第6話 最強能力の無駄遣い
急に聞こえた知らない声。若い女性のものだ。
「……誰?」
口ぶりからして、俺のことを知っているみたいだ。身内がやられた復讐の可能性が高いか。
「ファンです」
「そうだよな、初めてダンジョンに潜った時は不安だよな……いずれ慣れるから、大丈夫だぞ」
「不安じゃなくて、ファンです。視聴者」
「そんなわけがない。うちのチャンネルは男女比9:1なんだから女性視聴者はいない」
「その一割なんです私」
へえ、一割ってゼロだと思ってた。
「それで、何の用? サインとかはまだ考えれてないからまた今度ね」
「うちの会社の専属探索者になりませんか」
「……探索者とは?」
急に現れて急に異世界みたいなこと言う。
ダンジョンの性質からして、今のこの世界がダンジョン以前とは異なる世界だとも言えるが……。
「うちの会社では、ダンジョンを攻略する人のことを探索者と呼んでいるんです」
「なるほど。重役の人が中二病とかなのか」
めちゃくちゃ失礼なことを言っているような気もするが、正論だと思って受け入れてほしい。
「ところでうちの会社うちの会社って、どこの会社の誰さん?」
身元がはっきりしないやつに、はっきりしない会社の勧誘をされて、答えられるわけがない。
「申し遅れました、合代不動産の合代春穂といいます」
ツッコミが洪水のように湧いてくる。
合代姓ということは社長なのか? ファンだと名乗る必要はあったのか? そもそも彼女は本当のことを言っているのか?
「あれ、俺がダンジョン配信者スレイヤー配信をやってるのは知ってますよね?」
「はい、よく見てます」
「合代不動産にとっては邪魔なんじゃ?」
貴重な収入源のダンジョン入場料。それを定期的に支払ってくれるダンジョン配信者は、ダンジョン運営の上では必要不可欠な存在のはずだ。
「確かに収入は減りますが、絶対に赤字にはならないし問題ないです」
「絶対に赤字にはならない?」
疑問だったのでおうむ返しに聞き返す。
「そうです。ダンジョン内の整備はほとんどしていないですし、受付も急造のものなのでさほど費用は掛かっていません。武器の貸し出しは、壊した方が元手の半分を支払うことになっているので、ほとんど赤字になりません」
……絶対ではないんじゃん。
「それで、俺を勧誘してきたのか……」
「ここでは信頼を得るのも難しいですから、オフィスの方で話をさせていただけませんか?」
「……はい」
「ありがとうございます。それではお手を失礼します」
礼を言ったのち、彼女は俺の右手を両手で包み込むように握る。
あれ、手つないでる? 脈あり? ついに拗らせ非リアを卒業する日が俺にも……!
「"転移"」
彼女が唱えると、周りが急に眩しくなって目を瞑る。
不意打ちの可能性も考えて、目を閉じながらも警戒は最大限に……!
一瞬の後、彼女の手が離れていく。温かかったのに。
「目を開けてください、オフィスにつきました」
彼女の声を受けて、ゆっくりと目を開く。
最初に目に入った光景は、社畜複数名と立ち並ぶデスクトップパソコン。そこは本当にどこかの会社のオフィスみたいだった。
明るいところで再び合代さんの姿を見ると、それはまさに理想の存在だった。
少し明るいブラウンの髪が美しい光沢を放っている。目は大きく鼻筋は通っていて、肌には透明感がある。
身長は女性にしては高く、ダンジョンに行った割にスーツが綺麗だ。
体つきは細身だがしっかりしている。近接での戦闘に向いた体つき。
しかし、そんなことを急に話し始めては不審に思われるだけなので、脳内に浮かんだ一つの疑問をそのまま投げかける。
「今のは、固有能力?」
「はい。"絶界の去刀"です」
合代さんそれ最強能力です。




