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8 ミランダが悪役令嬢になりたい理由

 予想もしていなかった賞賛にむしろ恐怖を感じたミランダは、思わず後ろに控えていたハンナを見やる。彼女はいつも通り能面のような顔をしていたが、肩を震わせている。確実に、笑いを堪えているせいだ。やはり自分の姿はおかしいのだと確信を得たミランダは、ホッと胸を撫で下ろした。

いえ、どうして自分がおかしい姿をしていることに安心しなくてはならないのでしょう……。


「さて、行こうかミラ」

「行くって…どちらに?」

「依頼人が待つ場所へ」

「ここじゃないんですの?!」

「ここは些か、埃っぽすぎるからな」


 肩をすくめたフレッド。ベンとララは同調するように頷いている。

 ミランダはこのおかしな変装で外に出なければならないことに恐怖を覚えた。しかし、冷や汗ダラダラで行きたくないとごねようものなら、むしろララあたりが真っ先に面白がって連れ回すに違いないと思い、潔く諦めることにした。

 それに見方を変えれば、確実に自分だとはバレない変装ができているということである。あの侯爵令嬢ミランダがこんなおかしな格好をしているだなんて、誰にも気づかれないはずだ!


かくして、謎に自分を納得させたミランダは、諦めてすごすごと3人に付いていくのであった。


 

 キティは自分の目から次々と涙がこぼれ落ちていくのをもう、拭おうともしていなかった。大粒の涙は頬を伝い、膝の上で固く結ばれた手の甲に落ちていく。冷たいそれは次第に大きな粒となって、また手の甲から落ちていく。泣いても泣いても、どうせ気持ちは晴れないのだ。ならばいっそ、涙が枯れるまで泣き尽くしてしまえばいい。


 肩を震わせ、もはや声も出なくなったキティのそばには誰もいない。彼女は干からびた噴水のそばで小さく泣いているだけのちっぽけな存在だった。


「キティ嬢」


 その時、頭上から声をかけられた。顔をあげれば、そこにいたのは二週間ほど前に依頼をした人物、フレッドだった。

 フレッドは懐から見た目に反して清潔そうなハンカチを取り出すと、彼女に渡した。


「そんなに泣いたら、干からびてしまいますよ」

「そうだよ、キティ。もう泣かないで。大丈夫だから」


 暖かな存在に抱きしめられる。キティは彼女が誰か知っていた。彼女はフレッドの友人であるララだ。小柄な彼女に似合わず強い力で抱きしめられ、キティは思わず喉をひくっと鳴らした。


「俺たちが来たってことは、もうわかるだろ? 君の依頼が解決したってことだよ」


 にっこりと大きく笑ったベンがキティの前に目線を合わせるようにしてしゃがみ込む。彼の笑顔に、心がじんわりと温かくなるのを感じた。


「みんな…ありが…ヒィイ!?!」


 キティは奇声をあげた。それもそのはずである。ベンの後ろからぬっと現れたのは、長身で、謎の仮面を着たいかにも怪しい人物だったからだ。陽に反射して、黒い影となったかの人物は禍々しいオーラを放ちながら自分を睨みつけて(いるように感じて)いた。


「だ、誰?!!」

「ん? ああこの人は」

「お待ちなさいフレッド、説明はわたくしがしますわ!!! ていうかほら見たことでしょう!!!  この格好は怪しすぎますって!!!!」


 思ったよりも柔らかな女性の声だった。仮面の女性はフレッドに親しげに声をかけつつも、怯え切ったキティに向き直り、こほんとひとつ咳払いをした。


「申し訳ございません、キティ嬢。このような格好では不審に…いえ、恐怖に怯えるのもしょうがありませんわね……その、わたくしは決して怪しいものではなくてですね…なんというか……一介の…」

「お嬢様なんだよね!」

「お、お嬢様…?」


 


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