↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【嘘……私の体力低すぎ?!】王立騎士学校の魔法使い  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/31

予定調和の悪

 光の届かぬ深い地の底。 王都の地下深くに張り巡らされた、忘れ去られた古代の地下水脈。


 そのさらに奥深く、湿ったカビの匂いと淀んだ空気が支配する巨大な石造りの空洞に、揺らめく青白い炎が灯っていた。


 炎に照らし出された石壁には、巨大な紋章が彫り込まれている。

 傲慢なる『獅子』の頭、狡猾なる『山羊』の胴体、そして底知れぬ悪意を秘めた『蛇』の尾。


 三つの異なる生命が混ざり合い、一つの歪な形を成した異形の怪物。 国家転覆を目論み、歴史の裏側で暗躍を続ける謎の闇組織――『キメラ』の象徴である。


 円卓を囲むようにして、深いローブを深々と被った数名の影が座していた。

 その中心で、青白い炎の光を顔の半分に受けながら、ひときわ重圧のあるオーラを放つ男が口を開いた。


「――計画の進捗はどうなっている、ザイン」


 男の名はギデオン。

 闇組織『キメラ』において、王都周辺の破壊工作を統括する最高幹部の一人である。


 顔の右半分を覆うように刻まれた醜い火傷の痕が、彼の残忍性と凄惨な過去を物語っていた。


 ギデオンの問いかけに、円卓の末席に座っていた小柄な男――ザインが、恭しく頭を下げて立ち上がった。


「はっ。ギデオン様の御心のままに。すべては我ら『キメラ』の悲願、この腐りきった王国の転覆のために、水面下で着々と進行しております」


 ザインはローブの奥で、ニチャリと粘着質な笑みを浮かべた。


「我々が第一の標的として定めたのは、この国の武力の根幹であり、未来の騎士たちを育成する心臓部――『王立騎士学校』。あの忌々しい学び舎を内側から崩壊させることこそが、王国を揺るがす最善の一手となります」


「うむ。王立騎士学校は、王国の防衛を担う王宮騎士団への最大の供給源。あそこから優秀な人材が輩出され続ける限り、我々が王都の中枢を陥落させることは難しい。それに……」


 ギデオンは、手元にある古びた銀のワイングラスを揺らしながら、目を細めた。


「あの学校の頂点に君臨する男。シルバ・サントノレ学園長……前王宮騎士団長でもあるあのヒグマのような男は、王国民にとって『絶対的な力の象徴』だ。あの男が健在である限り、民草は王国軍の力を信じ、我々に恐怖することはない」


 シルバ学園長の存在は、王国軍の士気を支える強固な柱であった。 彼が学園長として睨みを効かせている限り、騎士学校は難攻不落の要塞に等しい。


「だからこそ、だ」

 ギデオンはワイングラスをテーブルにコトリと置き、残忍な笑みを深めた。


「シルバの首を物理的に刎ねるのではなく、社会的、政治的に抹殺する。絶対の安全を謳う王立騎士学校の信用を地に墜とし、シルバを失脚へと追い込む。それが、我々キメラの第一歩となる」


「……御意に」

 ザインが深く頷く。


「頼んだぞ。して、具体的な手立ては整っているのだろうな?」


「はい。ちょうど良い催しが、間近に迫っております。――新入生たちの『課外活動』です」


 ザインの口から出たその言葉に、円卓を囲む他の幹部たちが僅かにざわめいた。


「ほう……課外活動、か」

「はい。入学から二週間が経過し、基礎的な座学と実技を終えた新入生たちが、初めて校外へと赴き、実戦形式のサバイバル訓練を行う恒例行事です。今年の演習場は、王都の西に位置する『緑の箱庭』に決定したとの情報が入っております」


『緑の箱庭』。

 そこは、王立騎士学校が新入生の実戦訓練のために徹底的に管理している森だった。


 定期的に騎士団が見回りを行い、強力な魔物は事前に討伐されている。生息しているのは、スライムやホーンラビット、ゴブリンといった、FランクからEランク程度の低レベル帯の魔物のみ。


 右も左も分からない新入生であっても、複数人でパーティーを組めば安全に対処でき、騎士としての第一歩を踏み出すには最適な場所とされていた。


「安全管理が徹底された演習林、か。そこには今年も、数多くの高位貴族の令息や令嬢たちが参加しているはずだな」


「左様でございます。シフォン家、エクレア家、オランジェット家、そしてティラミス家など、王国の中枢を担う名門の跡取りたちがこぞって参加します」


「くくく……素晴らしい」

ギデオンの喉の奥から、乾いた笑い声が漏れた。

「絶対の安全が保証されたはずの管理演習林で。未来の王国を背負って立つはずだった名門貴族の希望の星たちが、惨たらしく命を散らすことになれば……一体どうなるか」


「親である高位貴族たちは激怒し、学園の管理体制を猛烈に非難するでしょう。悲運な事故では済まされません。いかに前騎士団長であるシルバと言えど、責任を問われ、学園長の座から引きずり下ろされることは必定。最悪の場合、王立騎士学校は一時閉鎖、あるいは大幅な予算削減と規模縮小を余儀なくされます」


「そうなれば、王国の軍事力は数年のうちに確実に弱体化する。我々キメラが蜂起するための、最高の布石となるわけだ」


 ギデオンは立ち上がり、円卓を見渡した。 「だが、ザインよ。あの森は徹底的に管理されているのだろう? 新入生たちを確実に絶望の淵へと叩き落とすための『仕掛け』は用意できているのか?」


「もちろんでございます、ギデオン様。我々キメラの研究班が、古代遺跡から発掘し、復元に成功した『極上の品』をご用意しております」


 ザインはローブの懐から、厳重に鉛の箱に封印された一つの小さな石を取り出した。 箱の蓋が開かれた瞬間、地下空間の空気が一気に澱み、青白い炎が不吉な赤紫色へと変色した。


「それは……」

 幹部たちが息を呑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。