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仕事が終わったので社長室に向かえばいいのだろうが、訪問予定の本人はトイレ以外私に張り付いていて荷物を取りに行くだけとなった。私に社長室に来いって言う必要なかったよね?もしかして、女子トイレの掃除してた時に誰かと電話してんなと思ってたけど、あれって側近の人に電話してたよね?結構思い付きで言ってたりするのか?


「社長、どこの会社で契約しますか?」

「俺の携帯会社と一緒だ。あと、契約はもう済んでいる。あとは受け取りに行くだけだ。」

「え、もうですか?あ、お金ってどうしたらいいですか?」

「金は要らん。」

「で、社長と私は携帯を受け取りに行ったらそのまま直帰ですよね?」

「いや、飯を食いに行くぞ。」

「はぁ?」

「どこがいい?」


有無を言わさぬ態度だな。まぁ、いいか、付き合ってやんよ。


「じゃあ、焼き肉屋で。」

「遠慮しないんだな。」

「貰えるものは貰う主義なので。例外はあまり高価なものは受け取れないだけです。」


焼き肉屋と言ってもどこに連れていかれるのかわかんねぇな。あと、携帯ってガラケーかな?スマホかな?流石に携帯の料金は気になる。異世界の通貨も当てにならないし。何であんなに必死に稼いでいたんだろう?こっちでは絶対に稼げないからか?いや、面白いくらいに貯まるからだと思う。でも、労働力に見合わない報酬って結局要らないよな。あ、因みに社長は今どっかの焼き肉屋に電話してる。どこだろうな。って、タクシー止めるの!?要らなくね!?


「あの、タクシー乗りません。」

「あ?お前2駅も向こうの焼き肉屋に行くのかよ。徒歩で?」


余裕ですが?何なら社長をお姫様抱っこして連れて行って差し上げましょうか?って言いたいなぁ~。


「そうですね。時間がないですもんね。乗りましょう。」

「ここも払う。」

「わかりました。」


ちっ、隙がねぇな。この坊ちゃん。


「〇×駅の『ゆかり』までお願いします。」


社長がそう言うとタクシーの御爺ちゃんは「はーい。」とちょっと可愛い返事をしてタクシーを発進させた。


ん?あれ?携帯会社は?あれ?もしかして、焼き肉屋で誰かが持っていたり?


********




「2640円です。ありがとうございましたー。」


あれだな、釣りは要らんとか言うんかと思ったけど、言わなかったな。まぁ、急いでもないしめっちゃ金持ちって訳でもないもんな。


「行くぞ。」

「はい。」


なんだかな。この人何がしたいんだろう。人のその時その時の体の状態は感じれるけど、人の感情には疎いんだよね。困ったな。もしかして、友達になりたいとかか?社長の後ろをついていくと暖簾に平仮名でゆかりと右から書かれたのが見えた。う~ん、美味そうだな。この匂い。それにしてもやくざ御用達の焼き肉屋とか物騒な店だな。探知で見ればキッチンに銃があるし。まぁ、ここで銃撃戦はやっても私が全部取っちゃうから意味ないんだけどね。


「いらっしゃい。」

「おー!若いらっしゃいませ!」

「久しぶりだな。」


最初に挨拶をしたのは美魔女という言葉が似合う着物美人。口元の黒子がエロイね。次に挨拶をしたのは、美魔女の旦那さん。ここでは大将だね。だって服に大将ってデッカくプリントされとるからな。よっぽど呼ばれたかったんだろう。角切りの頭にハチマキをした優し気な人だ。


「あら?そちらの子は?若、ご紹介してくださいな。」

「昨日からうちで雇っている町田椿だ。」

「初めまして、町田椿と申します。」


私が頭を下げると「頭を上げてください。」と美声で言われた。なんだ、えろいな。


「偉い可愛いお嬢さんやね。色白で髪の毛が黒くて艶々。羨ましいわ。」

「おい、椿こっちだ。」

「はい。」


私は、女将さんの色気を振り切って席に着いた。この店ちょっと可笑しいというか。完全予約制なうえに、テーブルが一つしかねえ。


「お絞りどうぞ。」

「ありがとうございます。」


ドキドキする。ううう、クロと食べたい。


「今日もまかせる。あと、ビール。」

「はい。承りました。」

「お前、何か食べたいの無いのか?」

「へ?私ですか?じゃあ、塩タンとミノを二人前ずつ。その他部位も二人前づつで、あと白ご飯を。あ、エーじゃなくて、ビール。」

「お前、食うな?」

「はい、燃費が最近悪くて。」

「最近?」


しょうがないだろ!魔法とか使い始めたらなんか私は魔力が増えるたびに食事も増えるというわけわからん体質になってんだよ!おかげで食費が………。異世界から持ってきたやつがまだあるから助かってるけど、いつなくなるかわかったもんじゃないからな。毎日ドキドキだ。


「そんなことより、どうして御飯誘ってくれたんですか?」

「何となくだ。」


もしかして、友達がいないからとか?


