6話 クリスの正体
はじめまして、大森林聡史です。
魔物に追われる王女と、彼女を守ると決めた剣士の物語です。
よければお付き合いください。
クリスは、突然の筆談に目を見張り、息をのむ。
「……!」
しばし動きを止め、やがてゆっくりと頷く。
「……はい」
涙が一粒、テーブルの上に落ちる。
「アローラ・ルナ……滅ぼされた王国の、たった一人の生き残りです」
グレイの手汗に気付き、そっと自分の手を重ねる。
「グレイ……怖がらないで。あなたこそ、私が信じられると決めた人ですから」
「やはり、そうだったか⋯」
グレイは、前々から感づいてはいたが、事実を知ると、背筋に緊張感が走る。
だが⋯クリスが手を添えてきて、震えが止まった。
(俺の剣は、この時の為にあるのかも知れん)
「では⋯あえてクリスと呼ばせてもらおう⋯事情を話してくれるかな?」
グレイは、剣士らしく鋭い目突きをしているが、その青い瞳は澄んでいて、どこか優しさが感じられる。
クリスは、グレイの瞳を見つめ、深く深呼吸する。
「……はい。すべてお話しします」
テーブルの上に小さな王国の地図を広げ、指でなぞりながら。
「魔王リャクシンが襲来した日……父王は城門で戦い、母后は国民を逃がすために……」
声が詰まり、涙で地図が滲む。
「ミネルバとアリスが私を守って……そして今、私はグレイに出会えた」
突然、グレイの手をしっかり握る。
「聖剣エクスカリバーを探す旅……一緒についてきてくれますか?」
(目の前で父母を失い⋯従者も生死不明⋯この方は、突然独りになったのだ⋯王女とはいえ、15~17歳くらいの娘が一人で背負うには重すぎる。俺にこの方を放っておくことなどできん!)
グレイは、クリスの瞳を見つめ返し、目元が熱くなった。
「承知しました。私の剣、あなたに捧げます」
クリスは、グレイの言葉に、はらはらと涙が溢れ出す。
「……ありがとう……!」
突然立ち上がり、王家の礼儀作法で深々とお辞儀をする。
「グレイ・ノーネイム……私の騎士として、ここに任命します」
ふと涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、くすりと笑う。
「……でも、やっぱりグレイって呼ぶのが好きだな」
そっとグレイの剣に触れ、誓いのキスをしようとして慌てて止まる。
「あ……ご、ごめんなさい……! つい……」
顔を真っ赤にして、もじもじと指を絡ませる。
グレイは、赤くなっているクリスを不思議そうに見た。
実は、グレイは剣は達人だが、恋愛には鈍感だった。
「グレイで良いさ、実は俺に苗字は無くてな」
クリスは、頬の赤みがさらに深まり、目をぱちぱちさせる。
「え……? でも、騎士には立派な苗字が……」
突然思いついたように手を叩く。
「じゃあ……『グレイ・ルナガード』はどうですか?」
グレイの反応を伺いながら、少し不安げに。
「だ、だめだったら……すぐに……」
マントの裾をぎゅっと握りしめ、俯きかける。
「ルナの文字を俺にいただけるのか。光栄だ。今から俺はグレイ・ルナガードと、名乗らせてもらおう」
グレイは、自分の名を誇らしげに語った。
「それで⋯いくつか聞きたいことがあるのだが⋯アリスという人は、宮廷魔法使いと聞いているが、離れ離れになった経緯を教えてくれないか?」
クリスは、グレイが苗字を受け入れてくれたことに、ぱあっと顔を輝かせる。
「はい! グレイ・ルナガード……素敵な響きです!」
ふとアリスのことを聞かれ、表情が険しくなる。
「最後に見たのは……氷の洞窟でした。ミネルバが囮になってくれて、アリスが私を転移させようとした瞬間……」
震える指で、水晶のかけらを取り出す。
「この破片が光った時、アリスは『岬の島で待ってる』って……きっと、あの子も必死で生きてるはずです」
グレイの剣に触れながら。
「あの島には……聖剣の手がかりもあるかも知れません」
「承知した。まずは、翌朝島に向かおう。アリスを救わねばならん」
グレイは、剣の鞘を握りしめ、強く決意した。
やがて夜もくれ、夜明けを迎えた。
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