実技試験 ライバル誕生?
『第一円、アルベルト・サバラン!、クロエ・シフォン!』
名前を呼ばれた二人の生徒が、人だかりの中から颯爽と歩み出た。
一人は、見るからに自信ありげな、体格の良い金髪の男の子。
そしてもう一人は、燃えるような赤い髪をポニーテールに結い上げ、キリッとした釣り目が特徴的な、勝気で負けず嫌いそうな女の子だった。
「シフォン家……!」
マリアが小さく息を呑むのが聞こえた。
シフォン家。
その名を聞いて、私でもピンときた。
代々、王国の防衛の要である国境警備騎士団の団長を輩出している、武闘派として名高い名門貴族だ。
対する男の子のザバラン家も、武功に優れた有名な貴族であることは素人の私でも知っていた。
(第一試合から、名門同士の激突……。
き、きっと今後の参考になるよね! 少しでも戦い方を学ばなきゃ!)
私はワラにもすがる思いで、食い入るように彼らの円を見つめた。
周囲の新入生たちも、誰もが固唾を呑んで、これからの三年間の基準となるであろう第一試合に注目している。
審判を務める屈強な教師が、右手を高く上げた。
二人が木刀を構え、重心を落とす。
ピリッとした殺気にも似た空気が、円の中から周囲へと伝わってくる。
「――始めっ!!」
審判の手が振り下ろされた瞬間。
「「ッ!!」」
ダァァンッ!! と、地面を蹴り砕くような凄まじい音が響いた。
次の瞬間、円の中心で二つの木刀が激しく衝突し、バキィィィンッ!という、木と木がぶつかったとは思えないような甲高い破裂音が広場に轟いた。
「ええっ!?」 私は思わず素頓狂な声を上げてしまった。
……速い。見えない。
というか、私の動体視力では、二人がどう動いてどう打ち合ったのか、全く目で追うことができなかった。
ただ、木刀が激突するたびに発生する衝撃波がビリビリと肌を打ち、彼らが踏み込むたびに土埃が爆発するように舞い上がるのだけが見える。
どうやら実力は完全に拮抗しているらしく、一歩も譲らない激しい剣戟が繰り広げられているようだった。
(す、すごい……! 流石名門の騎士……!)
私はポカンと口を開けて、その人間離れした攻防に見入ってしまった。
参考になるならないの次元ではない。
あんなスピードで動けるわけがないし、あんな重い一撃を受け止めれば、私の腕の骨は粉々に砕け散るだろう。
(無理! 私じゃ絶対無理!! どう足掻いても死ぬ!!)
私の中の諦めメーターは、開始十秒で早々に振り切れてしまった。
試合は三分ほど続いた。
お互いに拮抗する激しい展開だったが、最後には赤い髪の女の子――クロエ・シフォンの動きが上回った。
男の子の木刀の軌道を紙一重で躱し、流れるような足捌きで懐に潜り込むと、彼女の木刀の切先が、ピタリと男の子の喉元に突きつけられた。
「勝負ありっ!! 勝者、クロエ・シフォン!」
審判の力強い宣言が響くと同時に、観客席と新入生たちから「おおおおっ!」という割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
「ふぅ……」 クロエは木刀を下ろし、額の汗を拭うと、とても自信ありげな、誇らしげな笑みを浮かべた。
負けた男の子も、悔しそうにしながらも「見事だった」と彼女の健闘を称えている。
これぞ騎士のスポーツマンシップ、といった美しい光景だった。
♦︎
ふと、円から出ようとしていたクロエが、群衆の中にいる私の方へと鋭い視線を向けてきた。
(えっ? な、なんでこっち見てるの……?)
私が首を傾げてあたふたしていると、なんと彼女は真っ直ぐにこちらに向かって歩いてくるではないか。
周囲の生徒たちが、勝者である彼女のために道を空ける。
その道の先には、オドオドと挙動不審に縮こまっている私がいた。
クロエは私の目の前でピタリと立ち止まると、私の特徴的な銀色の髪と、胸元の名札を値踏みするように見つめた。
「貴女が、あのティラミス家の長女ね」
「ひゃ、ひゃいっ!」
あまりの威圧感に、私の口から変な声が漏れた。 クロエはフッと不敵に口角を上げ、私の目を見据えて、はっきりと告げた。
「私、負けないから」
「……へ?」
「ティラミス家の名に驕らず、せいぜい上を目指すことね。いつか、私の前に立つその時まで」
それだけを言い残し、クロエはバサリと赤いポニーテールを揺らして、風のように去っていった。
あとに残されたのは、完全に思考が停止した私と、ざわめく周囲の視線だけだった。
(いやいやいやいや!!)
私は心の中で全力でツッコミを入れた。
勝つとか負けるとか、そういう以前の話なのだ。
少し前まで(むしろ今も現在進行形で)どうやって怪我せずに棄権するかしか考えていなかった私が、勝負の土俵にすら上がっていないのに!
なんであんなトップエリートから、最大のライバルみたいな扱いを受けているのか。
(めちゃくちゃ目立っちゃってるじゃないか……! やめてよ、私なんかただのモブ以下の落ちこぼれなんだから!)
私が顔を真っ赤にして両手で顔を覆っていると、隣のマリアが静かに闘志を燃やしていた。
「あの子……シフォン家の人間ね。わざわざ宣戦布告に来るなんて、流石名家としてのプライドが高いわ。
でも、負けてられないわね。私たちも頑張りましょう、ミコトさん!」
「は、はい……アハハ……」
マリアのキラキラとした瞳に、私は引きつった愛想笑いを返すことしかできない。
私は先行きが不安すぎて、もはやため息しか出なかった。




