第8話 "絶界の去刀"の正しい使い方
「父のことは嫌いでしたが、実際に死ぬと悲しいものですね――だから、死ね」
"絶界の去刀"から解放されたと思ったら、再び閉じ込められてしまった。
"絶界の去刀"を持っているのは娘の方の合代さんだから、俺を閉じ込めることができるのは当然のことだ。
「ファンだって言ってくれたのになあ」
「親殺されてファンでいられるわけがないでしょう」
憎しみの言葉を吐きながら、合代さんは虚空に手を伸ばす。
手を伸ばした先の空間が破れて、穴が開く。
世界の破れが元に戻ると同時に、合代さんの手の中には日本刀が握られていた。
「無銘刀"斬鬼"。刀の魔道具で、効果は魔力強化の増幅です」
「つまり性能がいいだけの刀ね。小手先の魔道具で俺に勝てる?」
「こちらには"絶界の去刀"もあります」
冷静に口撃を返しながら、合代さんは抜刀の構え。
睨み合い。
先に動いたのは、合代さんの方だった。
「"斬"」
彼女は抜刀する。
その場で。
「あ? 空振り……?」
瞬間、危機を感じて咄嗟に体を前に倒す。
頭上を、風が掠る感覚。
「よく、対応できましたね」
彼女は言いながら納刀する。
「飛ぶ斬撃か……もしかして漫画とか読むタイプ?」
「いいえ」
厄介だ。
速さ故か、それともそういう性質なのかわからないが、斬撃が全く見えなかった。
「"斬鬼"を媒介にした固有能力発動で、効果をより強力にしているのか……。"斬鬼"の情報開示によって、リスクを背負ってさらに効果を強化している、ってところか」
「はい。しかし、そんな冷静に分析している暇はありますか?」
「俺の見立てでは、居合の時のみ飛ぶ斬撃が発動できる。その証拠に、お前は刀を鞘にしまった」
「……」
黙り込んで居合の構え。また、くる。
斬撃が来るであろう場所、右上に剣を構えて、斬撃を受ける。
かぁん、と甲高い音が鳴る。直後、床に刀身が転がる。
右こめかみからつぅ、と血が垂れる。
「……は?」
脳が認識した情報。
剣ごと斬られて、斬撃が右こめかみを掠った。
「これは?」
「"絶界の去刀"の、元々の能力ですよ。文字通り、世界を絶つ刀」
言われて、柄だけ残った剣を前方へ投擲。合代さんは軽いステップで避ける。
まず第一に、斬撃をすべて回避して接近すること。
そして、刀をかわして一撃入れる。
それが俺の勝利条件。
「厳し」
斬撃の速度は、見てから避けられるものではない。完全に直感頼りになってしまう。近距離で振るわれる刀をかわすのも難しい。
もう一撃の、抜刀。
直感でステップを踏むと、直撃は避けたが右腕の表面から出血。切り傷ができていた。
……おかしい。目の前の空間は斬れずに、自分の身体の付近のみ切り裂かれている。
飛ぶ斬撃ならば、斬撃が進む途中の経路も斬れているはず。
そもそも、"絶界の去刀"の固有能力で斬撃が飛ぶのはおかしい。原理がわからない。
これは、飛ぶ斬撃ではない……?
何度も居合を行う合代さんの姿を注視しながら、考える。そして気づく。
「斬撃が、居合と同時に発動している」
疑念が確信に変わる。これは飛ぶ斬撃ではなく――。
「斬撃を転移させている、ってところか」
「ご名答。『刀を振るうことで起こる影響』をあなたの近くに"転移"しています」
急に懐に潜り込むと、斬撃を転移させた位置と俺の座標がズレて、攻撃を少し楽に避けられるはず。前後に揺さぶりをかけるともっといいと思われる。
――踏み込み。
合代さんが刀を鞘から抜く瞬間に合わせ、バックステップ。服の全面が避けてしまう。
隙は、合代さんが刀を鞘にしまってから、刀身を鞘から抜き切るまでの間のみ。
――踏み込み。
斬撃の直前に体勢を低くして前転。速度を落とさずに回避。
合代さんまで、あと十歩。
立ち止まって、バックステップと見せかけて再び前方に踏み込み。
合代さんまで、あと二歩。
ここまでくると彼女は刀を鞘にはしまわない。
居合の残心から、袈裟斬りの動き。身を精一杯に屈めて回避。
――そのまま、左足で蹴り上げる!
「良いの入ったな」
腹にもろに蹴りを食らった彼女に、そのまま追撃の拳。
――届かない。拳には、まるで頑丈な壁に阻まれているかのような痛み。
「"絶界"」
「それ防御技にも使えるのかよ……」
すなわち彼女は、俺の世界と彼女の世界を切り離した、ということなのだろう。
最強能力の名に恥じない戦闘能力。
「仕切り直しですね」




