとしていた。酒に関しては何気に凄いのかもしれない。もしかしたら、酔っていたけど、ほろ酔いでしかも、二日酔いが襲わない体質なのか?
「尊敬するわー。」
生まれ持った体質は流石に変えられない。尊敬するしかないのである。
縁側を片付けると言っても、アイテムボックスにポンポン放り込んで置けばいいという話なので、5分もかからない。後は、久遠に縁側を掃除してもらうだけでとっても楽。
あ、あと二日酔いの薬ね。小瓶を取り出して一気に飲むと頭が冴え、二日酔いのムカムカも綺麗さっぱり消える。実はこの二日酔いの薬は私が生み出したもので、名前は『蜘蛛の糸』。何故そんな名前なのかというと、日本の昔話で蜘蛛が自分を助けてくれた男を天国から地獄に蜘蛛の糸を垂らして助ける話なんだけど、結局は蜘蛛の糸にその男以外の地獄の住人達が群がって蜘蛛の糸が切れて助からないバットエンド。それを、元に考えて付けた名前が『蜘蛛の糸』。地獄のような二日酔いから助け出してくれる。ということ。二日酔いの薬に付けるには壮大過ぎる様な気がするけど、酔い潰れた奴に渡して気分を聞くと「気持ちいい。」と、麻薬中毒者の様な危ない科白を吐いてくれた。要するに、人に寄りけりだな。
雪子達の朝御飯は誰にも見せられない。全員肉食な上に、食べるシーンはバイオレンス。一応焼いてあるけど、激レアだからね。血生臭い現場に慣れている冒険者でもその怖さに顔を白くするくらいだから、こっちでは流石に……ね?なので、先に食べてもらう。まぁ、最高5㎏でマリアでも700gは食うからな。時間はそれでも5分しかかからないので、直ぐに済むことだ。ガツガツ食べる民を横目で確認しながら、今日の服に着替える。今日は流石に私服で、ベージュのカラージーンズに白のTシャツの上に黒のパーカーという地味な出で立ちだ。昼休憩を挟んでする大会は社長が何やら用意してくれたようだ。何かな?そして、『蜘蛛の糸』飲んでも精神的にはどよんと沈んでいる。なので、気分転換に強度抜群の野暮ったい伊達メガネをかける。たまには違う格好もしてみるもんだね。何か、楽しいぜ。それより、そろそろ朝食の準備が終わったころかな?
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昨日と同じ襖に手をかける。中にはちらほらと集まっている。私の後ろでは忙しなくせかせかと朝から動き回るムサイ男達。(だけど、臭くない。そして、規則正しい生活を送る真面目な人達だ。)この大部屋の出入りが激しい。多分朝御飯の用意だろう。中に入りながらそう考える。今日も雪子達を連れているので、昨日と同じ端の席に座る。じっとして待っていると、隣に誰かが座った気配がしてちらりと見る。私は隣に座った人に驚いた。気配察知と魔力察知は当然やめている。安全圏で凡人気分を味わおうと思ったのだ。それが、裏目に出るとは。
「よう、おはようさん。」
《さっき会ったがな。》
「おはようございます。」
《敬語がめんどい。》
隣に座った老人姿の才原が挨拶をしてきたので、上辺だけの挨拶をした。念話での会話は何とも締まりのないものだが。でも、なんでこっちに座ったの?あの上座に座らないの?念話でプチ質問攻めにする。
《質問攻めにするな。五月蝿い。》
《さっさと答えろじじい。》
《ぴちぴちの若造になっただろうが。》
《生きた年月は変わらねえ。そして、早く言え。》
《気分だ。》
《えー。じゃあ、あそこに用意されている食事は誰が食べるの。》
《孫だ。》
《まじで。》
《まじだ。で、早朝の事を機に隠居する。》
