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蓮城さんのおうち

 あのあと、両親に猫と蓮城さんのことを話した。母の用意した有名和菓子店の羊羹を携えてお礼に行ってから、蓮城さんとは家族ぐるみの付き合いになり、千枝ちゃんと一緒に何度も彼の家に遊びに行っている。猫の様子を見るため……がメインではあるが、ゲームの蓮城探と蓮城さんに違いがあるのかを観察したいという気持ちもある。猫好きだというのは作中では描写がなかったし、もしかすると彼も千枝ちゃんのように全く違う人物になっているのかもしれないからだ。先入観をとっぱらってしまうためにも、前世での知識以上に現世の蓮城さんのことを知りたい。


「お邪魔します」

「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」


笑顔で迎えてくれた蓮城さん、と、その腕の中の猫。。


「モモも二人に会うの楽しみにしてたよね? ほら、ニャー!」


モモというのは蓮城さんが例の猫に付けた名前だ。蓮城さんがもともと飼っていた猫二匹の名前は、サバトラのオレンジっぽい目の方がソラで、真っ黒で黄色の目をした方がウニ。モモは緑目の三毛猫だ。蓮城さんはそのモモの腕を持って左右に振っている。モモに腕を凄い勢いで蹴られているけれど、痛くはないのだろうか。


「え、と、その……、モモちゃん……元気になりましたね」


 蓮城さんに促されて座布団に腰をかける。蓮城さんもモモを抱いたまま座った。思いっきり噛み付くモモに全く動じず笑顔の蓮城さんを見て千枝ちゃんが若干引いている。


「うん! やっぱり子猫は元気で可愛いね! 毎晩夜中に走り回ってるの。おかげで最近あんまり眠れてないんだ」


 笑顔が怖い。蓮城さんの顔をよく見ると目にくまがあった。それに少し充血している。


「あの、何度も申し訳ないんですけど、本当にモモちゃんを飼っていただいて大丈夫なんでしょうか? その……すごくお疲れのようなので……」

「だーかーら! 子どもがそんな風に気を使っちゃダメだって。そんな堅苦しい話し方、小学生らしくないぞ? 真一くんは頭もいいみたいだし、大人びてるからね。幼稚なままじゃいけないと思っちゃうかもしれないけど、背伸びしないでくつろいでくれていいんだよ。それに、モモを飼うのは俺が決めたことだ。もし君たちの家で動物が飼えるようになって、モモを飼いたいと言われても、俺はモモを渡す気はないよ」


 キャー! 『渡す気はない』だって! イケメンが口にしたら女の子速攻落とせる言葉じゃないか! 猫を抱えて撫で回しながら言い、それも使う相手が猫、というのが残念だ。当初の予想以上に蓮城さんは猫好きらしい。


「あ、今飲み物とお菓子持ってくるね。飲み物は何がいい? ジュースはオレンジとリンゴとグレープと野菜があるけど……」

「じゃあ、オレンジジュースをお願いします。千枝ちゃんはどうする?」

「私は、あの、お茶でいい、です」

「わかった。オレンジジュースとお茶ね」


蓮城さんが冷蔵庫へと向かったのを見計らって、千枝ちゃんが小声で耳打ちしてきた。


「お兄ちゃん、蓮城さんって、彼女さんとかいないのかな?」

「はっ!?」


 思わず大きな声が出た。いや、だって! まさか千枝ちゃんは蓮城さんのことが好き……? 許さん! 天使に恋愛はまだ早い! ましてや蓮城さんなんて年の差は犯罪級だし……まず攻略キャラはヒロインとの衝突を考慮すれば危ないし……。


「真一くんどうしたの? 何かあった?」


 シンクの向こうから蓮城さんがひょっこりと顔を出した。


「な、何でもない! 何でもないです!」

「そう? ならいいけど」


 蓮城さんの顔が見えなくなるのを待ってから、深呼吸をして千枝ちゃんに向き直る。


「……あのね、千枝ちゃん。お兄ちゃんは、千枝ちゃんにはまだそういうのは早いと思うんだ」


できるだけ優しく、つとめて冷静に言ったつもりだったが、何故か千枝ちゃんは眉間にしわを寄せてこちらをじぃっと見たまま動かない。そのまま三秒ほど静止した後、千枝ちゃんは私の袖をくいっと引っ張って、また耳打ちした。


「えっと、お兄ちゃん? お兄ちゃんの想像してること、たぶん間違ってるよ」

「へ?」

「いや、その……、私は蓮城さんのことが好きなわけじゃないよ。ただ、彼女さんがいたら、猫を三匹飼ったり、親戚でもない子どもを家に呼んだりって難しいんじゃないかなと思って」

「あ、ああ、なんだ。そういうことか。……よかった。うーん、それもそうだね。蓮城さんが飲み物を持ってきてくれたら、ちょっと聞いてみようか」


よかった。天使は天使のままだった。それに今、袖くいって! くいってしてくれた!


