放課後なにする?
そして、放課後。 私は第一職員室の隅で、担任のガトー先生からたっぷり一時間の説教を食らっていた。
「初日からの遅刻、そして身だしなみの乱れ! Aクラスの自覚が全く足りていない! 貴様のその気の緩みが、戦場では命取りになるのだぞ!!」
「は、はいぃぃ……! 申し訳ありませんでしたぁぁ……っ!」
正座をさせられ、怒号を浴びせられ続ける。
朝の遅刻の件だけでなく、「自己紹介の時のあのふざけた目標はなんだ」というお叱りまでセットでついてきた。
私はひたすら平謝りし、涙目で解放されるのを待つしかなかった。
「……今日はこれくらいにしておく。明日からは五分前行動を徹底しろ! 帰ってよし!」
「し、失礼いたしましたぁ……」
ガラッ、と職員室の重いドアを閉め、廊下に出た瞬間。
私は壁に寄りかかり、魂が抜けたようにズルズルとその場にしゃがみ込んだ。
「うぅ……っ。足が痺れたぁ……。ガトー先生のバカヤロー。
こっちは朝、音速を超えて走ってきたっていうのに……誰も褒めてくれない……」
誰もいない廊下であることをいいことに、私はブツブツと恨み言をこぼした。
すると、廊下の角から、聞き慣れた明るい声が聞こえてきた。
「あら? ミコトさんじゃない。こんなところでしゃがみ込んでどうしたの?」
「……ま、マリアさぁぁぁぁぁぁん!!」
その姿を見た瞬間、私は立ち上がり、涙を撒き散らしながらマリアに思い切り抱きついた。
「会いたかったよぉぉぉっ! ガトー先生、めっちゃ怖かったよぉぉっ!!」
「ちょ、ちょっとミコトさん!? 重い、重いってば! 制服に涙と鼻水つけないでよ!」
マリアは少し引き気味に私の体を押し返そうとしたが、私はコアラのようにしがみついて離れなかった。
「先生に怒られたんでしょ? 朝の遅刻、大丈夫だった?」
「う、うん……なんとか命だけは取られずに済んだよ……。足の感覚はないけど……」
私は鼻をすすりながら、ようやくマリアから離れた。
そういえば、今の時間はとっくにホームルームが終わってから一時間以上が経過している。
「マリアさんは、まだ帰ってなかったの?」
「うん。今日は初日だし、少し『クラブ活動』の見学に行こうと思って残ってたのよ」
「クラブ活動……? 見学……?」
私の頭の上に、大量のクエスチョンマークが浮かんだ。
クラブ? あの美味しいサンドイッチ(クラブハウスサンド)を作って食べる活動だろうか。
私のポカンとした顔を見て、マリアは信じられないものを見るようにため息をついた。
「ミコトさん……また入学式の冊子、読んでないのね? というか、これに関しては冊子を読んでなくても、入学していれば常識として分かることなんだけど……」
「えっ、そ、そうかな?」
マリアは呆れ顔で腰に手を当て、私に説明を始めた。
「クラブ活動っていうのは、放課後に行われる課外活動のことよ。通称『部活』ね。
剣術の腕を磨いたり、戦術を研究したり、体を鍛えたり……同じ目的を持った生徒たちが集まって活動するの」
「へー! そうなんだ! 楽しそうだねぇ」
私が他人事のように感心していると、マリアはジト目で私を指差した。
「一応言っておくけど、これ、生徒全員『必ず』入らないといけないのよ」
「………………………………え?」
私の笑顔が、ピキッと固まった。
「も、もしかして……私も?」
「そうよ! 全員必須の義務。だから今週中に色々な部活を見学して、来週中には入部届を提出しないといけないのよ。
まさか、本当に何も知らなかったの?」
「し、知らなかったぁぁぁっ!!」
私は頭を抱えた。
授業だけでも精一杯なのに、放課後まで何かの活動を強制されるなんて! 私のなけなしの体力は、どう考えてもマイナスに振り切れて過労死してしまう!
「そ、それなら……!」
私はハッとして、マリアの肩を掴んだ。
「もしかして、お家に帰って英気を養う部活……そう! 『帰宅部』なんていう、素晴らしい部活があったりしないかな!?」
「いや……そんなの無いわよ」
マリアは冷ややかな目で、私の希望を秒で粉砕した。
「くっ……! 家に帰って寝るだけの最高の部活だと思ったのに……っ! なんて理不尽な学園なんだ!」
「あのねぇ……ここは騎士学校よ。放課後も鍛錬に励むのが当然じゃない」
私が悔し涙を流していると、マリアはふと表情を和らげ、ぽんっと私の肩を叩いた。
「せっかくだから、一緒に見学に行く? ミコトさん、部活のこと何もわかってないみたいだし、一人で探検したら絶対に広い校舎で迷子になるでしょ?」
「うっ……確かに」
朝、特別棟を探して半泣きになった記憶が蘇る。
「そ、そうだね! 部活っていうのもよくわからないし、ついて行くよ!」
私はマリアの優しい提案に、ありがたく乗っかることにした。




