第7話 合代不動産
固有能力"絶界の去刀"。
見るからに強そうな名前をしているし、当然最強である。これまでにこの固有能力の発現が確認されたのは、ネットの情報によると一名。
その名は合代ではなかったはずだ。
合代さんが先ほど使ったのは、「世界を絶つ」というこの固有能力を活かして、現在地と目的地の間の「距離」を絶つ、"転移"。
「では応接室の方にご案内します。社長が伺いますのでお待ちください」
この言い方から察するに、合代さんが社長というわけではないみたいだ。
ふかふかなソファ形式の椅子に座る。ここでくつろぐのはさすがに常識知らず過ぎるので、背筋は軽く伸ばす。
「今日出会う人間が強すぎる……」
固有能力が"火炎放射"なのに俺以上の実力を有する先ほどの配信者。そして、最強の固有能力を持っている合代春穂。
合代さんの実力は未知数だが、"絶界の去刀"持ちということでかなり期待ができる。
そこで、ノックの音。
「合代不動産社長の、合代秋真だ」
「あ、小恋緑碧です。よろしくお願いします」
五十代後半から、六十代のように見える。スーツがよく似合う、まさに社長といった佇まいだ。それが緊張を引き立てる。
「春穂からはどのくらい話を聞いているかね」
「えっと、専属探索者になってほしいって話だけ聞きました」
「なるほど。では私から詳しく説明しよう」
話が長かったので必要事項だけまとめる。
ダンジョンに眠る宝は高く売れる。そこで、会社としてダンジョン探索の事業を行うことを思いついた。
そのためには実力者が必要。だから、実力が担保された専属の探索者を雇うつもりだ。
社長が話していたのはそういうことだった。
「あの凡骨劣太を殺した君は、かなりの実力者だ」
そんな名前のキャラ、呪術〇戦にいたような。
「どういう風な仕事になるんですか?」
「今のところ考えているのでは、成果報酬制にしようと思っている。つまり、君たちが持ってきた成果に応じて、会社の方から給料を払う。ただし我々以外にダンジョンでの成果を提供してはいけない」
それ、所属する意味ないんじゃ……。たぶんフリーとして働いた方が稼ぎもいいし束縛も少ない。
「配信者スレイヤーはできますか?」
「配信者スレイヤーを認めることたない。これまでも、そしてこれからも」
「じゃあいいです。西野ダンジョンはやめときます」
このダンジョンを拠点に活動している配信者も、近頃は減ってきた。ここに残るメリットはもうほとんどない。
「どちらにせよ、お前を逃がすつもりはない」
「え?」
空間が、彩りを失った。
真っ白な空間がただ広がる。
「春穂の固有能力"絶界の去刀"。それにより、この応接室を世界から切り離した」
「チートすぎる……」
「そして、私の固有能力"絶界掌握"は、"絶界の去刀"によって切り離された空間内でのみ、発動する」
強い制約。それだけ強い効果が発動される。
「この空間内での魔力の動きは、すべて私が管理する」
大気中にほのかに漂う魔力。そして、俺の中を巡る魔力さえも、社長の支配下に置かれる。
「社長らしい能力だな」
軽口を叩いても、実際は大ピンチだ。魔力が戻る見通しが立たないから、凡骨の時のように耐えているだけでは勝機はない。
だが相手の身体能力は中年。魔力なしでも殴り合ったら――いや、無理か。俺は魔力を使えないが、相手は魔力を使える。ありったけ身体強化されてはついていけない。
「わかった。専属探索者になる」
「追い詰められての言葉に、信用があるとでも?」
「信じてくれとしか言えない。俺くらいの実力者、なるべく手中に収めたいだろ?」
「……それは確かに事実だが、もし私が闇討ちされたら? 命は一つしかないのだ、簡単に信用できない」
合代不動産がここまで大きくなったのは、たぶん社長の慎重な性格と手腕のおかげだろう。
「"絶界の去刀"には、時間制限があるだろ」
「……」
当てずっぽうだが、当たっていたみたいだ。
「別に、時間制限まで逃げ回ってからゆっくり社長を殺してもいい。どっちにしろ俺の勝ちはゆるぎない」
自信満々に。
実際に戦闘になってしまっては、こちらの勝ち目は薄い。
社長に、時間制限までの短時間では俺には勝てないと思わせろ。
「さあ、どっちを選ぶ?」
「いいだろう、今は見逃してやる」
社長がそう言った瞬間、真っ白だった世界に色が戻り、輪郭が戻り、応接室の風景はすっかり元通りになっていた。
――今だ。
踏み込み。顔面に打撃。
よろけた社長相手に、"神威"の用意をする。
右拳以外の魔力をすべて右拳に集める。今後数分、魔力を使わないという縛りを結ぶ。
「魔拳流"神威"」
打撃が、脳を揺らした感覚。
顔面から多量の出血。失血死はしないだろうが、強い体調不良になることは間違いない。
勝利、か。
「せっかく綺麗な応接室だから、これ以上汚さないでおこう」
とどめを刺すことはしない。
このあたりからはもう離れるつもりだから、刺客の心配をしすぎる必要もない。




