28
ハッハッハッハッと、従魔達の乱れた息遣いが大きく聞こえる。
「酔ってもさいきょー!!」
私は夜中の修行を行っていた。そして、先程終了した。
雪子達はさっさと寝たいのか息を乱しながらも久遠に身体を綺麗にしてもらって部屋に入っていった。
多分寝るんだろうな。
「お疲れ。」
「おう。」
「お前に言っとらん。雪子達に言っておる。」
《うーん。疲れたー。》
マリアがそれに答えるように言いながら部屋に入っていった。耳を部屋に向けると、バタバタ、と倒れる音がした。うん、ごめん。
私は心の中で謝り、庭を土魔法で直し、結界を解いた。
「疲れたー。」
「息も乱しておらんくせにな。」
「本当だって、それと、いい汗かいた後はやっぱ酒かな。」
椿はそういうと先程の縁側に座り久遠に身体を綺麗にしてもらった。
「異世界の酒を飲みたいと思わないの?」
「出せ。全部出せ。」
「お、ノリがいいね。おらよっと。」
ガチャガチャと樽から小瓶までのサイズの酒を大量に出すと「好きに飲もう!」と叫び、才原と日付が変わっても飲み交わしていた。
一本だけ酒じゃない物を忘れながら。
********
「うう、ん。」
目が覚めると朝になっていた。頭がガンガンする。昨夜は飲み過ぎたな。
上体を起こすと、どうやら縁側で眠っていたようだ。
才原と飲んでいたのを思い出し、横を見るとそこにはサラサラの黒髪を太陽に照らされながら眠るハンサム和服男子がいた。
「ん?幻覚か?ねぇ、マリア……」
いや、マリアは昨日修行をして、そのまま寝に行ったのでそんなことをせずとも良いし、悪戯もまずしない。
「夢か。寝よ。」
もう一度寝て、起きるが横のハンサムさんは起きない。いや、今どき風に言うとイケメンか。
………
「えええええええ!!!!」
イケメンがその大声に身じろぎをする。
椿は慌てて認識阻害と防音の結界を離れに張る。
「さ、才原?おおおおおお起きて!」
絶妙な力加減をしながらゆっさゆっさと揺さぶる。
起きねぇ!こいつ、起きねぇ!
「起きろよ!このクソ爺!」
椿は段々イライラし、才原と思しきイケメンにまたがり胸倉を掴み、前後左右に揺さぶる。そして、比例して吐く言葉が汚くなっていく。
「う…ぇ」
「あ”ぁ!」
「うるせぇ!つってんだよ!」
顔とは裏腹にドスをきかせた声で瞬時に起きて叫ぶ才原。
「お前!鏡見ろ!イケメンだぞ!お前、才原か!」
「何言ってやがる。俺はもともとイケメンだ!」
「若返っているって言ってんだよ!脳みそは枯れてんのか!」
「何言って、や、がる。」
冷静になっていく才原を見て、椿も冷静になり手鏡をアイテムボックスから取り出し、才原に突きつける。
「おい、椿。昨夜に何か混ぜたか。」
「はぁ?混ぜてるわけ……ちょっと待ってて。」
椿はハッとし、心当たりがあるのか少し焦りながら飲み散らかした空き瓶を次々と仕舞っていく。そして、その作業の途中で動きがとまる。
才原はやっぱりといった風に呆れて聞いた。
「一日だけ若返るとかの薬か?異世界だからあっても不思議はねぇな。」
「…」
「じゃあ、半日か?」
「…」
「一週間か?」
「…」
「おい、もしかして、やばい薬なのか?」
「…違います。」
急に敬語になる椿に才原は嫌な予感がした。
「あの、実はこれは」
「早く言え。怖い。」
「か、神様が、私の将来の旦那さんに渡しなさいって。」
「中身の説明は聞いているんだろうな。」
「うん。」
「…」
恐ろしくて続きを促せない。
それでも椿は言っちゃう。
「私、じゅ、寿命がないのね。とある事情で。それで、一生を添い遂げる人が先に死んじゃうと可哀そうだから、神様が迷惑をかけたお詫びにってくれたんだよね。あはははは。」
乾いた笑いしかでてこない。恐る恐る才原を見ると、顔を引きつらせていた。
「なんてもんを飲ませてんだ。」
「た、多分。お酒に紛れちゃったんだと思う。」
「…」
無言が恐ろしい。
「えへ。今後も宜しく?」
「はぁ~。」
ドキドキしながらおちゃらける椿に才原は怒るだけ無駄だと思い直し、これからどうしようかと考えた。
「……、まぁ宜しくだな。それで、どうする?」
落ち着きを取り戻した才原に対して椿は申し訳なさからオドオドして正面に座りなおした。
「貰ってください。」
そう言って椿は土下座した。
「はぁ~。」
才原は溜息を吐き、貰ってやるかと諦めていた。
********
「貰ってやる。けど、」
「けど?」
「この格好はなぁ。」
