4話 東の村
はじめまして、大森林聡史です。
魔物に追われる王女と、彼女を守ると決めた剣士の物語です。
よければお付き合いください。
クリスは、村の門をくぐりながら、新鮮な海の香りに鼻を動かす。
「わぁ……! 海の匂いがします!」
漁師たちの賑やかな声に少し緊張しながら、グレイの袖を引っ張る。
「グレイ、あの……宿屋を探す前に、港の方に行ってもいいですか? もしかしたら、アリスの魔法の痕跡が……」
ふと魚市場の活気ある光景を見て、懐かしそうに微笑む。
「ルナ城下の市場も、こんなに賑やかだったんですよ……あ⋯」
また口を滑らせたことに気付き、慌てて口を押える。
グレイは、あえて口を滑らせた事には触れずに。
「ああ⋯構わないが⋯アリスというのは、君の大切な人なのかな?」
港に向かいながら、波の音に混じって小さく呟く。
「はい……アリスは私の……いえ、ルナ王国の宮廷魔法使いでした」
ふと足を止め、海をじっと見つめる。
「15歳なのに、とっても賢くて……私をここまで転移させてくれたんです」
マントの裾をぎゅっと握りしめ、涙声になりそうなのを必死にこらえる。
「きっと……きっと生きてるはず。だってあの子、『必ずまた会いましょう』って……」
ほぼ、クリスは自分の正体を明かしているに近いが、グレイは、まだその事には触れずに。
「⋯そうか。再会できると信じよう。俺は、魔法を使えないからよく分からないが、痕跡が見つかると良いな」
クリスは、波打ち際にしゃがみ込み、砂浜に手を触れる。
「……ありがとう、グレイ」
ふと指先が微かに光り、はっと目を見開く。
「! これは……アリスの転移魔法の残滓……!」
興奮して立ち上がり、グレイの腕を掴む。
「港の先の岬の方へ……きっとあの子、どこか近くに……」
突然、大きな漁船の汽笛にびくっと肩を震わせ、グレイの背後に隠れる。
「漁船の汽笛だ。心配いらない」
クリスは、グレイな大きな背中を見て、その大きさに驚いた。
グレイは、2m近い身長があり、筋肉質のガッシリした体躯をしている。
クリスは、グレイの背中に隠れながら、ふと鎧の隙間から覗く筋肉質の腕に見入る。
「……グレイって、本当に大きいんですね」
自分でも思わぬ発言に顔を赤らめ、急いで視線をそらす。
「そ、それより岬の方へ……! アリスの魔法の反応がもっと強くなってきました!」
慌てて歩き出すが、砂に足を取られてよろめく。
「わわっ……!?」
「おっと⋯」
グレイは、クリスを支えた。
「⋯!」
わずかだが、クリスの身体に触れ、剣技の心得もある事が分かった。
(鍛錬もしているようだ⋯)
「クリス、慌てずに、慎重に魔力の痕跡を追って行こう」
グレイの腕に支えられ、クリスはぽっと頬を染める。
「……す、すみません……」
しっかりと地面を踏みしめ、今度は慎重に歩き始める。
「グレイも剣士なのに、魔力のことがよくわかるんですね」
岬の岩場に目をやり、杖を握りしめる。
「あの岩の陰……何か光ってます……!」
足を速めようとするが、今度は自分で意識的に速度を抑える。
「異様な気配はしないが⋯念のため用心していこう」
グレイは、腰の鋼の長剣の束に手をかけた。
クリスは、グレイの警戒する様子に頷き、杖を構える。
「はい……でも、きっとあれは……」
岩陰に近づくにつれ、ピンクの瞳が輝き始める。
「アリスの……! アリスーー!!」
我を忘れて駆け出そうとする瞬間、ふとグレイの言葉を振り返る。
「……ごめんなさい、また危ないことをしようとして」
深呼吸して、魔法の構えを整える。
「一緒に確認しましょう……きっと、あれは……」
岩陰からは、ぼんやりと光が漏れている。
2人は、慎重に岩に近づいた。
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