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10 ミランダが悪役令嬢になりたい理由


「…以上になります。キティ嬢、この後のことはあなたにまかせます。この資料を学園内にばら撒いてもいい。いっそ、新聞社にリークするのも手でしょう。社会的にアンソニーのことを終わらせることも、これをネタにして彼を脅すこともできる。あとはあなた次第です」


 フレッドの言葉にキティはしばらくの間、沈黙を貫いた。彼女は資料の入った茶封筒を大事そうに胸に抱え、そして顔をあげた。


「……ありがとうございます。フレッド様。ララ、ベン。それに、ミラ様。これは、私の切り札として、大事に取っておくことにします」

「取っておくって…それじゃあ何にもしないってこと?!」

「そんな、キティ。いいのか?」


 ララとベンは驚いたように声をあげた。しかし、キティは黙って首を振り、柔らかく微笑んだ。


「私、憧れてる人がいるんです。伯爵令嬢のミランダ様って方なんですけど、彼女も私のように好きな人に裏切られて、今でも対抗しているんですって」


 キティの口から思いもよらない名前が出て、思わずミランダは大きく目を見開かせた。フレッドは片眉をあげて、にやりとこちらをみてくる。そんな彼を睨みつけながらも、ミランダはキティの言葉に耳を傾けた。


「巷では、彼女のことを『悪役令嬢』って呼ぶ人も多いんですけどね。私は、ミランダ様はきっと、私のように男性から裏切られた方を代表して、クズ男を懲らしめてくれているんじゃないかって思うんです」

「キティ…」


 キティはへへっと笑いながら続けた。


「わかっています。ミランダ様は、私たちのような平民のことなんてきっと知らないだろうって。こんな…ひどいことが、この学園内で起きていることも知らないんだろうなって。でも、ミランダ様の成敗の話は聞いていて気持ちがいいんです。私がしたかったことを、全部してくれる。私がミランダ様のように強かったら、きっと、なんとしてでもアンソニーを懲らしめていた。けど、現実は…こんなものです。私がアンソニーに何かしたら、きっと私は殺されるでしょう。いいえ、私だけじゃない。家族にも……友人にすら被害が及ぶかもしれない。貴族と平民には……明確な違いがあるんです」


 キティの言葉は現実的だった。確かに、彼女の言う通りだった。平民である彼女がアンソニーに何かすれば、彼女の身に危険が及ぶだろう。


「では、その話は、わたくしからミランダに伝えましょう」

「え…?」


 ミランダは仮面越しにキティのことをじっと見つめた。驚く彼女に、ミランダは優しく微笑む。


「わたくしは、ミランダと…その、お友達なんです。彼女は伯爵令嬢ですから、このことを暴露したとして、アンソニーごときに何をされようとも、屁でもありませんわ」

「ミラ、お前…」

「もちろん、どうするかは彼女次第ではありますわ。けれどね、キティ嬢。ミランダはきっと、あなたの気持ちを理解してくれると思います。あなたの受けた傷を、彼女はこのままになどしないでしょう」


 ミランダの静かな言葉を聞いて、キティの目からみるみるうちに涙がこぼれ落ちた。そんな彼女にミランダは苦笑をこぼし、そっと彼女の目から涙を拭ってやった。


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