不可能な事をした女
―パーティー1日前、ルシナはもう一度イズと戦った。明日は大事な任務があるので、どれくらい戦えるのか確認するのがねらいである。
まだトレーニングをする前にイズと戦ったのだが、その時は体術がなってないと言われ、体術のトレーニングにも力を入れた。
それはもう鬼畜なトレーニングだった。自分で常に治癒魔法をかけていなきゃ今頃体の節々を痛め、寝たきりになっていたのではないかと思う。そう思うと背筋がゾッとする。
治癒魔法と言ってもまだまだ未熟であり、家に帰ってすぐにベットで朝まで寝ないと疲れが取れなかった。
そんな過酷な事をしていたので、流石にレベルアップはしてるはず。まだまだあの人達には追いつけないが、一歩でもいいから近づきたかった。
イズはまた髪を後ろに結び、準備をした。
「―さあ、始めるわよ」
この一言で、ルシナも身構えて気を引き締める。
「来なさい…」
イズが手招きをしてそう言った。
ルシナは以前と同じ高速射撃ラピッドファイアを撃ち込み様子を伺った。
イズはそれを避けた後、瞬時にこちらへ向かってきた。
「――くっ……」
イズの蹴りをもろに受けた。脇腹に入り、呼吸が難しくなり胃の中の物を嘔吐しそうになった。
「私は背後から腰の上を狙ったのに…、微弱ながらも体は反応したようね…。やるじゃない」
イズは素直に称賛した。
ルシナはあまりの苦しさにリタイアをしようと思った。
でもそれではトレーニングする前と何も変わらない。そしたら今まで耐えてきた事が全て水の泡になってしまう。
それだけは避けたい…。
ここで諦めたら一歩どころか、半歩すらも近づく事ができない。
任務だってまともにできない。
それは嫌だ…。ルシナは痛みと苦しみを噛み堪え、立ち上がった。
脇腹も徐々に痛みが消えてきた。
「―ほう…。まだやれるのね?」
イズは立ち上がったルシナを見て、微笑んだ。
「はい…!」
「なら私も魔法を使おうかしら…」
「―――――」
イズは以前やったとき魔法を使うことは、無かった。
ルシナはただ黙るしかない。
ただ気になることもある。ライザーは魔法能力も身体能力も長けている。だから、いろんな属性の魔法も魔術を扱うことができる。
きっとイズさんも凄いのを使ってくるだろう――――。
「いくわよ!」
あまりの迫力に、声も出せなかった。すると彼女の左手に魔力の塊ができ、みるみる大きくなっていった。
「これを、あなたの使える1番強い魔術で防いでみなさい」
イズは自分の顔の3倍くらいはありそうな塊を掲げた。
塊は、さっきまではただの球体だったのに、今はバチバチと音を立てて周りに放電している。
「少し加減しているから当たっても死にはしないわ。それにもし防げなかったら、頑張って避けて。」
「―わかりました…」
ルシナはそう答えると、イズは塊をこちらへ投げた。
スピードは速くは無かったのですぐに反応することができた。咄嗟に左手を塊へ向け、風属性の応用魔法である【オンダ、デ、ビエント】という強風の波動を放った。
ルシナの放った魔術は、塊に衝突し押し合いが始まった。
「ぐっ……う…」
渾身の力を込めているが、押すことができない。向こうの塊もそこから動いていない。
「これを防いだら合格にするわ」
とイズが言った。
だがいっこうに動かない。力が足りない、そう痛感した。
でも塊の進向の妨げにはなっていて、進まないということは力が互角ということだった。
どうすればいい…
力を精一杯出し、僅かにできた余裕で考えを巡らせる。
まだ魔力は残っている。左手からは轟々とした波動が放たれている。
(右手を使って…)
左手を使う理由は、もっとも心臓に近い部分だからである。魔法は心臓から魔脈を通って放たれる。右手よりも左手の方が流れやすいため、みんな左手で魔法を扱う。
だからといって右手は魔法を使えないわけではない。ちゃんとした魔脈が流れているからだ。
でも同時に両手で撃つのはほとんど不可能に近い。そんな事できる人は今までどの偉人の本を読んでもいなかったから。
心臓が指揮官だとすると、1つの魔法これを1つの大きい軍隊だとしよう。その軍隊を指揮する事ができるが、それで手一杯なため、もう1つの軍隊は指揮できない、こんな感じである。
でも、これしか手が思い浮かばなかった。そんな急に力が飛躍して勝つ、なんていうのはお伽話の中だけだ。
ルシナは右手を構えた。
「何するつもり…?――まさか…」
「オンダ、デ、ビエント!!!」
右手から、左手と同じ魔術が放たれた。
塊はみるみる後退していき、やがて空の彼方へ吹き飛ばされていった。
ルシナは猛烈に心臓に負担をかけたため、その場に横たわった。
鼓動が忙しく、自分の耳に聴こえた。
「合格よ」
こちらに歩み寄ってきたイズがそう告げると、もう休んで明日に備えなさいと去り際に言った。
「あ、ありがとうございます…!」
イズはルシナがいない方向へ体を向けたときこう思った。
両手撃ちを成功させてしまった…
これは逸材だ。歴史上初めてかもしれない。
溢れ出る汗を誤魔化しながらシャワールームへと向かった。