「お待たせ。……で、二人してなに話してたの?」


そこにお盆に飲み物とお菓子を乗せた蓮城さんが戻ってきた。


「あの、少し気になることがあって。答えにくいならいいんですけど、蓮城さん、彼女さんっていらっしゃるんですか?」

「ブッフォ!」


蓮城さんが飲んでいたお茶を勢いよく吹き出した。やっぱり聞いてはいけないことだったのだろうか。


「ご、ごめんね。汚いよね。いやあ、そんなこと聞かれるとは思ってなくて、ビックリしちゃった。……彼女、ね。いたよ」

「いた……ですか?」

「二ヶ月くらい前かな、フられちゃったんだ」

「えっ!? あ、ご、ごめんなさい! 意外だったから……」


千枝ちゃんが驚くのも無理はない。私だってびっくりした。


「蓮城さんがフられるなんて……そんなことあるんですか?」

「俺だってフられることくらいあるよ。……最後に彼女がうちに来た日にね、いつもみたいに猫と遊んでたら『私と猫、どっちが大事なの!?』って怒鳴られちゃって。『どっちも同じくらい大事だ、選べない』って答えたら、彼女泣き出してね……そのまま別れた」

「そこは、嘘でも『君に決まってる』って言うべきでしょ……」


 心なしか千枝ちゃんの声が冷たい。どうした天使。


「あはは……。そう、だよね。彼女を不安にさせるような行動を取ったのは俺だからね。それに、言い訳になるかもしれないけど、彼女には嘘を吐きたくなかったんだ」

「不安にさせるような行動って、具体的にはどんなことをしたんですか?」

「うーん……、何がダメだったのか、いまいちわからないんだけど……。そういえば、猫が原因で何回か出かける約束すっぽかしたことがあったな。ウニがちょっと病気しちゃっててね、よく病院に連れて行ってたんだ。彼女は毎回『それなら仕方ないよ。私と出かけるのなんていつでもできるし、ウニの体調の方が大切だもん』って、笑って許してくれたんだけど、やっぱり結構こたえてたのかなあ」

「あー、そうですね。女性はイベントごとを気にしますからね。優しい彼女さんだったみたいですけど、何回も続けば流石に辛いですよ」

「あとは……、これも彼女が家に来たときだね。俺が猫に引っ掻かれて怪我しちゃったんだよ」

「怪我って……今も腕すごいことになってますよね」


千枝ちゃんの言うとおり、血こそほとんど出ていないものの蓮城さんの腕には引っ掻き傷も噛み跡もたくさんある。


「いやあ、これくらいなら大したことないんだよ。そのときは動脈切っちゃってね、血が噴水みたいにピューって……」

「それ以上言わないで!」


痛そうな話は嫌いなんだ! グロいのだめ! ゼッタイ!


「彼女さんの気持ちがよぉーくわかりました。それは別れ話に発展するのも無理ないですよ。相手の方も猫好きだったらうまくいったかもしれませんが、目の前でそんな、血なんて……僕だって無理です」

「そっか……そうだよね。ああ、子どもの前でこんな話するなんて俺、ダメな大人だね。でも聞いてもらったらちょっと心が軽くなった気がする。ありがとう」

「そ、そんな! 無理に聞いたのは私たちの方ですから!」

「そうですよ! いろいろと失礼なことも聞いちゃって、すみません!」

「変に気を使われるよりはっきり言ってもらったほうが嬉しいよ。それにしても、本当君たちしっかりしてるよね。俺ももっとしゃんとしないと」



蓮城さんの家からの帰り道。遅くなると危ないから、と、四時半には蓮城さんの家を出る。


「千枝ちゃん、今日は楽しかったね。『ペットが原因で恋人と別れた』って話はよく聞くけど、まさか蓮城さんがそうだとは思わなかったなぁ」

「そうだね。……お兄ちゃんは、その、好きな動物とか、いるの?」

「好きな動物ねえ……。もちろん猫は好きだけど、うん、犬の方が好きかな。ゴールデンレトリバーとか。千枝ちゃんは?」

「わ、私!? 私は、えーっと……犬よりは猫の方が好き。犬は吠えるし、怖い、から。犬と猫以外なら、カエルも好き」


千枝ちゃんが前よりよく話してくれるようになったのが嬉しい。相変わらずあんまり目を合わせてはくれないけど。


更新が遅くなってしまいました!

個人的な事情で、しばらくパソコンに触れない期間があったので……。

読んでくださりありがとうございます。

これからも続けていくつもりなので、どうぞよろしくお願いします。

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