《やっぱじじいじゃねぇかよ。》
《正体がバレると困るのはお前だろ。》
《そうでした。》
素直に認めると、生で鼻で笑われた。「ふん。」て。見た目じじいで声もじじいだが、念話での会話では若い才原の声だった。
《じゃあ、隠居したら次は死亡しなきゃね。そんで、結婚しちゃう?》
念話で軽い話題として聞いたのだが、才原は結婚という話題に隣で「ゲフンゲフン!」と激しく咽ている。なんでだ。その後も適当に天気の話やら、ここ三年の世界事情を聞いていた。どうやら、大して問題は起きていないようだ。政治の話をしようとした才原だったが、政治はもう懲り懲りなので慌てて止め、椿が死ぬような年になったら、太平洋に適当に島でも作って暮らそうという話に終わった。お、キリのいいところでお孫さんが来たようですぜ。
「遅かったな。腹が減った。」
あ、そういえば二日酔い大丈夫だったかな。平気そうだったけど、一応聞いておくか。
《二日酔い大丈夫?》
《大丈夫だ。》
《二日酔いの薬があるよ。ちょっとでも頭が痛いなら飲んどけば?》
《貰おう。》
痩せ我慢だったようだ。ちょっとほっとした。
「二日酔いの薬要りますか?」
「おお、助かるよ。」
「どうぞ。」
私達は要らない様で要る猿芝居をして、ポケットからドラッグストアに売っているような二日酔いの瓶を取り出した。それは、適当にかけた幻覚魔法なので詳細の部分は適当に書いてある。
「ゲフッゲフッ!」
主にドッキリを意識して。一気に飲んだ才原がその効果に不思議になり、詳細を読むと【因みにこれは椿が生み出した『蜘蛛の糸』という二日酔いの薬です。うんたらかんたら】うんたらかんたらの部分は、蜘蛛の糸の由来の事が書いてあったりする。
突然咳き込みだす才原に周囲が心配の視線を向けてくる。声をかけてこないのは即座に才原が大丈夫と手を突き出しているからだ。才原ナイス。
《おい。なんてもん飲ませやがる。》
《え、気持ちかったでしょ?気分が良くなったでしょ?》
《ヤクの中毒者みたいな事を言うな。》
《え、エクスタシーとかそんなのが良かった?》
《まんまじゃねぇかよ!》
絶頂は流石にちょっと違うかなと思うけど。
「大体の奴は席に着いたな。遅れた奴は知らん。手を合わせて。」
各々手を合わせる。音は鳴らさないのね。
「いただきます。」
「「「「いただきます。」」」」
皆、音を色々抑えてくれて助かる。私らは耳が良すぎるから、五月蝿いとたまらんからな。その点、急に上がった聴覚に才原がさっきの音で少々戸惑っているようだが。まぁ、段々と段階を踏んで性能が上がっていった私と、急に上がった才原じゃ慣れるのは大変だと思うよ。そんなことを考えながら、美味しいご飯を食べていく。皆静かにご飯を食べる中、念話で才原にまた色々と話を聞く。(というよりかは質問攻め)
《ねぇ、いつもこんななの?》
《いや、お前らが泊まりに来たからだろう。》
《修学旅行か。》
《まぁ、思わなくもない。》
いや、あんたに同意を貰ってもな。時代が違うだろうし、まずないだろう。多分。
《あと、阿呆が多そうな割にいないよね。》
《そういうやつは、わざと遅れさしている。うちの問題児は…いや、なんでもない。》
《嫁に隠し事とは何事だ。》
《嫁って……。》
何か言いたそうな雰囲気を出すが、そこは無視をする。事実だろうが。
朝御飯を食べ終わった後は、社長が「道場に10時30分までに予選の表を出す。説明もその時に聞いてくれ。野次は試合の邪魔をしなければ居てもいい。以上。」お前は鬼か。てか、昼どうすんの?コンビニ食が何故か既に恋しい。あ、才原と一緒に行こうかな?