「決して友達がいないとかじゃないぞ。」


何故バレた。


「お前はなんか真面目な顔してるけど、阿呆さが滲み出てんだよ。」

「そうですか。」

「それも素じゃないんだろ?」

「当り前じゃないですか。」

「俺が素を曝け出したんだから、お前も素をだせ。」

「無理です。」

「どうしてだ?」

「素は家族にしか出しません。」

「お前家族いないだろ。」

「います。」

「いや、親は高校生になったときに二人とも事故で死亡。一人っ子だから生涯孤独の身だろ?祖父母も既に他界してるしな。」

「ですが、家族はいます。」

「ペットも飼っていないだろう?もしかして、空想とかか?」

「強いて言うならば、公にできない家族ですかね。それと、今は言うつもりはありませんが私の信頼を得れたら教えてあげられますよ?」

「その上から目線ムカつくな。」

「そうですか。」


私の家族とは勿論従魔達のことだ。私の従魔は計5匹いる。一匹はスライムの久遠。二匹は黒狼のクロ。三匹は始祖龍の権三郎だ。雄だよ。今後もでなさそうだからね。現代社会で始祖龍は要らないよ。まぁ、会話ができるやつだからいつか呼ぶかもな。え?ドラゴンスーツのこと?それは自我のない龍だから問題ない。寧ろ戦っている最中に後ろで見守ってくれていたからな。あと二匹については今後のお楽しみにだな。


「お待たせしました。塩タンとバラとうちの自家製だれに漬けたカルビです。」

「………美味そう。」

ボソリ

「ん?なんか言ったか?」

「美味しそうだと言ったんですよ。」

「そうか。」


塩タンは分厚く切ってあってめっちゃ美味そうだ。バラも自家製だれも美味そうだ。あれは高すぎない肉だな。気が楽だ。


「はいビール。」


女将さんが格好良くジョッキ大で持ってきてくれた。わかってるな女将さん。


「乾杯。」

「乾杯。」


ジョッキをぶつけ合った後社長は少し飲んで置いた。私はそのまま一息に全部飲んだ。一滴もこぼさずに。異世界の酒場で情報を集める方法はこれくらいしかなかったんだよな。でないと、皆認めてくれないから。結構厳しかったんだよな。でも、一息に飲むのは気持ちかったがな。


「ふーっ。」

「凄いわあ。」

「嬢ちゃんやるなぁー。」

「お前、酔ってるのか?」

「酔ってませんよ。こんなので酔ってちゃあと3樽は飲めません。」

「たる?」

「何でもないです。」


周りが目を見開いてこっちを見ている。


「お前、その年で飲みなれてるな。」

「必要だったんです。」

「そうか。」


多分違う方向で勘違いしてるけど、まぁいいか。いつか教えそうな気がするし。


「いただきます。」

「いただきます。」


塩タンを一口で食べると私は昇天した。日本に帰ってきた気がやっとしたからだ。魔物でもなんでもない肉を久々に食べた気がする。


「牛、豚、鶏。日本だ。」

「だろうな。」

「やっと日本に帰ってきたって感じがします。」

「お前パスポート持ってないくせに何言ってんだ?」

「パスポートがあってもなくても行けないくらいに遠い国です。ブラジルより遠いんです。」

「そうか。それはどこにあるんだろうな。」

「どこでしょうか?私も知りません。」

「そうか。やっぱりたれが美味いな。」

「白飯久々だ。」


私はただの焼肉なのに泣きそうだった。あの地獄から平和なところに帰ってこれたのだから。


********



バキッ



「あ。折れた。」


30分経っても飲み食いしているととうとう私の使っていた箸が握力に耐えれず折れた。それでも耐えたのだからなかなかの耐久度だ。


「すみません。今度からはこの箸で食べます。」

「ええ!」


私は少し酔っていたのだろう懐から龍の骨で作った真っ白な箸を取り出した。


「綺麗な箸ね。それ何の材料なの?」

「聞かないほうがいいですよ?」

「大丈夫よ。教えて頂戴。」

「骨です。」


肉の焼ける音がジュウジュウと聞こえる。あとは何の音も聞こえない。


「そうですね。特別に教えて差し上げます。」

「おい、お前酔ってんだろ。」

「少し酔ってますけど、記憶は残るくらいの酔いですから正気です。で、何の骨かというと」


ゴクリ


誰かが生唾を飲んだ。


「言えません。ですが、耐久性は抜群です。ダイヤモンドより固く例え核ミサイルに滅多打ちにされても折れることはないでしょう。牛の骨でも豚の骨でもましてや人間の骨でもありません。これだけです。」

