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【嘘……私の体力低すぎ?!】王立騎士学校の魔法使い  作者: 仁科異邦


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実技試験からは逃げられない


 第一広場と呼ばれるその場所は、闘技場をそのまま切り取ってきたかのような広大な土のグラウンドだった。


 周囲にはすり鉢状の観客席が設けられており、すでに上級生たちらしき生徒たちが興味本位で新入生の品定めをしに集まってきている。


 グラウンドの中心には、石灰のようなもので白く縁取られた直径十メートルほどの円が、等間隔にいくつも描かれていた。


 どうやらあそこが、私の「処刑場」となるらしい。


「それではこれより、新入生のクラス分け実技試験を行う!」


 先ほど講堂で案内をした、軍服のようなカッチリとした服装の痩せ型の教師が、拡声の魔導具を片手にグラウンドの中心で声を張り上げた。


 彼の周りには、審判を務めるであろう屈強な教師たちが数十人、腕を組んで並んでいる。


「実技試験のルールは単純明快。あの白線の円の中で行う、一対一の対人戦だ。

武器は学校が用意した木刀のみを使用すること。

相手が降参するか、もしくは各円に配置された審判が勝負ありと判断した時点で決着とする!」


 教師の声が、風に乗って広場全体に響き渡る。

 新入生たちの間に、ゴクリと唾を飲み込むような緊張感が走った。


「試験は一人一回限りのチャンスだ。もちろん勝敗も重要な評価基準だが、それだけではない。

木刀の軌道、足捌き、体捌き、そして咄嗟の判断力や状況把握能力など、騎士としての素養を総合的に判断し、AからFまでのクラスに振り分ける! 心して挑むように!」


 その説明を聞きながら、私はどんよりとした気分のまま、自分の足元を見つめていた。

(対人戦……しかも一対一なのね……終わった。完全に終わった)


 そもそも、剣をまともに振れないのだ。

 カレン先生の元で魔法の修行(という名の天変地異の引き金)を始めてからというもの、重い剣を握ることは一切やめてしまった。


 最後に木剣を振ったのは、一体何年前のことだろうか。

 もはや剣の握り方すら怪しいレベルである。


 そんな私が、幼い頃から血の滲むような鍛錬を積んできたゴリゴリの騎士の卵たちと打ち合えばどうなるか。


 考えるまでもない。

 開始一秒で木刀を弾き飛ばされ、良くて打撲、悪ければ骨折だ。

(Fクラスでいい。というか、むしろFクラスの方が長生きできる気がする。ここは思い切って、棄権しよう。うん、それがいい)


 どんなに家で「ティラミス家の恥」と罵られようとも、命には代えられない。

 痛い思いをして晒し者になるくらいなら、自分から尻尾を巻いて逃げた方がマシだ。

 私はそう固く決意し、小さく息を吐いた。


「さて、試験を始める前に……何か質問がある者はいるか?」


 教師が周囲をぐるりと見渡す。

 今だ!

 

 ここで「棄権します」と手を挙げれば、この地獄から解放される。

 私は意を決して、「はいっ!」と右手を高々と上げようと肩に力を入れた。


 その、まさに直前だった。

「ああ、そういえば一つ言い忘れていたな。

まさかとは思うが……この中で『棄権』しようと思っている奴、いるか?」


 教師の言葉に、私の右腕がピタリと空中で硬直した。


「実技試験を棄権した奴は、この王立騎士学校においては『不要の長物』とみなす。

戦う前から背を向けるような臆病者に、国を護る騎士になる資格はないからだ。

当然、即刻退学だ。今すぐ荷物をまとめて、故郷に帰ってもらうことになる」


 冷や汗が、背筋をツーッと伝い落ちた。

「……まぁ、厳しい倍率を潜り抜けてこの学校に入学してきた精鋭たちの中に、そんな情けない奴がいるわけないか。ハハハッ!」


 教師は鼻で笑うようにして、新入生たちに強烈な釘を刺した。

 周囲の新入生たちも、「当然だ」、「棄権なんてありえない」とばかりに自信に満ちた笑声を上げている。


「ゔっ……!」

私は中途半端に上がりかけていた右手を、慌てて頭を掻くふりをして下ろした。

(け、怪我したくないし、棄権しようと思ってたのに……!!)


 完全に退路を断たれてしまった。

 退学になるのは構わない。

 しかし、ここで自ら棄権して「即刻荷物をまとめて帰れ」と言われても、私には帰る場所がないのだ。


 「騎士学校から逃げ帰ってきた」などと知れれば、あの厳しい父が私を屋敷に入れるはずがない。

 文字通り、路頭に迷って野垂れ死ぬ未来しか見えなかった。


 一人絶望の淵に沈み込み、顔を青ざめさせてガクガクと震えている私をよそに、隣ではマリアが両頬をパチンと叩いて気合を入れていた。


「絶対に勝つんだから……! エクレア家の名に恥じない戦いをして、絶対にAクラスに入ってみせるわ!」


「あぁ、いいなぁ……」

 私は虚ろな目でマリアを見つめた。

 私も、マリアや周りの新入生たちのように、自分に自信を持てる人間になりたかった。


 そうすれば、こんなに胃を痛めることもなく、堂々と胸を張ってあの円の中に立てるのに。


「それじゃあ、時間もない。早速第一組目の試験を始めるぞ! 名前を呼ばれた者は、指定された円の中に入れ!」


 無情にも、教師の開始の合図が広場に響き渡った。

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