《才原ー。》
《………なんだ。》
《コンビニに後で一緒に行こうぜ。》
《いいが、車に乗らないと地味に遠いぞ。》
《いや、その身体の性能を確かめてみるといいよ。私なんか毎朝富士山を一番危ないところから散歩しても全然平気なんだよ?》
《……見つかるなよ。》
《楽しみなよ。》
《それは、楽しんでいると言っていいのか疑わしいな。》
《まぁ、いいや。取り敢えず、洋服か和服かどっちで行くの?》
《いや、このままで行く。》
「え、まじで。」
思わず素で答えてしまった。小声だったのがよかった。
《おい。》
《ごめーん。》
私達は現在人気のないこの屋敷の真のプライベートゾーンに向かっている。食事後に才原の部屋にお邪魔させて貰うことにしたのだ。それでも誰が聞いているのかわからないので、こうして念話で話していた訳だが、傍から見たら屋敷の主人が客人を案内しているようにしか見えないわけで、急に喋りだした椿は勿論その喋る内容も充分怪しいのだ。それを、昨晩に初めて念話を使用し始めた才原に注意をされたのだ。順応能力が少々高すぎる気がする。そう思う椿であった。
「ここだ。」
「失礼します。」
部屋に椿一行が入るなり即座に防音結界とオリジナル結界魔法を張る。オリジナルの方は部屋に近づいた物に怪しくない程度に話し声と物音が少々聞こえる程度にしている。しかも、椿と才原の声を見事に再現し、尚且つ微妙に話の内容が聞こえないという仕様になっている。我ながら素晴らしいな。
「ふぅー。」
「お前といると冷や冷やするな。」
「で、何しに来たんだっけ?」
部屋に入るなりベタっと座った椿がそう聞くと才原は呆れたような顔をした。
「お前が部屋を見たいと言ったんだろうが。それと、出かける用意だろうが。」
「お金は出してね。金銭的に余裕は私にない。」
「開き直るな。馬鹿者。」
《事実を言っているだけではないか。男の甲斐性を見せんか。》
雪子が主の椿を擁護するが、ちょっと無理矢理な気がする椿。
「取り敢えず、本当に金銭的に余裕はないし、目の前で金銭的に余裕がないか弱そうな女の子をほっとくヤクザの親玉って…」
「もういい。わかったから。それとお前はか弱くないだろう。」
「か弱そうって言ったじゃん。」
「地味の間違いだろう。その格好はなんだ。じじいの俺でも流石に酷いと思うぞ。」
「これでいいの。目立つのはもう懲り懲り。村人Zくらいの気分でいたいの。」
「Zは末端の末端だな。」
「Aよりは目立たない。」
「どうして目立つのが嫌なのかは大体想像ができるな。」
「多分思っているのと違う。英雄とかじゃなくて、畏怖とか恐怖の象徴とかだよ。一回、全力で隠密をしながら住宅街を歩いていたら『こら!悪いことをしたら”幽鬼女”が殺しに来るよ!』って子供に言うことを聞かせる材料とされていたんだから。」
その時の母親だろう人物の真似をしながら椿は全力で寝転がる。雪子達も寝転がっているので密集してちょっかいをだす。
「それは、ご愁傷さまだな。だが、俺と大して変わらねぇんじゃねぇか?俺もヤクザっていう生業だからな。それなりに恐れられているんだよ。」
「ごめんなさい。」
ゴロゴロするのに邪魔だったのだろう、いつの間にか髪の毛をほどいていた椿が真下から見上げながら素直に謝ってきた。色々とクる椿の行動に才原は静かに戸惑っていた。
「怒った?ごめんなさい。嫌いにならないで。」
「怒ってはいないが……。」
戸惑っている才原を怒っていると勘違いした椿が上体だけ起こして上目遣いに言ってきた。すぐさまそれを否定すると、椿は頬を染めて「よかった…」と心底安心したように笑った。才原はその笑顔に少々気恥しいものを覚える。