「何の骨だよ。何か嘘っぽいけどな。」

「私の信頼を勝ち取るか、私と一生を添い遂げる人にしか教えません。」

「そうか。信頼を勝ち取って教えてもらいてぇな。」

「因みにこのドラ、……スーツと靴もこの箸の材料と同じです。これは皮と毛で出来ています。肉は家で保存中です。」

「お前それ妄想だろ。」

「いえ、まことです。」


また、肉の焼ける音のみが聞こえる。すると、我に返った女将さんが私に話しかけてくれた。


「まぁまぁ、凄い材料なのね。私にもいつか教えてね?」

「はい、いいですよ。いつか教えて差し上げます。」

「ふふ、頑張るわぁ。」

「次回来店したときにその肉を持ってきます。うちでは美味しく焼けそうにないですからね。」

「楽しみだわぁ。」


本当は今すぐこの場に出せるがな。アイテムボックスに大量に死蔵してあるからな。お祝い事じゃないと出さないことにしているんだ。大将もちょっとうきうきしてんな。


「俺も気になるが、食べれるのか?」

「いいですよ。死蔵してますんで。」

「そんなになのか?」

「多分国家間で戦争が起きます。」

「ははは………嘘だな。」

「あげませんからね。起こりようもないですよ。」

「嘘と思いたいところがお前のその顔が嘘じゃないんだよな。」

「よくわかりますね。私は必要じゃない嘘はつきません。」

「憶えておく。」

「それより携帯は?」

「あぁ、大将あるんだろ?」

「山本から預かってますよ。」

「山本!!」


つい条件反射で反応してしまった。うちの方が格好良かったんだからな。


「お前山本になんかあんのか?」

「家族が山本だったんです。」

「だった?」


女将さんが紙袋を持ってきてくれた。


「どうぞ。」

「おお!初めての携帯です!ありがとうございます!」

「………おう。」


社長はそっぽを向いて返事をした。どうした?腹が痛いのか?ってか社長は既に食べ終わってんだろ。


「スマホですか。ハイカラですね。」

「ぶっ!」


どこに笑う要素があるんだ?


「おまっ、ハイカラって、クク、いつの時代の奴だよ!」


社長は店内に凄く響く位に笑ってるけど何にも面白くはないぞ?ハイカラって普通だろうが。


「そうよ。椿ちゃんそこはハイテクでしょ?」

「ははは!ゆかりさんも違うわ!はははは!」


私と女将のゆかりさんは社長に馬鹿にされてしまった。指をさすな指を。折るぞこの野郎。あ、ひっこめた。


「酷いです。」

「そうよ。女の子に向かって指を指さないで下さいな。」

「ククク、わ、悪かったって。すまん。」

「いいですよ。」

「だから」


なんだ?


「特別に俺を修と呼んでもいいぞ。」


はぁ!?こいつ馬鹿!?


「この店で一番高いお肉と、お酒を全部持ってきてください。」

「えぇ、でも椿ちゃん?まだ食べれるの?大丈夫?」

「食べれます。」


マジの余裕だ。


「じゃあ持ってくるわね。」

「はい。目にもの見せてやります。」

「おい。どんな酒かわかってんのか?」

「いえ、でも酔わないので大丈夫です。」


ちょっと酔っちゃうかもね。


********


『魔王』


「すんげー名前だな。」

「知らなかったんですか?」

「いや、出してくれなかっただけだ。」

「そうですか。」

「お前信頼はされてんぞ。よかったな。」

「信頼よりも、友人が欲しいです。」

「…」

「…」

「…」


いや、女将さんも沈黙しないでいただけます?


「椿ちゃん、アドレス交換しましょう。」

「ゆかりさん俺のも入れといて。その予定だったから。」


勝手に進めんね。


「女将さん、何を喋るんですか?」

「それこそ、どんな芸能人が好きだとかどんな音楽が好きだとか色んな話よ。電話でいいのよ?だって電話代は社長さんに払ってもらうんでしょ?好きにしなさい。」

「そうだ。それと、ゆかりさんに電話するより俺に朝と夜の挨拶のメールを毎日送れよ?」

「どうしてですか?」

「それが友人の基本だ。」

「女将さんにはしないのに?」

「そうだ。」

「わかりました。」

「あと」


なんだよ。今日はやけにぶっちゃけるな。酒が入っているからか?


「明日の朝に迎えに行くから。」

「は?」

「だから、迎えに行くって言ってるだろ。」

「いや、いくら何でも可笑しくないですか?」

「唯一の女性社員だ。待遇は良くしないとな。」

「いや、良すぎます。それと、護身術をかじってるんで大抵の男は追い払えますよ?」


大抵どころか国をも潰すけどな。ははは。冗談じゃねぇのよな。


「その程度だろ。」


こいつ、私が結構強いってわかっていってんな。私が何も言えないからって調子乗ってんなよ。


「決まりだ。あと、もう一つ事務員用の携帯を用意しているからな。明日、給湯室に置いてあるはずだ。俺の部下の全員の携帯番号が入ってる。で、家にも持って帰っていいからな。てか、常にもっとけ。」

「それは、実質携帯二台持ちってことですか?」

「ああ、壊すなよ。」

「壊しませんよ。」


この男こわ。何?囲む気か?


「じゃあ、女子社員が増えたら同じ対応ですか?」

「いや、もう募集はかけていない。」


へぇー、私だけってことっすか。



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