才原はそう言って自分の体を見下ろし、頬を両手でつまむ。
「?」
訳がわからない。
首を傾げる椿に才原は説明する。
「昨日まで爺だった奴が、次の日ぴちぴちのイケメンだぞ。」
「あっ。そうか。なるへそ。うん。大丈夫。」
才原の説明に納得した椿は何故か大丈夫と言う。
今度は才原が首を傾げる番だった。
サラリとキューティクルが凄そうな黒髪が流れる。
「そ、その、アーティファクトっていうまぁ、魔道具があるんだよ。それを作ればいい話なんだよね。あと、マリアがずっと張り付いているか、才原が幻覚魔法を習得したらいい。」
その艶やかな仕草にどもりながら答える。
「習得するにはどのくらいの期間がかかる。」
それには気付いていない才原は苦虫を嚙み潰したような顔をして聞く。
「一年で習得出来たら天才だね。」
「魔道具はどれくらいで出来る。」
「魔道具は今すぐ作れる。」
「じゃあ、作れ。」
「え、マリアは?」
「論外だ。」
「えー。」
「早く。」
語気を強めて才原が言う。本当に早くしてほしいのだろう。
「わかったよう。あ、指輪と腕輪とネックレスどれがいい?」
「指輪は外れないのか?」
「外れないけど、普段着物を着てるんなら合わない。だから、腕輪かネックレスをおすすめする。」
「最初からそう言え。で、どんなのがある?」
「もう出すね。めんどいわ。」
そう言って、雑にアイテムボックスから魔石で出来たものや、魔石が、はめ込まれている物が沢山出てきた。縁側にちょっとした小山ができた。
「五月蝿く出すな。気付かれたらどうする。」
「大丈夫だって。昨夜と同じ結界を張ったから。」
「それを先に言え。馬鹿者。」
「嫁に向かってなんちゅうことを……」
才原は椿の呟きを無視して、ガチャガチャと小山を漁る。やがて、動きがとまり、決まったようだ。
「どれにしたの?」
「これだ。」
「あー、やっぱり。」
「最初からこれを出せば良かったんだよ。」
「へいへい。すみませんでした。」
へこへことわざとらしく、反省の意が皆無な態度でアイテムボックスに残りを仕舞っていく。
「はい、貸して。」
「おう。」
才原の手から受け取ると椿はアイテムボックスから今度は幾何学模様な魔方陣らしきものが書かれた羊皮紙を取り出した。それを床に置くとその上に受け取ったものを置き、魔力を流した。魔方陣が青い綺麗な光を放ち、その上にのっている物は青い炎に包まれていく。椿の身体から青い炎のような光が段々と漏れだし、それが燃えている様に見える物に注ぎ込まれている。
その美しい光景を才原はじっと見ていた。
やがて、光は弱まっていき遂には消え、燃えていた物、数珠の様なブレスレットの玉はさっきまで真っ黒だったのが、少し青い光沢がかかっていた。
美しい。ただそれだけだった。先程までふざけていた人物とは同一人物とは思えないほどに椿は美しかった。
「ありがとう。」
「いんや、こっちこそごめん。私のことを何とも想ってないだろうけど、何か困った事があったら念話の時みたいに強く願って。そのブレスレットには念話と幻覚魔法を組み込んで置いたから。いつでも話せるよ。で、ミサイルでも壊れないからお風呂に持って入ってもOKだよ。」
「わかった。世話になる。」
早速ブレスレットを着けた才原は光輝くという演出はなしに、瞬きの間に姿が昨夜の姿に戻っていた。
「どう?」
「身体の調子は頗るいい。寧ろ、かつてないほどに力が漲っている。それと、感触まで再現できるんだな。」
「いえす。あと、どのくらいの力かわからないから、物を壊さないでね。気を付けて。」
「わかっている。なんせ、神様からの頂き物だからな。」
「う、うん?そうだね。」
「なんだ?」
神様からの頂き物というのに納得していない椿に才原は少し不思議になる。
「何でもない。それより、さっさと自室に帰った方がいいんじゃない?奥さん?あれ?うん、家族?が慌てる?よ?」
いまだに家族構成を知らない椿は?を沢山出しながら言う。
「俺に妻はもういない。それに、血の繋がった息子と孫もいない。あいつらは養子だ。」
「そうなの。」
「じゃあ、もう行く。朝飯時に会おう。」
「おうよ。またね。」
才原が昨日とは違い、魔力と生命力に満ち溢れている。軽い足取りで自室に帰る才原を見送る。
いや、神様っていうイメージ壊すようで悪いけど、その小瓶を渡されたときに土下座されながら渡されたから。私、神様に土下座されるんだよ?そして、その小瓶の中身は————。




